発育?発達?

2018.11.05
高島 二郎

「発育発達」という4文字熟語はどの辞書をさがしてもありません。発育・発達という表現を使うこともあります。教育,(保健)体育の分野では,発育を形態的な変化であり,発達は機能的な変化ととらえることが多いようです。
この二つの側面が,人間の加齢によりどのように変化するかを理解する手段として,授業では文部科学省HP の統計情報を使います。その中の「体力・運動能力調査」「学校保健統計調査」を学生の興味にしたがって分析,考察してもらいます。「体力・運動能力調査」は運動機能の発達を昭和39年から知ることができます。発育をみるには「学校保健統計調査」です。明治33年からデータがあるため,日本人の体格の伸びがよく分かります。また,歴史や経済に興味のある学生は,戦争や高度経済成長の影響を確認しています。

図 5歳児の身長の変化

数年前の夏期スクーリング,「(教科)体育」の授業でもこの課題をやりました。ある男子学生が,「最近,5歳児の身長,体重が減少しているようです」との分析成果を発表しました。私も毎年,このデータを確認しており,停滞か緩やかな減少かと感じていました。ほんのちょっとした変化ですが,この学生は見逃さなかったのです。その後も5歳児のデータは減少傾向を示しています。図のように男子で1994年の111.0cm が,2016年には110.3cm と変化しています。これは1976~1980年の数値です。女子は1987~1995年頃にピーク値110.1cm を示し,2016年には109.3cm で1976年の水準です。男女とも5歳児の身長が,約40年前の値になっているということです。その原因は何でしょうか。少子化?栄養?みなさんも考えてみてください。
今年のスクーリングでは,スキャモンの発育曲線を作成しました。1930年にTheUniversity of Minnesota Pressに掲載された,R.E.Scammonの論文中にある図です。20歳を100とした時の各部位の割合を発育とともに示します。一般型,神経型,リンパ型,生殖型で発育のテンポが違うことを確認できます。神経型については4歳で80%ほどになっています。各種早教育やスポーツ指導でのプレゴールデンエージという考えの根拠とされる場合があります。この曲線を自分たちで作成すると,この曲線が重量や長さの形態的な発育であると再確認できます。知能や運動能力は身体機能発達であり,形態の発育と同じに考えていいだろうかと疑問に思えます。身長,体重などの変化をとらえることはとても重要です。それに加え機能の発達を的確にとらえ,評価する能力も身につけたいものです。

プロフィール

  • 所属:教育学部 乳幼児発達学科
  • 最終学歴:東京学芸大学大学院 教育学研究科 学校保健学講座
  • 専門:学校保健学
  • 職歴:1993/04/01 玉川大学文学部教育学科 講師(現在に至る)
  • 著書:・玉川百科 こども博物誌 頭と体のスポーツ 玉川大学出版部 2018 共著
       ・教養としての健康・スポーツ 玉川大学出版部 2017 共著
       ・教科力シリーズ 小学校体育 玉川大学出版部 2015 編者
  • 学会活動:・日本学校保健学会 会員
         ・日本成長学会 会員
         ・日本児童学会 会員