あなたはどのような学習観を持っていますか?

2014.06.04
魚崎 祐子

皆さんは子どもの頃,何か習い事をされていただろうか。昨年末の冬期スクーリングの際,受講生の皆さんとの会話の中で,近頃の子どもたちの習い事が多様化しているのではないかという話が出た。その教室にいた皆さんに調査を行ったところ,たしかに年代が若くなるにつれ,習っていたこととして挙げられたものの種類が多かった。我が家に入るチラシやDMなども多様であり,野球や水泳などのスポーツ,ピアノやバイオリンなどの音楽,英語,学習塾のみならず,科学実験教室,ロボット教室など,こんなことを教えてくれる教室があるのだと驚かされる。そして周囲を見渡してみると,小学生はもとより,幼児でもいくつもの習い事に通う子どもが少なくない。

東(1994)*によると,育児や教育のタイプには「教え込み型」と「滲み込み型」とがあり,両者には大きな違いがあるとされる。「教え込み型」教育は近代以降の学校教育に見られるように,「教える者」(教師)と「教えられる者」(学習者)の役割がはっきり分かれて存在し,カリキュラムに沿って教えられる。

一方,「滲み込み型」教育では,教える者と学ぶ者との役割分化が曖昧であり,子どもは「自然に」学ぶという前提に立つ。たとえば野球チームに入り,簡単なことから難しいことへと配置された計画に基づいてコーチから習っていくのが前者の学びだとすると,近所の子どもたちと公園で野球をしているうちに,ルールを理解したり,上手な子の真似をしてコツをつかんだりしていくというのが後者の学びである。そのような考え方に基づくと,習い事の教室に通って先生から教えてもらうというのは前者の学習観による学びであることが多いだろう。

一般的に「教え込み型」の学習スタイルは,本人も周囲の人間も学んでいるということを実感しやすい。そのため,何かを習うことによって安心感を買おうとしているところがあるだろう。安くはない月謝を払って習っているからには,しっかりしたカリキュラムに基づいてしっかり教えてほしいという気持ちももっともである。一方で,意図的に何かを教えようとするがゆえに,短期的にその成果を求めようとしてしまうところもあるように思う。

自分がどのような学習観を持っているかということは自身の学び方に影響するだけでなく,教える側に立った際にも知らず知らずのうちに反映される。「教え込み型」の学習観を持っていると,無意識のうちに自分の持つものを伝えようとしすぎてしまうかもしれない。しかし,人々の学習には多様な見方があり,何をもって学習が成立しているとみなすのか,またそのためにはどのような道筋があるのかといったことについて正解があるわけではない。自分がどのような学習観を持っているのか,またそれにより学び方や教え方にどのように反映されているのかについて考えてみることにより,少し教育への見方が広がるのではないだろうか。

参考文献

  • 東洋(1994)『日本人のしつけと教育』東京大学出版会

プロフィール

  • 通信教育部 教育学部教育学科 助教
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 博士後期課程修了
    博士(人間科学)
  • 専門は学習心理学、教育心理学
  • 早稲田大学助手などを経て現職。
  • 著書に『Dünyada Mentorluk Uygulamaları』(共著、Pegem Akademi Yayıncılık、2012年)、主要論文に『総合的な学習の時間における教師の支援が生徒の情報選択に及ぼす影響』(共著、日本教育工学会論文誌(30)、2006年)『テキストへの下線ひき行為が内容把握に及ぼす影響』(共著、日本教育工学会論文誌(26)、2003年)などがある。
  • 学会活動:日本教育工学会、日本教育心理学会、日本教授学習心理学会、日本発達心理学会 会員