e-ラーニングの可能性について

2015.11.04
有賀 亮

e‒ラーニングに関して,音声言語の視点とICT の活用の視点から考えてみたい。この音声言語においては,文字化が可能で,書き言葉によって明示的に表現することができ,文脈から一意的にその意味を推測することが可能である言語情報(言葉の意味)が表現されている。しかし音声言語からは言葉の意味以外にも,音声におけるイントネーションの変化などによって話し手の意図や真意や感情,あるいは発話スタイルや個人の特性なども表現されている。つまり,話し手による意図的なイントネーションの変化などによって言葉の意味以外の情報も表現されているのである(Fujisaki 1997)。実際に音声言語において表現されるイントネーションは,音声言語の理解に際して重要な役割を果たしており,イントネーションのない平板な音声はその音声言語の理解を困難にしているのである。要するに,発話末におけるイントネーションの上昇・下降は,話し手の発話を聞き手が理解するのに影響するのである。ところで,日本の高等教育だけでなく,中等教育においてもインターネットを使った教育が本格的に展開されている。インターネットを使ったe‒ラーニングによる「いつでも,どこでも,だれでも,なんどでも」受講できる授業形態は,情報の伝達という点だけを見る限り,これに勝るものがないといえる。要するに,e‒ラーニングは学習者にとっては授業内容を正確に理解するまで聞き直すことができるため,授業内容の理解を深めるには効果的であるといえる。これに対して,従来の教室でおこなわれる対面式授業では1 回限りの再生不可能な授業であり,聞き逃すと確認することが難しいのである。
しかし,e‒ラーニングはヒトとヒトとが対峙する対面式でないため,話し手(教師)の音声言語において表現される様々な情報が発信されにくいのも事実である。例えば,BBS(電子掲示板)を使ったコミュニケーションではタイムラグが生じるだけでなく,意図したことが正確に伝わりにくいことが生じ,誤解を招くことも見られるのである。それは前述のように,言語情報(言葉の意味)以外の情報まで伝えることが難しいからである。その反面,現在では大容量の通信やストレージが可能になっており,教師と学習者間,あるいは学生間でのコミュニケーションを図るための手段として,テレビ会議システムやPC カメラなどの使用が可能になっている。そのことによって,ヒトとヒトとが対峙することのメリットを提供することが可能になるものと思われる。従って,双方向性のあるリアルタイムの遠隔学習は,テレプレゼンスをつくり出すことができるテクノロジーである(ドレイファス2002)。

参考文献
ドレイファス著,石原孝二訳(2002)インターネットについて―哲学的考察.産業図書
Fujisaki, H.( 1997) Prosody, Models, and Spontaneous
Speech. In Sagisaka, Y., Campbell, N. and Higuchi,
N. (Eds.), Computing Prosody: Computational
Models for Processing Spontaneous Speech: 27–42,
New York: Springer

プロフィール

  • 通信教育部 教育学部教育学科 教授
  • 玉川大学大学院博士課程満期退学
    早稲田大学大学院博士課程修了 博士(人間科学)
  • 玉川学園学術研究所、玉川学園女子短期大学を経て現職。
  • 専門分野に関しては、教育学における西洋教育史・教育哲学を中心に研究を進めていましたが、近年はそれに加えて教育工学における授業研究(分析)の研究も進めています。
  • 著書:『ペスタロッチー・フレーベル事典』(共著)、『教師論』(共著)、『新説教育の原理』(共著)
  • 学会活動:日本教育学会、日本教育工学会、日本教育心理学会 会員