割合の指導は難しい

2015.12.14
守屋 誠司

算数の教育内容で,子どもが理解困難な単元として5年生の「割合」がある。次の問題をスクーリング受講生に聞くが,正解率は60%くらいである。「ドイツでは買い物や外食したとき19%の消費税を内税とした代金を支払う。いま,レストランで食事をして41.9ユーロ支払った。税抜きの値段はいくらか。」答えは①41.9×(1-0.19)=37.29ユーロと②41.9÷(1+0.19)=35.21ユーロと③分かりませんの3通りに分かれる。さて,①,②のどちらが正解だろうか。この問題は,比の第3用法と呼ばれており,割合の中で一番難しい問題である。
下図は,2014年の全国学力状況調査6年生算数のB問題である。「あた」と呼ばれる単位を導入して,あたの1.5倍の長さはどれかが問われた。

比の第2用法と言われ,比較的正答率が高い問題であるにも関わらず,小学校6年生で,4を選んだ正答率は46.3%と低い。一方,1あたに1.5cmを加えた3を選択した誤答が28.4%もあった。
さて,もう一つの実態を示そう。私立文系大学生に次を出題し,ヒントとなる数直線も掲載してある群(有群)と,文章だけの群(無群)で,「立式」ができているかのみを調べた(進藤ら(2015))。

問題1 30cmの竹がある。そのうち18㎝切り取った。切り取った長さは,最初の竹の長さの何倍か。(第1用法) 問題2 あるクラス全体の人数は40人で,男子は全体の0.6倍だ。男子は何人か。(第2用法) 問題3 友人にキャンディーを15個あげた。あげたキャンディーの数は始めに持っていたキャンディーの0.6倍だ。始めに持っていた数はいくつか。(第3用法)

第3用法の問題の正解率が約50%と低い。最初の例と合わせて,子どもだけでなく学生でも割合が難しいという実態が見えてくる。

ところで,この調査からヒントとしての数直線が有るか,無いかは,正解に影響しないことも示唆された。日本では割合の指導の説明で,下図のように2数直線を一般的に使っている。

東京書籍『新編 楽しい算数5下』,2015,57より
しかし,割合の文章題を読み,この数直線をかいた上で,それを元にして立式し,解答する子どもは少ない。教師は,「数直線は思考を援助するのに有効だ」と思っているが,子どもにとって割合問題を解くための有効な道具となっているとは言えないのである。そこで,数直線をキチッと再指導した上で割合問題を解かせたところ,ある程度の効果が見られた。ただし,この方法でも完璧な理解には結びつかない。
割合ではいろいろな要因が重なって理解困難に至っている。一つ一つ要因を追求していくのが教材研究となる。まずは,教師が割合とは何かを理解することである。教科(算数)テキストとその学習指導書に詳しく掲載してあるので,是非,読んで勉強して欲しい。

進藤聡彦・守屋誠司,「割合に関する問題解決の困難さ-数直線の把握の観点から-」,日本教育心理学会第57回総会発表論文集,2015,605

プロフィール

  • 通信教育部 教育学部教育学科 教授
  • 東北大学博士課程情報科学研究科修了。博士(情報科学)。
  • 山梨県の公立小・中学校の教諭を勤めた後に、兵庫女子大学専任講師、山形大学助教授、京都教育大学教授を歴任。この間に山形県立保健医療大学、福島大学、大阪教育大学等の非常勤講師を務めた。京都教育大学名誉教授。山梨大学・東京福祉大学非常勤講師。
  • 専門は数学教育学で、教材開発や教育方法、数学的認知、比較数学教育、数学の文化史を研究する。
  • 数学教育学会理事。
  • 著書:『小学校指導法 算数』(玉川大学)編著・他多数。