科学するTAMAGAWA 音楽好きな子供を育て、豊かな人間性と感性を培う玉川の音楽教育

2014.02.25

玉川学園では学校生活の中に“音楽”がとけこんでおり、
その様子は「歌に始まり、歌に終わる」と例えられるほどです。
それまであまり音楽に馴染みがなかった子供でも、
歌が大好きになる玉川の音楽教育。
その秘密はどこにあるのか、
音楽教諭の長嶋 亨(ながしま とおる)教諭にお話を聞きました。
今回は授業風景のリポートも交えてお伝えします。

子供たちの生活を音楽で満たしたい―――創立者 小原國芳の願い

「こんにちは!」音楽室に一番乗りした児童が向かったのは、音楽室の中央に設置されているグランドピアノ。彼は楽しそうに校歌を弾き出した。他の子も木琴を叩いたり、音楽に関する絵本を読んだり、みんな自由に音楽を楽しんでいる。時間になり授業が始まった。最初はクラスコンサートで今日の演者は2人。大きな拍手をもらって嬉しそうだ。次は長嶋先生のピアノに合わせて子供たちがうたい出す。楽しそうに大きな声で次から次へと何曲も。児童は30名に満たない人数なのに、その迫力はまるでコンサートホールでの大合唱のようだった―――

これは、小学3年生の音楽の授業風景。ニコニコと笑顔で高らかにうたう子供たちの姿は、音楽が大好き、歌が大好きという気持ちであふれています。玉川の子供たちが音楽を心から愛する理由、そこには創立者・小原國芳の熱い思いがありました。
玉川では1日の生活が歌でつながっています。朝の歌、昼の歌、帰りの歌……子供たちは歌で生活リズムを整えます。礼拝では讃美歌を、体育祭や遠足などの行事では心躍る歌を、お客様には歓迎の歌をうたうといったように、生活のあらゆる場面に歌があるのです。それらの歌のほとんどは、学園創立期より音楽教育に従事した岡本敏明(おかもと としあき)によって作られました。「学園に音楽をあふれさせたいと考えた小原國芳が、『子供たちが喜んでうたえる歌を作って、子供たちの生活を音楽で彩ってほしい』と頼んだのです。岡本の手によって、すぐ覚えられて簡単にうたえる歌が次々と生まれました。誰もが知っているカエルの歌も玉川が発祥なんですよ」と長嶋先生は語ります。

創立者 小原國芳直筆の
“音楽のあるところ、悪は存せず”が書かれた愛吟集

“音楽のあるところ、悪は存せず(小原國芳)―――たくさんの楽しい歌、美しい歌で豊かな心・きれいな心・素直な心を育てたいと、誰よりも強く願ったのが小原國芳でした。音楽で心を育てる教育がようやく注目を浴びつつある昨今ですが、玉川では85年前から連綿とその教育を続けているのです。「教育とは“空気づくり”です。小原國芳が願った通り、いたるところから歌声が聞こえてきて、教師も職員も歌が大好きな玉川の空気が、音楽好きな子供を育てるのだと思います」。

音で遊び、音を楽しむのが「音楽」。その究極の形が作詞作曲

玉川学園では、児童の作詞作曲にも取り組んできました。ここから世間に出て広まった歌もたくさんあります。全国の保育園や幼稚園、小学校でうたわれている「すばらしい言葉」という歌も、玉川学園の児童が作りました。この歌をインターネットで検索すると、「子供が幼稚園でうたうのを聞いて感動した」「ぜひみんなに聞いてほしい歌」など、絶賛する書き込みが並んでいます。なぜ玉川の児童はこのような優れた歌を作ることができるのでしょうか。長嶋先生はこう話します。「どのように児童を指導しているのかとよく聞かれますが、作詞作曲のノウハウなどは教えていません。私たちが心がけているのは、“生活の中に楽しい歌がたくさんあふれる環境の中で、音楽を通して子供たちの心を育てる”ただそれだけ。たくさんの素晴らしい音楽に触れるから、子供たちは音楽が大好きになるのです。

音楽は『音を楽しむ』と書きます。音で遊び、音を楽しむのが音楽ですから、声を出してみる、楽器をならしてみる、そうやって遊んでいるうちにメロディができる、メロディができたら歌詞をつけてみる……音で遊ぶ究極の形が作詞作曲なんですね。だから、1年間に多いときでは300曲くらいできあがります。その中で特に素晴らしいと思う曲を私たち教師が編曲し、授業でうたうのです。私は今までに1000曲以上子供たちの歌を編曲してきましたが、どの曲もすべて覚えていますよ。学園創立85周年記念音楽祭では、今までうたい継がれてきた子供たちの作品の中からセレクトして発表します」。

我が家に音楽がやってきた!

こうした作詞作曲も、音楽が生活の中に自然にあって初めてできることだと長嶋先生は言います。

「『スタッカートだから弾むように』ということよりも、先ず無条件に楽しんで歌うこと。音“学”ではなく音“楽”へと子供たちを導いてあげることが大切なのです。音楽大好きな玉川の子供たちにとって、歌は生活の一部となっているのです。」
そのためには家庭の協力も欠かせません。長嶋先生は父母会では必ず、家でうたう子供たちを思いっきりほめてくださいとお願いしています。学園でたくさんの歌を覚え、うたうことが大好きになっている子供たちは、必ず家でも大きな声でうたうのだそうです。「歌は自己評価ができないんです。聞いてくれた人の反応を見て、うまくうたえたんだなとわかる。ですから、いっぱいほめることも歌を大好きにするコツなんです。先日ある保護者の方が、私に『我が家に音楽がやってきました』とおっしゃいました。毎日たくさんの歌を子供がうたってくれる。家の中に音楽がやってきて、にぎやかで楽しくて嬉しい、とのことでした。これを聞いたときは本当に嬉しかったですね」。
音楽がとけこんでいる日々の生活を通じ、豊かな人間性や感性を育んでいる子供たち。授業の最初に行うクラスコンサートは希望者制で、強制や指導は一切ないにもかかわらず、うたいたい、演奏したいとうずうずしている児童が次々と立候補します。「大好きなことをするのに、恥ずかしがったり嫌がったりする人はいないでしょう?もちろん人の発表を聴くのが大好きな児童もいます。うたう、聴く、何でもいいのです。演奏のあまりの素晴らしさに、聴いている子供たちが泣いてしまうこともあります。演者の心から奏でる歌や演奏だから、聴く者の心に届くのです」。

―――授業の後半はリコーダーの練習。長嶋先生がイントロをピアノで弾く。「ミッキーマウスマーチだ!」喜ぶ子供たち。3年生はここまでだよ、と言いながら「4年生が演奏するところもやってみる?」と先生。「やる!できる!」……座ってなんかいられないとばかりに、リコーダーを吹きながら立ち上がってしまう子もいる。指がついていかない子ももちろんいる。しかしみんな一生懸命で楽しそうだ。

「ミッキーマウスマーチ」の譜面をもらう様子

授業の終了後、数人の児童が「私のリコーダー、聞いて!」と長嶋先生を取り囲む。その演奏を聴いた先生は、「とても上手だね。そうしたら今度はアレンジしてみたら?もっともっと楽しくなるよ」そう言って、ミッキーマウスマーチを楽しそうに吹き始めた……玉川学園は今日も、音楽が大好きな教師と子供たちが紡ぎ出す音であふれている。