科学するTAMAGAWA 思考スキルを養う「学びの技」

2014.10.31

子供たちが課題について論理的に考え、それを相手にわかりやすく伝えるためには、
さまざまな思考の方法を身につけておくことが必要です。
玉川学園ではそのような考え方のバリエーションを「思考スキル」と位置づけ、
幼稚園から高校までの各学年で「学びの技」として、その養成に取り組んでいます。

「学びの技」その背景と目的

「学びの技」は、もともと9年生(中学3年生)が授業の一環として取り組んでいたもので、「テーマの決め方」「情報の集め方」「論文の書き方」といった、情報リテラシー(情報活用能力)に支えられた思考力・表現力を育てるのがその目的でした。
玉川学園では、2014年4月よりこの「学びの技」を発展させ、思考スキルを培うものとして、幼稚部から12年生までの全学年で授業として取り入れました。その背景と目的について、中学年教育部長でK-12教務委員長の酒井健司教諭は次のように説明します。

中学年 酒井教諭

これまでの日本の教育は、「講義型の授業」による「知識の伝授」を主眼においており、欧米の教育と比較すると、「自分の考えを伝える力」を育てることができていないという問題がありました。自分の考えを伝えるには、「情報を分析する力」「説明する力」「推測する力」が必要ですが、玉川学園ではそれらを「思考力」と位置づけました。そしてその思考力を幼稚園から8年生(中学2年生)では「比較する」「分類する」「多目的に見る」「関連づける」「構造化する」「評価する」という6つの行動レベルに落とし込み、スキル(思考スキル)として習得させようと考えました。9年生以上になるとその思考スキルを応用しつつ更に論理的に表現するスキルを加えて総合的な学習スキルの習得を目指します。それが今年度から全学年で取り組む「学びの技」の目的です。

「学びの技」を支える環境

「学びの技」を実践する舞台の中心が、「玉川学園マルチメディアリソースセンター(以下MMRC)」。図書館機能とICT環境が併存し、さまざまなメディアが集約する学習空間です。
このMMRCが設置された目的と、それが「学びの技」で使用されるようになった経緯について、玉川大学通信教育部の河西由美子准教授は次のように話します。

通信教育部 河西准教授

MMRCは、「情報を動かす場所」であることをコンセプトのひとつとして設計されています。それは、子供たちが主体的に情報を「動かし」、その空間をどう使ったら良いかを学べるように設計した、ということです。欧米では情報やメディアのリテラシーと、「図書館での本の探し方」「宿題の取り組み方」などの「学習のしかた=学習スキル」を合わせて習得する例が多く見られますが、MMRCもそのような目的のもとに設計されているわけです。
その点に着目し、9年生がMMRCを使って学習スキルの習得をめざす取り組みをはじめたのが「学びの技」でした。それを9年生以外の学年に発展させ、論理的にものごとを考えたり、表現したりするスキル=思考スキルの習得をめざして、今年から全学的に「学びの技」を授業として実施することになったわけです。
誤解のないようにいっておくと、「学びの技」はMMRCのような施設がないと実施できないということではありません。MMRCは、情報・メディアリテラシーや学習スキルの習得を目的として設置されたのであり、それが、「学びの技」がめざす思考スキルの習得という目的に、非常に良く合致したということなのです。

各ディビジョンでの取り組み

9年生学びの技ポスターセッションの様子

では、各ディビジョンでは具体的にどのような取り組みがなされ、それらはどのような成果を生んでいるのでしょうか。まずは、「学びの技」の出発点となった9年生、および、高学年の取り組みを紹介します。
説明してくれたのは、伊藤史織教諭、小林香奈子教諭、鳥海豊教諭の3名です。

9年生および高学年の取り組み

高学年 伊藤教諭

伊藤 9年生の「学びの技」は、各生徒がそれぞれテーマを設定し、それについてMMRCでメディアを駆使して調べることからはじまります。その後、探究マップなどの思考ツールを使用して論理的に情報を整理しながら、最終的に3,000文字以上の論文を全員が執筆し、ポスターセッションを行います。
テーマを決める際には、将来の夢や、学びたいことをヒントにすることを推奨しています。自分の関心があることなら、調べることも、それを人に話すことも苦にはなりませんし、モチベーションも上がります。生徒の中には、9年生の「学びの技」で調べたテーマについて、その後も継続的に追究し続ける生徒もいるほどです。このように、生徒のモチベーションの向上や、その後の主体的な学びにつながることは、「学びの技」の大きな成果だと考えています。

高学年 小林教諭

小林 10年生以降は「学びの技」の“応用”をめざし、より専門領域に特化した内容について、自由研究という形で展開します。自由研究に際しては、9年生の「学びの技」で使用したテキストをもとにつくった「自由研究ノート」を活用します。そうすることで、生徒にとっては9年生で一度使ったことのあるツールで自由研究を進めていくことができる。すると教員は、情報のまとめ方や論文の書き方を指導する必要がなく、より専門的な内容の指導に専念することができます。これは専門性を追究するという面において大きなメリットです。

高学年 鳥海教諭

鳥海 「学びの技」で培う論理的思考力は、ほかにもさまざまな場面で活かせます。たとえば、材料を集め、順序立てて構成する必要があるプレゼンテーションやレポートの作成、みんなでひとつのものごとをつくりあげること、例えば文化祭などの学校行事の運営などにも役立つでしょう。
また、最近の大学入試では、AOなど多様な入試方法が増えています。そこで大切なのは、自分の進路希望やその大学その学部の志望理由を順序立てて考え、それを的確に表現するための論理的な思考力や表現力です。

幼稚部の取り組み

次に、幼稚部での取り組みについて藤樫啓太教諭が説明します。

幼稚部 藤樫教諭

藤樫 幼稚部では「遊びは学びである」と考え「学びの技」も主に遊びを通して実践しています。具体的には、言語領域では文字をつなげて言葉をつくる「言葉作り遊び(ひらがなビブス)」や、数量領域ですと、シーソーを使用した重さを比べる遊びなどがあります。いずれにせよ、日常の遊びの体験を通して、現実的な言語感覚や数量感覚を身につけさせたいというのが狙いのひとつです。
もうひとつの狙いとして、子供の自発性を育てたいということもあります。たとえば子供が「警察ごっこがしたい」といえば、「何が必要なの」と子供たちに尋ねます。

幼稚部チャレンジプログラムの様子

すると子供の方からも「警察手帳が必要だから黒い紙がほしい」というように要望が出てきます。さらに、「警察はどんな仕事をするの」などと尋ね、子ども達のイメージを引き出し、遊びを具体化していきます。
つまり「どう考えているのか」「なぜそう思うのか」を教員が意図的に問いかけ、子供たちが自発的に考えたり、行動したりすることを促しているのです。このように幼稚部では、学習スキルや思考スキルの前段階としての自発性を培いたいと考えています。

低学年の取り組み

低学年 野瀬教諭

続いて、低学年での事例を野瀬佳浩教諭、青野耕一教諭のお二人に聞きました。

野瀬 低学年では年間で5時間、「学びの技」を授業の中に組み込み、1コマの授業で1つのスキルを取り上げて4月から9月にかけて学習していくことにしました。また、各教員がバラバラのやり方で授業を行うのも問題があると考え、あらかじめ教員用のテキストを作成し指導内容をそろえるように取り決めました。

低学年 青野教諭

青野 実際に行った授業は、たとえば「比較する」では「ベン図を使ってリンゴとみかんを比較してみよう」というごくシンプルな学習です。なぜならこの授業では、生徒が「何かを比較するときにベン図を使うと便利だ」ということに気づいてもらえれば良いと考えているからです。
もちろん最終的な目標は、思考ツールを教科の学習で使用できることですが、はじめからそれをやってしまうと内容が難しく、思考ツールのメリットも理解できない恐れがあります。ですから、はじめは簡単な内容で、思考ツールに触れてもらうことが大切だと考えました。

低学年ステップチャートを使った学習

野瀬 「学びの技」を実践したことで、ほかの教科にもいい影響が出ています。たとえば算数の時間には、自主的に長方形と平行四辺形をベン図で比較している生徒が見られました。このように主体的に考え、行動できる生徒をもっと増やしていきたいというのが私たちの願いです。

中学年の取り組み

中学年の取り組みについては、伊部敏之教諭、遠藤英樹教諭、田原剛二郎教諭の3名に聞きました。

中学年 遠藤教諭

遠藤 中学年は、自由研究の時間の中で年間5時間を、「学びの技」の学習に充てることにしました。その中で、「比較する」「分類する」という思考スキルについて、さまざまなツールを使って実践してみたのですが、子供たちの反応は非常に良好でした。通常の自由研究ですと、それぞれのテーマについて調べて発表するという流れになるわけですが、そこに「比較する」「分類する」といった思考ツールが入ると、普段とは異なる頭の使い方をする必要があります。それにより、子供たちの視野が広がったように思います。

中学年 田原教諭

田原 思考ツールの存在は、教員が児童・生徒を指導する上でも役立ちます。夏休みの課題で各自が調べ物をしてレポートにまとめるものがあるのですが、中には何かを丸写ししているようなレポートもあります。その場合は「写すだけじゃだめだよ」と注意はするのですが、では、どうしたらいいのか、これまでは、その方法論をしっかりと教えられていない部分があったと思います。
それが今回は、あらかじめ思考ツールに触れていたので「この図を使って整理してみよう」などと指導することができました。こうした経験を積んで思考ツールに慣れていけば、いずれは自分の判断で「このツールを使って整理してみよう」ということができるようになると思います。

中学年 伊部教諭

伊部 子供たち自身も、思考ツールを使うことで「自分が調べたものについて視覚的に整理できる」また、それにより「自分の頭の中も整理できる」とそのメリットについて話しています。また、6年生で「東京都統計グラフコンクール」に応募した児童は、思考ツールを使って情報を整理することで、「次に何をしたらいいのかが想像できるようになった」と話していました。それにより、表現方法や発表の順序がしっかり定まったのだと思います。

今後の課題と展望について

最後に、「学びの技」の今後の課題と展望について酒井教諭、河西准教授が検証しました。

酒井 「学びの技」と同様の探究学習は、いくつかの学校が既に取り入れはじめています。ただし玉川学園のように、幼稚園から高等学校まで一貫して実行している学校はまだありません。全学年が一貫して行うことで成果が積み重ねられ、思考スキルはより効果的に定着していくと考えています。

河西 もともと玉川学園には探究学習の伝統があり、実は1970年代くらいまでは、ゼミ形式の授業が多く行われていたと聞いています。しかし2006年にMMRCが完成したとき、ある先生が生徒をMMRCに連れてきてレポートを書かせようとしたところ、生徒たちの中には図書館での調べ方や書き方が身についていないことがありました。図書館に連れてくれば学習ができるというのは間違いで、やはりどこかで「学びの技」、言い換えれば「型」を教える機会が必要なのだと思います。

酒井 「学びの技」を全学的に実践して約半年が経ちましたが、その効果が非常に高いことはわかりました。今後の課題としては、これをどう検証し、次年度に向けてどう発展させていくか、また、その成果を各教科の学力向上にどう役立てていくのかということ。そのためには、我々教員にもまだまだ学ばなければいけない部分が残っており、日々試行錯誤を繰り返しています。難しい課題であることは承知していますが、玉川学園は全学を挙げて、「学びの技」の発展に挑戦していきたいと考えています。