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科学するTAMAGAWA 全人教育が根底に流れる中学部吹奏楽部

2014.12.24

全日本吹奏楽コンクールで銀賞を受賞した中学部吹奏楽部。
そこで取り組んでいるのは、単なる技術の向上ではなく、
玉川学園の全人教育がめざす一人ひとりの人間としての成長でした。

玉川だからできる吹奏楽

10月25日に名古屋国際会議場で行われた「第62回全日本吹奏楽コンクール・中学の部」で、玉川学園中学部の吹奏楽部が銀賞を受賞しました。全日本吹奏楽コンクール(以下、全国大会)は、野球でいうところの“甲子園”のような存在。全国の吹奏楽部が目標とする舞台であり、出場は易しいことではありません。

その夢の舞台に立つことができた理由のひとつは、玉川学園の日常に歌が根付いていることだと、吹奏楽部顧問の土屋和彦教諭は話します。「楽器を演奏するということは、自分の頭の中、身体の中で鳴っている音を、楽器を借りて表現するということ。自分の中に“音がある”ことがとても大切なのです。他校の吹奏楽部では、楽器の練習とは別に歌のレッスンを行うことも多いのですが、玉川学園の生徒には皆、その基礎が備わっています。ですから、あえて歌のレッスンをする必要がありません」。

このように、“歌に始まり歌に終わる”といわれるほど、音楽教育が根付いている玉川学園。そんな玉川学園だからこそできる吹奏楽部の取り組みについて、今回は紹介したいと思います。

男子生徒のみの4部合唱を披露してくれた
メンバーは5~9年生
(小学5年生~中学3年生)

教え合うことで生まれる学び

中学部の吹奏楽部という位置づけですが、玉川学園では一貫教育を行っているため、実際のメンバーは5〜9年生(小学5年生~中学3年生)です。「5年生は放課後練習は行わず、土・日の午前中のみ。6年生は夏休み明けから放課後練習に参加しています。朝は自由練習としていますが、5年生でも朝練に来て、上級生に一所懸命教わっている子もいます」と土屋教諭。

このように、上級生が下級生を指導する場面が多くなるよう配慮しているそうです。「普通の学校では、たとえば小学5年生が中学2年生から指導を受ける機会はありません。さらにいまは一人っ子が多いため、年の離れた子供同士の交流自体がとても少なくなっています。こうして子供同士で教え合うことは、縦の人間関係を学ぶ貴重な機会だと考えています。教える立場の中学生にとっても、どういう言葉を使えば相手によりよく伝わるのかを学べます。また、奏法にしても、どこが悪いのかを的確に指摘できるということは、自分がスランプに陥ったときにも何が悪いのかがわかるようになるということ。そういう意味でも、とても良い学びの場になっていると思います」。

実は今回の全国大会にも、5年生2人、6年生1人がメンバーに入っていました。「最初は5年生にやりきれるのか不安もありました。しかし、中学生のメンバーがとてもよく面倒を見てくれて、その結果、全国大会にまで進むことができました。特に印象的だったのは、コンクール当日、移動時間ギリギリまで中学生が5年生を指導していたこと。打楽器を担当していた5年生に対し、その基礎的な練習を、何度も何度も繰り返し指導していました。最後の最後まで努力する姿勢を中学生が小学生に見せる。その姿には感動しました」。

全国大会後には、参加した5・6年生に大きな変化が見られたといいます。「技術的なことよりも、むしろ精神的に成長したと感じています。中学生に交じって大きな大会に出られたことは、大きな自信にもなったはずです。吹奏楽でも合唱でも同じですが、音楽に言い訳や妥協はありません。それは中学生だろうと小学生だろうと、あるいはプロであっても無関係。だからこそ、努力や継続することの大切さ、あきらめない気持ちといった人間的な力を育んでくれるのです。それは音楽が持つ普遍的な力であり、だからこそ、玉川学園の全人教育には、音楽が欠かせないのです」。

良い演奏をするために

コンクールで良い演奏をするためには、高い技術も求められます。そのためには、“正しい奏法”を学ぶことが大切だと土屋教諭は話します。「正しい奏法を学ぶには、その道の専門家に教わるべきです。そこで楽器ごとにプロの指導者を招き、教えていただけるようにしています。また、中学生がプロから正しい方法を学ぶことで、それを小学生にも伝えていくことができます」。

そしてここにも、玉川学園の教育理念が反映されているといいます。「玉川学園では、『本物に触れる教育』を大切にしています。講堂には本物のパイプオルガンがありますし、各教室にはアップライトピアノが配置されています。『電子オルガンや電子ピアノだって音は良いし、調律もいらないから便利だろう』と仰る人もいますが、空気が送られて音が出るパイプオルガンのしくみを知ることも、調律の狂ったピアノの音に違和感を感じることも、立派な学びのひとつなのです」。

また、いろいろなことに気づいたり、周囲の人の気持ちを感じたりする心も育てたいと土屋教諭。「合奏では周囲の音を聴き、それに合わせてバランスよく演奏しなくてはいけません。ホールの広さ、お客さんの入り状況でも変わってきます。したがって良い演奏をするためには、広い視野をもって周りのことを感じられる感性が大切なのです。そうした感性は、練習の中だけで培われるものではありません。たとえば夏休みには、4日間の合宿を行っています。そこでは花火、バーベキュー、マスのつかみどりなどを楽しんだり、夜にはみんなで夏休みの宿題をしたりもします。いずれにせよ、基本的には子供たちの主体性に任せ、体調管理も含めて自分たちのことは自分たちでやるように促しています。そうすることで、自分たちの中から自然と規律が生まれ、集団の中でどのように行動したら良いかがわかってきます。ゴミが落ちていたら拾う、友達が忘れ物をしたら届けるということができるようになってきます。そういうことができるようになると、演奏の音も確実に変わってきます。このような感性は、社会のどこであっても必要とされるもの。それを身につけさせたいというのも、私たち教員の願いです」。

個を尊重する伝統

玉川学園には自由研究の伝統があり、現在もさまざまな分野の研究活動が行われています。その中には吹奏楽も含まれます。「吹奏楽の自由研究では、自分の使っている楽器について調べたり、中には楽器に合わせた曲を自分で作曲する子もいます。いずれにしろそれは、自分の興味に沿った「知りたい・やってみたい」という思いから生まれる個人の研究です。この理念は吹奏楽部にも息づいています。全体のために個があるのではなく、あくまでも個が優先される。『規則だから練習する』のではなく、子供たちの『やりたい』という意欲に応える。ここが他校の吹奏楽部と決定的に異なる、玉川学園ならではの特徴ではないでしょうか」。

それを象徴する出来事として、次のようなことがあったと土屋教諭。「若者に人気の『SEKAI NO OWARI』というバンドが、ヒット曲『炎と森のカーニバル』の吹奏楽アレンジをラジオ番組で募集していました。それを聴いた吹奏楽部の9年生の女子生徒がぜひ参加したいということで、私の知り合いの作曲家に頼んでアレンジしていただき、それを吹奏楽部で演奏して応募しました。するとそれがラジオで流れた上、グランプリに選ばれました。さらに番組中に女子生徒に電話がかかってきて『SEKAI NO OWARI』からインタビューも受けました」。

「このように生徒の『やりたい』という気持ちには、なるべく応えてあげたいのです。好きなバンドの曲を演奏して、それがグランプリに選ばれインタビューまで受ける。この女子生徒にとっては、夢のような話です。『夢は実現する』という成功体験は、後々まで、何かにチャレンジするための大きな力になります。これは全国大会も同じ。夢の舞台に立てたという経験は、子供たちの大きな自信になるはずです」。

次年度へ向けた想い

最後に、吹奏楽部の今後の目標について、土屋教諭は次のように話してくれました。「来年度も全国大会に出場し、次は金賞を取らせてあげたい。今年は銀賞を受賞しましたが、それで満足している生徒は一人もいません。こうしたコンクールではクオリティの高さが評価されます。子供たちもそのことは理解しているので、一年間、時間をかけて、クオリティに磨きをかけていきたいと思っています」。

また、曲選びから他校とは違う個性的なものにしたいともいいます。「来年1月に行われる『第48回東京都中学校アンサンブルコンテスト』では、書き下ろしの曲を演奏します。『楽市楽座』という和風の金管8重奏で、これまでにない作品です。技術的に難しかったり、演奏効果だけを期待した選曲では、技術の習得の部分だけを追ってしまう状態が生まれ、肝心の音楽の中身や音楽を楽しむことが子供たちに伝わらない恐れがあります。一方今回の新曲は、技術的に過度な負担はありませんし、子供たちでも理解できる内容になっていると思います。こうして新しい曲ができ、それが出版されれば、玉川学園だけでなく全国の子供たちにとって、音楽そのものに触れられるレパートリーが増えることになる。それはとても素晴らしいことではないでしょうか」。

玉川学園中学部吹奏楽部の活動の様子が朝日新聞出版発行「吹奏楽の星 2014年度版」に掲載されました。(※一部転載許諾済)

文/西村綾乃
写真/東川哲也(朝日新聞出版写真部)

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