科学するTAMAGAWA 自学自律と自然の尊重をめざす自由研究での「サンゴ研究」

2016.01.25

玉川学園の児童・生徒が5年がかりの研究の末、
サンゴの飼育と沖縄の海への移植に成功しました。
失敗と試行錯誤をくり返しながらも軌道にのせたサンゴ研究をさらに発展させ、
幅広く教育に活かす取り組みが始まっています。

5年がかりの悲願を達成

2015年10月、玉川学園の児童・生徒が飼育したサンゴが、沖縄県・石垣島の海に移植されました。これは、石垣島の八重山漁業協同組合から譲り受けたサンゴを、約5年間、試行錯誤で研究してきた成果です。サンゴの飼育は非常に難しく、度重なる失敗の末、ようやくここまでたどり着きました。
今回は、このサンゴ研究の目的や変遷、今後の展望を、5-8年生担当の市川信教諭、9-12年生担当の今井航教諭に聞きました。

失敗と試行錯誤のくり返し

そもそもの始まりは、6年生の理科の授業。環境学習の一環として、海の環境を学んだことが、きっかけになったと市川教諭は話します。

「その授業の中で、『海の美しいところと言えば沖縄』という話になり、石垣島での現地研修を行うことになりました。その際、現地の学校でサンゴの研究をしていることを知り、『自分たちもサンゴを飼育し、海の環境を守る活動がしたい』という声が、児童たちの間からあがってきたのです」。

そこで、現地の八重山漁業協同組合にお願いして現地のサンゴ(ミドリイシ)を送ってもらい、2011年より自由研究としてサイテックセンター内にある水槽でサンゴの飼育を開始しました。しかし、最初はまったくうまくいかなかったと言います。

「飼育のための知識も設備もなく、最初に送っていただいたサンゴは、2週間ももたず全滅してしまいました。その後も、何がいけないのかもわからない手探りの状態が続き、失敗の連続。現地の方や熱帯魚のブリーダーといった専門家に相談しながら、徐々に飼育のコツをつかんでいきました」。

その後も、沖縄県恩納村とのサンゴ返還プロジェクトを実施しているサンシャイン水族館のバックヤード研修や、日本サンゴ礁学会の見学研修、お茶の水女子大学でのサンゴの生態に関する研修などを重ね、サンゴ飼育に関する知識と技術を蓄積していきました。
「さまざまなノウハウを積み重ね、いちばんの問題は水質であることがわかってきました。熱帯魚の飼育や飲料水として問題ない水質でも、サンゴは育たないのです。そこで、微少な泡で汚れをとる装置や特殊な濾過フィルターなどを導入。試行錯誤を重ね、飛躍的に水質を向上することができました。その結果、2014年の終わり頃からようやく安定した飼育ができるようになり、今回の移植成功までこぎ着けることができたのです」。

成果を自信に学会発表へ

さらに、2015年11月26日〜28日に行われた日本サンゴ礁学会では、9~12年生の生徒がサンゴ研究の成果をポスターセッションで発表しました。

「学会ですから、他の参加者のほとんどは大学の教授や大学院生です。当然、生徒たちは緊張したと思います。しかし彼らには、さまざまなフィールドワークを通して得た知識と、実際にサンゴを飼育できたという成果がありました。そのことが大きな自信になったのでしょう。実に堂々とした発表をしてくれましたし、その場で出された質問にも、しっかり応えていました。このサンゴの研究を通じて、生徒たちが大きく成長したことを、明確に感じることができました」。

また、今井教諭は、学会で発表をしたことで、新たなつながりも生まれたと言います。
「例えば琉球大学の先生からは、ご自身の研究室に招待していただけるとお声掛けをいただき、国立研究開発法人 海洋研究開発機構の職員の方に、玉川学園で授業を行っていただけることになりました。このように、ますます研究の幅が広がることが期待されます。また、このような人と人とのつながりが道を拓いていくことを、生徒に示せたことは、キャリア教育としても有意義だったのではないかと考えています」。

SSHの教育プログラムとしても展開

玉川学園は文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定され現在Ⅱ期目を迎えますが、サンゴ研究はその教材としても活用されていると今井教諭は話します。

「サンゴの飼育が安定してできるようになった頃から、これをSSHの教育プログラムにしたいと考えるようになりました。サンゴ研究で大切なのは、現地に足を運んで学ぶ『フィールドワーク』と、自らの意思で探究する『課題研究』です。そしてこれは、玉川学園が掲げる12の教育信条のうちの『自然の尊重』と『自学自律』に重なります。そこで、『フィールドワーク』=『自然の尊重』、『課題研究』=『自学自律』という2本の柱で、サンゴ研究の教育プログラム化を進めていくことになりました」。

具体的には、2015年度はフィールドワークとして「サンシャイン水族館研修」「葉山スノーケリング研修」「石垣島・沖縄サンゴ研修」などを実施。今後もさまざまなフィールドワークを企画していきます。また、課題研究を進めるためのオリジナルワーク冊子の制作にも、取りかかっていると言います。
「玉川学園はK-12として一貫教育を行っています。一方で、7年生・10年生から入学してくる生徒もいます。したがって、どのような生徒でも、どの学年からスタートしても、課題研究を自分のペースで進めていけるワーク冊子が必要と考えました。そこで現在、問いや仮説の立て方から、実験計画の立て方、データの集め方、ポスター制作や発表の仕方までを、体系的にまとめた冊子の制作を進めています。同時に、玉川学園の国際バカロレア(IB)クラスが導入している評価基準『ルーブリック※1』を参考に、自らを客観的に評価し、意欲的に学んでいけるシステムを構築していきたいとも考えています」。

こうしたサンゴ研究の教育プログラム化は、生徒のさまざまな能力の育成に活用できると市川教諭は考えています。
「例えば、主体的に行動する力や、問題を発見・解決する力、自分の考えを発信する力など、社会人として求められる基本的な力を、サンゴの研究を通じて自然と養うことができるでしょう。また、サンゴは生態系や地球温暖化など幅広い問題に結びついており、その研究は、生徒の幅広い関心に応えることができるものだと考えています」。

  • 1成績評価・学習到達目標の可視化

学内外にさらに広がる研究フィールド

サンゴ研究の今後の展望について、市川教諭は次のように語ります。
「柱の一つであるフィールドワークの充実を図るために、新たなフィールドの開発をしていきたいと考えています。また、近年の地球温暖化によって、サンゴの分布が北へと広がってきています。そのような新しい領域の勉強も進めていきたいですね。一方で、学内の水槽では安定してサンゴを育てられるようになりました。次のステップとしては、産卵、受精、着床までのサイクルも水槽内で実現し、サンゴの完全養殖にも挑戦したいと思っています」。

また、玉川大学農学部との連携なども強化していきたいと市川教諭。
「共同で機材を購入したり、大学教授から実験データの扱い方についてアドバイスをいただくなど、大学農学部との連携を深めています。また現在、玉川学園の水質管理を行う環境技術センターが、キャンパス内でカキやアワビを養殖する施設『アクア・アグリステーション』の建設を進めています。そこにサンゴを移し、共同研究も展開していく予定です」。

さらに、学外で行われる大会での発表や情報発信にも力を入れていきたいと今井教諭。
「既にSSHの大会では発表を行いましたが、今後は環境・海洋関連の研究発表の大会などにも積極的に参加したいと考えています。また、サンゴを使った商品の開発・販売なども手掛けられないかと模索しています。そのように学内外に広くこの取り組みを発信することで、より研究の幅を広げていきたいですね」。

生徒のコメント

三橋 水樹香さん(11年生)

飼育環境を改善すると、それにサンゴが応えて大きく成長してくれることに楽しさを感じました。学会発表では緊張しましたが、発表後「高校生とは思えないレベル。もっと自信を持って良い」と言われ、これからもがんばろうと勇気づけられました。この研究を経験して、環境の大切さやフィールドワークの楽しさに気づき、将来は環境に関わる仕事に就きたいと思うようになりました。

西山 愛理さん(11年生)

研究を始めた当初は設備も整っておらず、知識もなかったため、多くのサンゴを白化※2させてしまいました。その頃は本とインターネットの情報を頼りに試行錯誤していましたが、石垣島での研修を機に、現地の方のアドバイスを得て、次第に飼育ができるようになっていきました。現地のフィールドワークを体験できたことは、本当にありがたかったと感じています。

  • 2サンゴにストレスが加わり、サンゴ内部において褐虫藻(共生藻)の凝縮、透明、分裂がおこり、光合成色 素・蛍光が喪失すること

南 春佳さん(11年生)

私がサンゴ研究を始めようとしたきっかけは、オーストラリアのグレートバリアリーフをみて、素晴らしい自然環境に魅力を感じ、守っていきたいと考えるようになったことからです。サンゴ研究では、ノウハウのない状態から少しずつ課題をクリアしていきました。この活動を通して「自分で原因を探す」ことや「自分たちで回答を導き出せる」ことを学べたと思っています。

寺島 海さん(10年生)

カルシウムの濃度が高い場合と低い場合で、サンゴの成長にどのような影響があるかを実験しました。カルシウムの濃度が高すぎると水が濁り、サンゴが死んでしまうなど苦労しましたが、大きく成長させることができたときは、とても嬉しかったです。今後は、光の色によって成長に差が出るかを調べたいと思っています。

齋藤 碧さん(8年生)

最初は育てるのに精一杯で研究どころではありませんでしたが、先輩方にいろいろ教わりながら、何とか飼育に成功できました。今後は、光がサンゴの成長にどのような影響を与えるかを研究していきたいです。

寺田 拓海さん(8年生)

まだよくわかっていないサンゴの生態に向き合うのが、とても面白いです。他の学校では体験できない取り組みなので、とても貴重な経験になっていると感じています。今後は、水槽と海ではサンゴの成長にどれくらい差が出るのかを調べてみたいです。