科学するTAMAGAWA 学園創立90周年に向け『こども博物誌』を刊行

2016.05.09

「これは何?」「どうなっているんだろう?」――。
ふしぎに思うことは、「わかること」の始まりです。
新しく玉川大学出版部から刊行する『玉川百科 こども博物誌』は
そうした子どもの「ふしぎに思う心」を育てます。

活字離れといわれる現代だからこそ、読んで理解するための本が必要

玉川大学出版部刊の“児童百科”

高等教育機関である大学には、大学の授業で用いられるような教科書や、大学の研究の成果をまとめた専門書などの刊行を主な業務とする出版部や出版局という部門があります。この出版部・出版局は日本全国の大学で約70団体あるといわれ、本学にも出版部があります。その歴史は古く、学園の創設と同時に発足(当時は玉川学園出版部)しています。その前身は1923年に設立された「イデア書院」で、全人教育を提唱した玉川学園の創立者・小原國芳が執筆した書籍を数多く刊行してきました。
「大学出版部のほとんどは、研究書や専門書、教科書の出版を行っていますが、玉川では児童書も刊行しているのが他との大きな違いです。日本初となる子ども向けの百科事典『児童百科大辞典』を刊行したのは1932年(昭和7年)のことでした」と語ってくれたのが、教育書や児童書の編集に携わる玉川大学出版部編集長の森貴志さん。2019年の創立90周年を迎える節目に向けて、『玉川百科 こども博物誌』の編集作業を進めています。
2016年5月に刊行されるにあたり、シリーズの特徴や今後の刊行スケジュールなど、出版部の森貴志さんとK-12 学園教学部の渡瀬恵一部長の二人にお話をうかがいました。

5月に刊行される『動物のくらし』

「これまでに『児童百科大辞典』をはじめ、『学習大辞典』、『玉川児童百科大辞典』、『玉川こども百科』、『玉川こども・きょういく百科』などの“児童百科”を刊行してきました。また、幼稚部から大学院までをひとつのキャンパスに擁する総合学園ならではの出版部という点から、最近では『ともだち』などの絵本、『科学キャラクター図鑑』などの児童書も刊行しています。しかし、“児童百科”は、最後の『玉川こども・きょういく百科』から30年以上が経ちました。学園創立90周年を迎えるにあたり、日本初の児童向け百科事典を出版した玉川の伝統を受け継ぐものをと、『玉川百科 こども博物誌』を企画しました。5年以上も前から、どのようなかたちのものが刊行にふさわしいのか、そもそも本としての刊行に値するのか、議論が重ねられてきました。結果として、玉川学園が刊行する“児童百科”らしく、これまでの8シリーズと同様に、分野やテーマごとに1冊としてまとめ、体系的でありながらもユニークな切り口で編集することになりました」

しかし、現代はネット時代。書籍や雑誌を取り巻く環境は大きく変化し、“活字離れ”なども大きな話題となっています。そうした状況で『こども博物誌』を出版するのはどのような理由からなのでしょうか。森さんはこう答えます。

「本離れは確かにありますが、文字に触れる機会や時間はむしろ増えています。これまでは印刷物によって文字に接していましたが、今はインターネットなどを介して手軽に文字情報に触れることができます。同時に高い検索性、簡単に調べられる効率性もあります。しかし、その手段によって得られた情報は表層的・断片的で、信頼性に乏しいものも含まれています。文脈や前後関係、背景までを伝える優位性は本にかないません。だからこそ、それぞれの分野の専門家の手によってしっかりとしたものを1冊の本のかたちでつくる必要があるのです」

統一のコンセプトと個別のテーマ性を備えた全12巻のラインナップ

『こども博物誌』は教員だけでなく、学校司書や学芸員、児童図書館員などがプロジェクトメンバーとして参画し、コンセプトを固め、以下の6つの特徴のもと、全12巻のシリーズが予定されています。

  • ▶小学校2年生から読める、興味の入口となる本
  • ▶すべて1人の画家の絵による本
  • ▶「調べるための本」ではなく、こともが自分で「読みとおす」本
  • ▶網羅性は追求せず、事柄の本質に目を向け、それぞれの「1つ」を説明し、伝える本
  • ▶読んだあと、世界に目をむける気持ちになる本
  • ▶巻末には、児童図書館員、学校司書らによる読書案内と施設案内をそれぞれ掲載
1冊につき1人のイラストで描かれている

「対象が小学校2年生からなのは、“この年齢期のための良書が少ない”という現場の声からです。幼児向けの絵本や中学年生以上向けの図鑑はありますが、本格的な学習が始まる前の時期に、学ぶきっかけ、考えるきっかけとなるものがありません。ページにはふんだんにイラストを用いていますが、写真では伝えきれないことや、強調したいことをわかりやすくするためです」
イラストを描く画家は1冊につき1人。複数の画家が分担して行うよりも時間がかかりますが、1冊を同じトーンでまとめることで、最後まで読みとおしてもらいたいからなのです。

玉川大学出版部では、『こども博物誌』を単なる百科事典や図鑑とは考えていません。読むことで知る、考える、という経験をしてほしい、読むことで情報リテラシーのトレーニングをしてほしい、という思いがあるからです。
「わからないことが明らかであればそれを調べればいい。でも、わからないことがわからないという場合もあります。そうした人たちの調べ学習の基礎になるような内容・表現としているのも特徴といえます。シリーズの2巻目『ぐるっと地理めぐり』は、クイズ形式で解答と解説を加える構成にしていますし、3巻目の『数と図形のせかい』では、算数を数字で解説するのではなく、読むこと、読んで理解することを意識した作りになっています。図形の展開図などは手を動かしながら理解するなど、それぞれのテーマに合った展開にしています」

『こども博物誌』のテーマ

『玉川百科 こども博物誌』(全12巻)
※2016年5月~2019年にかけて刊行
  • ◆動物のくらし
  • ◆ぐるっと地理めぐり
  • ◆数と図形のせかい
  • ◆昆虫ワールド
  • ◆音楽のカギ/空想びじゅつかん
  • ◆植物とくらす
  • ◆日本の知恵をつたえる
  • ◆地球と生命のれきし
  • ◆ロボット未来の部屋
  • ◆頭と体のスポーツ
  • ◆空と海と大地
  • ◆ことばと心

興味の入口として多分野のテーマを取り上げつつ、いわゆる百科事典や図鑑とは違った、興味をひくタイトルがつけられています。
「対象を低学年生からとしていますので、1巻ごとの網羅性よりも、掲載内容の絞り込みを重視しています。1巻目の『動物のくらし』では、取り上げる動物を日本の野生動物に限定しています。15種類の動物しか紹介していないと思われるかもしれませんが、そのぶん、一つ一つを詳しく解説しており、本質を理解する内容になっています。さらに、各巻の終わりに〈いってみよう〉というページを置き、掲載されている事柄を実際に見られるところを紹介しています。また、〈読んでみよう〉というタイトルで、司書推薦の本を紹介するなど、この1冊をきっかけに、読者の知識を深めることにも努めています」

世界的な教育の流れ−STEAM教育−を考慮したテーマと内容設定

日本では“理科離れ”“理数離れ”が言われて久しいのですが、これは子どもたちに限った話ではなく、科学技術に対する関心の低さは大人にも言えることです。また、それは日本を含む先進国全体でも共通してみられることであると、学園教学部の渡瀬部長は言います。

「世界の教育に目をむけると、STEM教育* に力を入れる流れがあり、それにアート(Art)を加えた“STEAM教育”へとシフトし始めています。STEAM教育を柱として、ますます複雑化する現代の社会問題を深く理解し、柔軟にかつクリエイティブに問題を解決することができるグローバルな資質や能力の育成を目指しているのです。アートには美術や芸術だけでなく、言語技術(Language Art)も含まれています。サイエンスも同様に自然科学だけでなく社会科学の分野も含まれます。自分で不思議に思うことをきっかけに、それを調べ、自分なりに考えてまとめるというプロセスを通して知識は蓄積されていきます。そうしたプロセスこそ、今の教育がめざすものなのです」

  • STEM教育:Science(科学)、Technology(工業技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の各分野とそれらの総合的な教育のこと
『ぐるっと地理めぐり』 ※編集制作中の校正紙

前出の『ぐるっと地理めぐり』では、内容の吟味に相当な時間をかけたといいます。
「教員が執筆していることもあり、ともすれば各教員の得意分野に内容が偏ってしまうこともあります。しかしそれでは編集意図とズレてしまう。そうした事態を避けるための話し合いをかなり重ねました。議論の中で、地理と食べ物を関連させるなどのアイデアも出てきました。現在刊行されているさまざまな本は、ランキングとか、いわゆる定番と呼ばれる情報が掲載されていますが、『ぐるっと地理めぐり』では、それらに扱われていない内容が紹介されています。そこには、トピックを通して科学させたい、知識として知っているだけでなく関連する情報も結びつけて、それらを考える力に昇華させたい、という思いがあるのです」と語る渡瀬部長に、出版部の森さんが続けます。
「プロジェクトの1回目の会議で、教室で使いやすいものがいいとか、いやむしろ学習指導要領にこだわる必要はない、といったさまざまな声が挙がりました」
最終的には、指導要領の一つ一つに沿うことはしませんでしたが、結果として最新の教育に合った内容になったそうです。

渡瀬部長は『こども博物誌』の意義をこういいます。
「生活科や総合的な学習の時間で“○○について調べなさい”という際に便利なのは、網羅的に説明が掲載されている百科事典のようなものでしょう。また、インターネットをツールにすれば、様々な情報を瞬時に手にすることができます。『こども博物誌』はそうした単純な検索とは一線を画するもの。むしろ、この本は何度も読み返していくもので、興味が芽生えた子どもに、知識の広がりと深みを与えられるものだと思います。玉川には幼稚部から大学院までの教育機関があり、それぞれにその専門家といわれる先生方が多数います。そうした先生方が蓄積された知をアウトプットするだけでなく、密な連携が図れるのも玉川のスケールメリットです」

『こども博物誌』は2016年5月の『動物のくらし』を皮切りに、4年で12巻が刊行されます(毎年度、5月、9月、1月に刊行。最終刊の『ことばと心』のみ学園創立90周年に合わせて12月)。
「いずれの巻も、児童書はどうあるべきかが出発点にありつつ、巻を通して子どもたちに身につけてほしいコンピテンシー(成果を生む望ましい行動特性)にこだわっています。」という渡瀬部長。
出版部の森さんは「教育の現場で活用されるケースのほか、図書館でひとりで読んだり、興味あるテーマの巻を家庭で親子で読むということもあるでしょう。本というメディアの表現に浸ってほしいです」といいます。
開くことで未知の世界を知り、読むことで理解を深める、興味をさらに広げる……「博物誌」の書名に、著者と編集者、さらに玉川学園の思いが込められています。

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