科学するTAMAGAWA 多様化する幼児教育・保育ニーズに呼応しながら保育の質的向上をめざす教育学部乳幼児発達学科の学び

2016.07.19

今、子どもたちを取り巻く環境は社会の関心も高く、社会が保育者に求めるニーズも変化しています。
そうしたニーズに応え、保育所、幼稚園、認定こども園など保育の現場で活躍できる保育者をどのように養成しているのでしょうか。教育学部乳幼児発達学科の学びの内容を、二人の担当教授の声から紐解いていきます。

保育の問題は、眼前のことだけでなく国の将来に関わる重要な事案

今、保育問題が国の大きな課題となっています。特に問題となっているのは、待機児童問題や保育士不足、そして保育の質です。そうした声に対応するため、内閣府による「子ども・子育て支援新制度」が2015年からスタートしています。新制度によって何がどう変わるのか、また、現場の声を踏まえた玉川大学教育学部乳幼児発達学科での保育者の養成などについて、乳幼児発達学科主任の若月 芳浩(わかつき よしひろ)教授と大学院教育学研究科教育学専攻の大豆生田 啓友(おおまめうだ ひろとも)教授に話をうかがいました。

「『OECD* 保育白書』で、質の高い保育がその後の子どもの成長やその国の将来に影響を与えるものとしてとらえられていて、OECD諸国では、国を挙げて“保育の質の向上”に力を入れています。日本でも新制度が進められ、保育の量だけではなく、質の向上が強調されている背景には、そうした世界的な流れを受けているのです」
保育の専門家としてテレビ番組や講演会などでも活躍する大豆生田教授は、現状をこのようにとらえています。
「しかし、保育園などの受け入れ数を増やす“量の増加”に対応することで精一杯になっているのが現状です。また、生活環境の変化などにより、学生が子どもたちとふれあう機会が少なくなっている現実もあります。そうした中で、重要になるのが保育者を養成する機関なのです。短期大学や専門学校など修業年限の短い教育機関もその役を担っていますが、子どもをより深く理解する力が求められているのが現状です。その力を身につけるためのカリキュラムや経験がどうしても必要で、少なくとも4年間はかかります。子どもたちを単に遊ばせるのではなく、遊びが主体的な学びとなるような要素を加えていくことは容易ではありません。小学校などと違い、教科書はありませんから、保育者がその場を提供していかなければなりません。また、この子はなぜ泣いているのか、どうしてケンカをしてしまったかなど、子どもの心や発達段階への理解がなければ一人ひとりへのきめ細かな対応にはつながっていきません」
保育者は目の前にいる子どもたちへの対応だけではなく、保護者に寄り添う家庭支援の役割も求められます。家庭での育児力が子どもの成長に大きく関わっているからです。

  • OECD(Organization for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)=先進国間の自由な意見交換・情報交換を通じて、経済成長と貿易自由化、途上国支援を行う機構。EU 21か国に加え、日本やアメリカなどの34か国が加盟。

幼稚園教諭としてのキャリアをもち、現在、幼稚園の園長も務める若月教授はいいます。
「保育者の養成と受け入れ量の拡大は1970年代の第2次ベビーブームのころから始まっています。当時は入園者が多く、そのとき重要視されたのが、規律に従って行事など一斉に子どもたちを動かしていくことでした。しかし、少子化により園は長時間保育などニーズに合わせた特色を打ち出すようになりました。それぞれの時代に合わせた方向へ転換していくという意識はあるのですが、保護者の中には幼稚園や保育園に通わせれば教育的なことが受けられるというイメージが残っていたり、文化や地域性から保育内容の見直しに抵抗感をもっていたりと一部でギャップが生じています。また、新たに保育者になった人も、大学で学んできたことと現実とのギャップに戸惑っています。“保育の質の向上”には学びを受ける学生の質を高めていくことは不可欠ですが、同時に現実とのギャップを埋めていくことも大切なのです」
目に見えるわかりやすい部分に注目されがちですが、なかなか見えづらいところでの質をどう可視化するかがポイントになりそうです。

保育の質を高めるために体験を重視した教育を多彩に展開

赤ちゃんとお母さんにふれあう

乳幼児発達学科では、希望者は全員、幼稚園教諭一種免許状と保育士資格を取得できます。
大豆生田教授は「社会的な構造として幼保一体化の流れがあり、現場では両方の知識を持った人が求められています。玉川大学では、1年次の参観実習、子どもたちとふれあいながら学ぶインターンシップなど、3〜4年次の保育実習・教育実習の前に現場を知る機会を設けています。また、3年次からは自分のコアとなるような分野を体験的に深く学ぶゼミナールもあります。例えば、カナダでは小学生のころに赤ちゃんやその母親とふれあうプログラムがあります。玉川でも授業やゼミを通してそうした機会を設け、子どもと積極的に関わることや母親の気持ちの理解を図っています。こうした経験は、子どもを理解し、保護者を肯定的に受け入れるということにつながっています。その共感姿勢は保護者の相談に応じる力になっていくものです」

●4年間の学び

過去のコスモス祭 教育学部展
保護者対応のためのロールプレイの様子

「学生たちを見ていると、子どもたちと接する体験が少ないように感じます。そこで、コスモス祭(大学祭)の教育学部展では、子どもたちが遊べる場を提供して、子どもたちの目線でふれあうことを継続的に行っていますし、幼稚園に1泊して子どもと同じ体験をすることで理解を深めることも実践しています。保護者対応についても、ロールプレイなどを通して対応の仕方を学んでいます。『保育内容の指導法』では、人間関係、とくに貧困などの問題を考える授業を行っています。大学に通う学生たちは、比較的豊かな環境で育ってきた人が多いといえるでしょう。保育者となるにあたり、それはとても良いことなのですが、反面、貧困を具体的にイメージできないこともあります」と語る若月教授。発達障害などについても、それを認めて当たり前と思うだけでなく、共に生きる人という意識をもつことが大切だといいます。
しかし、社会全体として受け入れる体制が整っているかというと、決してそうではないようです。2016年4月より障害者差別解消法が施行され、社会として受け入れていこうという流れは小学校ではできましたが、幼稚園・保育園は努力義務にとどまっています。若月教授は、幼いころから共に過ごす経験をすることが最も大切だといいます。

農学部の農場を利用しての“どろだんご作り”

大豆生田教授が担当する『保育内容総論』では、遊びを体験することで子どもの気持ちの理解を深めていきます。
「泥ダンゴづくりなどでは、一人ひとりの個性が垣間見られて面白いですよ。一見簡単そうに見えますが、90分という制約の中で堅くて光るダンゴをつくるのはけっこう難しいのです。子どもたちは自分たちが見出したこだわりの方法で堅くて丸くてぴかぴかの泥ダンゴをつくっていきますが、そうした経験がない学生は、どうやって良いのかわからず途方に暮れていたり、少しの失敗ですぐに断念してしまったりもします。それでも“遊び”は遊びの中で作業を続ける意欲や目標に粘り強く向かっていく気持ち、人とのコミュニケーションといった非認知能力を鍛えることができるのです。これらの能力は、人の成長に大きく関わっていて、後々の人生に関与しているという研究もなされています。学生は子どもになって本気で遊ぶ体験を通して、そうした経験の大切さを実感します。そして、幼児期に遊び込むことは、小学校以降の学ぶ力や、知的好奇心の素地とも言えるアクティブ・ラーニングに通じるものであることも学ぶことになるのです」

さらに質を高める学びの環境を整備し「働きながら学びたい」に応える

夜間コースの講義、安全教育について話し合う

質の高い保育者となるための教育を受けた学生たちは、どのような道に進むのでしょうか。
若月教授は「自分が幼稚園教諭に向いているのか、それとも保育士なのか、迷いながら進路を決めていく学生ももちろんいます。うれしいことに学生数の数十倍もの求人がよせられ、毎年全員が就職を果たしていますし、そのうちの数名は社会福祉施設に就職しています。実習への評価が高く、とくに子どもの内面を見る力に長けていると言ってくださいます」。そして、「子どもたちを上手に動かすこと=実践力ととらえられがちですが、質の高い保育で必要な実践力とはそのことではありません」といいます。
大豆生田教授が続けます。「幼稚園や保育園での実習で大切なのは、子どもが主体的に環境にかかわる中でどのような興味関心を持っているかを見極め、次の保育に活かしていくこと。つまり実践力は、目の前の子どもの状況に応じてふさわしい手立ての引き出しを持つことでもあります。だからこそ、ワークを学生にたくさんしてもらっています」

質の高い保育者の育成は大学の果たすべき責任でもあります。玉川大学では、2016年4月から教育学研究科教育学専攻修士課程 乳幼児教育研究に夜間開講科目を設定しています。指導にあたるのは、若月、大豆生田の両教授です。
保育の現場に精通する若月教授は、「学び続けたい気持ちはあるが、現場に入ってしまうと日々の保育に追われ、学ぶための時間を確保するのが難しいという声をよく耳にします。幼稚園教諭や保育士になるためにはそれぞれの免許・資格が必要ですが、施設長にはそれらの資格が必ずしも必要ではありません。しかし、保育の質を確保するうえで、それで本当に良いのかとなるでしょう。幼稚園教諭免許のみを保有している人が保育士資格を取得する、またその逆のケースも、これから増えていくでしょう。そうしたニーズに応えるのも大学の使命です」といいます。

このカリキュラムの特徴は、平日(月曜・金曜)の18:20~20:50に科目が開講されることだけでなく、昼夜開講科目を選択でき、夏期・冬期等に開講される集中講義を受けることで、最短2年間で専修免許が取得できること(幼稚園教諭一種免許取得者の場合)。

「幼稚園教諭や保育士の社会的地位向上にはリーダー養成が不可欠で、現場レベルでそう思っている方は多くいると思います。そうしたニーズに応え、働きながら学べるのがこの夜間コースなのです。リーダーを養成するからといって施設長やそれに準ずる役職の人のみを対象としているわけではありません。実際には、担任しながら通っている方もおり、子ども理解や家庭支援等、日々の保育にも生かされていると語ってくれています」と大豆生田教授。

教育学研究科教育学専攻修士課程乳幼児教育研究では、最短2年の修学年限だけでなく、無理なく学修が進められるよう3年、4年の長期履修学生制度もあり、研究的視点を持った保育者・教育者をめざす教育現場で働く社会人の学修を積極的に支援しています。