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科学するTAMAGAWA 未来型農業システムのカタチが見えてくる「Future Sci Tech Lab」の7年間

2017.12.07

2010年に開設したFuture Sci Tech Labは、1階に「植物工場研究施設・宇宙農場ラボ」、2階に「超高速量子光通信施設」と近未来の実用化が期待される2つの先端的な研究拠点となっています。
そのうち「植物工場研究施設・宇宙農場ラボ」では、独自に水冷型ハイパワーLEDパネルを開発しその研究成果をもとにリーフレタスの商品化に成功しています。
研究を推進する農学部先端食農学科 渡邊博之教授(生物機能開発研究センター主任)に、これまでの歩みと今後の展望を聞きました。

Future Sci Tech Labで加速するLEDを使った無農薬ハイテク野菜づくり

いま、日本の農業は農業人口の減少や農家の高齢化、食料自給率の低さなどさまざまな問題を抱えています。また、世界規模で考えても食料不足の解決はつねに重要課題となっています。その一つの解決策と目されているのが「植物工場」による安定した生産が行える“未来型農業システム”です。

玉川大学のFuture Sci Tech Labでは、2010年の開設以来、渡邊教授の主導によりLEDを使った無農薬ハイテク野菜づくりの研究に取り組んできました。

Future Sci Tech Lab 植物工場栽培室

もともと企業の研究員として植物工場の技術開発を手がけていた渡邊教授が玉川大学農学部に着任したのは2003年。企業時代を含めれば植物工場の研究歴は四半世紀に及びます。着任当初は研究環境の規模も小さく「まさにゼロからのスタート」だったそうですが、渡邊教授の植物工場にかける情熱に大学側が応え、2010年3月に植物工場研究施設を備えたFuture Sci Tech Labが完成。この研究施設では独自に開発したダイレクト水冷システムによるLED光源を太陽の代わりとして、植物が必要とする栄養分を直接溶かし込んだ水による無農薬の水耕栽培を用い、レタス、チンゲンサイ、シソ、トマト、キュウリ、イチゴなどが試験栽培されています。

ダイレクト冷却式ハイパワーLED

「白熱灯や蛍光灯などに比べて発熱が少ないLEDですが、やはり光を発する際には熱が出ます。この熱によってLEDは劣化し、次第に出力が落ちてしまうのですが、この問題さえ解決すればかなりの長寿命が実現できます」

そこで独自に開発したのが「水冷式」によるLED冷却技術でした。

「この技術を応用して新たな高出力LEDパネルを開発し、Sci Tech Farmに導入したのが、LED照明装置“ダイレクト冷却式ハイパワーLED(玉川大学と昭和電工アルミ販売で特許を取得)”です。LEDのチップを直接アルミの基盤に接着し、冷却パネルで温度を下げることにより、10年間ハイパワーで使用しても90%の出力を保つことができます。光源としては20年ほど使うことも可能で、植物工場におけるLEDの交換のコストと手間を大幅に軽減できるようになりました」

リーフレタス
チンゲンサイ
キュウリ

Sci Tech Farm「LED農園®」による玉川ブランドのリーフレタス「夢菜®」の事業化に成功

2013年には西松建設グループとの産学連携協定により、大学内にSci Tech FarmのLED農園®が完成。これにより、Future Sci Tech Labと合わせて、学園内で「研究」と「生産」の2つの拠点をコラボレーションさせながら、その成果を事業として社会に送り出す仕組みが作られました。

「通常ですと研究施設(Future Sci Tech Lab)と生産現場(Sci Tech Farm)は遠く離れた距離にあるイメージですが、同じキャンパスの徒歩2分ほどの場所にあるわけです。研究の成果がどのように生産に活かされ、出来上がった野菜が店舗に並ぶまでの一連の流れを見渡せる環境なので、学生の研究へのモチベーションも上がります」

LED農園®で生産されるリーフレタス「夢菜®」は最初3品目から始まり、現在は7品目。小田急線沿線のスーパーマーケット「Odakyu OX」を中心に販売されています。

夢菜®
Odakyu OX(玉川学園店)
LED農園®で栽培されている夢菜®
レタスの品種によって、赤・青・緑3種類のLED光を調節して照射
LED農園®栽培棚

青いLEDをあてると野菜はストレスを感じ、体内にビタミンやポリフェノールなど抗酸化成分を取り込んでやや苦みが出て、赤いLEDをあてると葉が大きく成長し甘みが出る……生育過程において細かくLED光のバランスを調整することで、栄養価が高く、さまざまな風味や食感が楽しめる「夢菜®」ブランドは、人気のブランド野菜として好評を博しています。また、クリーンルームの環境下、無農薬で生産されているため、洗わずに食卓にならべることができるのも魅力の一つです。

「全国に野菜を生産する工場は200前後あると言われていますが、実は黒字を出している工場はほとんどありません。おかげさまで玉川のLED農園®は、事業的に成功している生産施設の一つです。今後はイチゴやトマト、ハーブ類などの生産も計画しており、大手チェーンストアとのコラボレーションの話も進んでいます。また、最近では赤・青・緑のLED光に加え、遠赤色光(最も波長の長い赤色光)や紫外線などを使った研究にも取り組んでいます。学生たちと一緒に試行錯誤を重ねながら、より付加価値の高い野菜を作りだしていきたいですね」

「付加価値の高い野菜生産」として渡邊教授が考えている対象の一つが医療分野で使われる食材の研究。例えば現在、水耕栽培の栄養を調整して低カリウムの野菜を栽培する研究を手がけています。

左は赤+遠赤色光を照射したシソ、右は青色光を照射。
同じ条件で栽培しても光の種類により葉の大きさに違いが
みられる

「腎臓病などの患者さんはカリウムを多く含む生野菜を食べられません。生野菜が好きな人にとっては、食生活の質が低下してしまうわけでつらいものがあります。私たちはそうした方々にも安心して生で食べていただける野菜を研究しています。この研究では帝京大学医学部附属病院の協力を得て、実際に患者さんに低カリウムの野菜を食べていただき、良い結果を得ています。そのほかニチニチソウの一種を使った抗がん剤の研究にも着手しており、医食同源という言葉がありますが、医療にかかわる植物栽培には今後も力を入れていきます」

宇宙でのジャガイモ生産を目指して無重力や低圧環境下での栽培実験も

Future Sci Tech Labには「宇宙農場ラボ」も設置されています。こちらは宇宙空間における植物工場の可能性を探る研究を行う研究施設です。

現在、米国では火星探査計画が進んでおり、わが国でもJAXA(宇宙航空研究開発機構)が、2030年に日本人宇宙飛行士による月面探査の実現をめざす計画を発表。2015年4月には、月をはじめ重力天体での持続的な活動に向け、企業・大学・研究機関などの異分野が共同で成果と応用をめざす拠点「宇宙探査イノベーションハブ」が発足しました。その「宇宙探査イノベーションハブ」に玉川大学とパナソニック株式会社との共同研究テーマが2017年7月に採択されました。

「私たちはJAXAとパナソニックとの共同研究で、宇宙空間での食料生産システムの研究を進めています。研究テーマは『摂食可能なジャガイモの完全閉鎖型・完全水耕型人工栽培システムの基礎検討』です。将来的に月面基地を作って、そこに人間が滞在することになると、食料確保の問題が重要になります。地球から食料を運ぶ手間とコストを考えると、月面に食料を供給する工場を建設することがもっとも現実的といえるでしょう。今、私たちが取り組んでいるのはジャガイモの生産です。ジャガイモは地下にある茎の部分がふくらんでイモになるのですが、畑で育てると地上の葉が枯れはじめてからイモができます。ところが室内の水耕栽培を使えば、葉を枯らすことなくイモを作ることができます。そこで葉を茂らせたまま1年に何回も収穫し、備蓄もできる宇宙でのジャガイモ生産を考えています。もちろん栄養価も味も満足いくものをめざしています」

ほとんど大気がなく、地球の1/6の重力である月面での栽培のために、宇宙農場ラボには疑似無重力空間や低圧環境をつくる装置が設置され、渡邊教授の研究室の学生たちが将来の月面基地での食料生産を思い描きながら、さまざまな環境条件での実験を繰り返しています。

3-Dクリノスタット(疑似無重力装置)
減圧植物栽培チャンバー

都市型農業から宇宙での食料生産まで、未来型農業システムの形が見えてくるFuture Sci Tech Lab。その研究活動は、今や多くの企業から注目を集めており、さらにアフリカ・コートジボワール農業省の関係組織から研修生が訪れるなど、海外からも熱い視線が注がれています。

現在の日本では、農家以外の人が農業に参入するためには農地取得の問題などさまざまな障壁があります。そのため、せっかく農学部で学んでもその成果を農業の生産現場で活かすことは難しいというのが現実です。Future Sci Tech Labが導く未来型農業システムは、学生の進路としての新しい農業生産現場を生み出すことにもなると渡邊教授は考えています。

「大学で学生の教育に携わるからには、やはり学生たちには学んだことを活かせる職場で活躍してほしいですし、今、日本の農業にはそうした若い力と柔軟な発想が必要です。Future Sci Tech Labでの研究は、若い人たちが活躍しやすい都市型・未来型農業システムを提案するもので、それがゆくゆく‶日本の農業のカタチ”を変えるきっかけになればと考えています」

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