科学するTAMAGAWA 「自然の尊重」を理念に掲げる玉川学園の教育

2013.02.25

玉川学園が誇るキャンパスの豊かな植物は、
単なる景観として植えられているわけではありません。
多くの人の努力と、教育にかける想いが、
この自然環境に込められているのです。

「自然の尊重」を体現するキャンパス

玉川学園が理念として掲げる「12の教育信条」のひとつに「自然の尊重」があります。そこには、「雄大な自然は、それ自体が偉大な教育をしてくれる。また、この貴重な自然環境を私たちが守ることを教えることも、また大切な教育である」ことが謳われています。

この理念を体現するように、多摩丘陵の広大な敷地に拓かれた玉川学園のキャンパスには数多くの花木が生い茂り、艶やかな花々や瑞々しい新緑、目にも鮮やかな紅葉やたわわに実る果実などで、学生、教職員をはじめキャンパスを訪れるすべての人たちの目を、四季を通して楽しませています。

そして、この豊かな自然環境が作り上げられた背景には、長い年月にわたる多くの人々の努力と、玉川学園の教育に対する熱い想いがありました。今回は、学生時代からずっとキャンパスの自然とともに歩んできた、玉川大学リベラルアーツ学部・石川晶生教授と玉川大学教育学部・梅木信一教授に、キャンパスの自然環境に関する歴史と、そこに込められた人々の想いについて紹介してもらいました。

自然の中で育ち自然とともに歩む

--先生の経歴について教えてください。

石川: 私は東京の生まれですが、現在と違って私が子どもの頃は東京にも自然がたくさんありました。昆虫採集や魚捕りが近所ででき、それに夢中になっていましたね。そんな自然と触れあう少年時代を送ったこともあり、大学進学では当然のように玉川大学農学部を選択しました。科学的な関心というよりは、自然と関わることが性に合っていたからこの道を選んだのだと思います。

梅木: 私は大分の生まれで、山に囲まれた場所で育ちました。当時の遊びといえば山で木の実を採ったり川で魚釣りをしたり。あたりまえのように自然と触れあっていました。しかし、中学・高校になるとさすがに受験勉強をしなくてはいけない。私も随分がんばって勉強しましたが、成果を競うことに終始する受験に疲れてしまって、ちょっと人間不信に陥ってしまいました。そんなとき知ったのが、学問だけでなく人間教育・宗教教育に力を入れている玉川大学でした。しかも、農学部では私が親しんだ自然の研究をしているということで、大分からはるばる東京に出てきたわけです。癒しを求めて玉川大学に進学したともいえますね。

--玉川大学での学びや研究について教えてください。

石川: 大学では育種・園芸学研究室に所属し、世界で初めて黄色い花を咲かせるコスモスを開発した佐俣淑彦教授に師事しました。大学卒業後は一度学外に勤務しましたが、農学部に戻るチャンスがあり、以来玉川大学で自然科学・生命科学などについて教えています。また、玉川学園では自ら体験して学ぶ「労作教育」を重視していますが、キャンパスの自然を活用した労作教育にも長く携わってきました。

梅木: 私も石川先生と同じく佐俣教授に教わりました。石川先生とは同級生で、かれこれ50年近い長いつきあいです。それと、私は花が好きだったので、佐俣教授がコスモスの研究をされていたことも、玉川大学を選んだ理由のひとつでした。大学卒業後は農学部に残り、ずっと玉川大学に勤めています。現在は教育学部で理科教育・環境教育の分野の教鞭を執っています。

自然の中に作られ自然とともに育まれた学園

--キャンパスの自然環境はどのようにつくられたのですか。

梅木: 現在キャンパスがある土地は、もともとは、地域の人々の共有地でした。当時はまだ茅葺きの屋根が残っていましたが、その材料となるススキを採るための「茅山」として利用されていました。クヌギやコナラも多く植林されて、薪炭林として使われていました。それを創立者の小原國芳が買い取って、1929年に玉川学園が誕生したのです。

石川: 小原國芳は、創立当時から「森に囲まれた学園」を想定していたようで、すぐに桜など多くの植物をキャンパスに植え始めました。その多くは、学生・卒業生やその保護者の手によって記念樹として植えられたものです。このキャンパスの自然は、学園創立当初からの人々の労作の賜物であり、1本1本に当時の人々の想いが込められているのです。そうした人々の想いが詰まった木々と、もともとこの土地にあった自然とがバランスよく調和しているのが、玉川学園の自然環境の特徴です。

梅木: もう一つの特徴は、玉川学園では木々を大切にしており、樹齢を重ね大きく育った木も多いことです。通常、クヌギやコナラは薪炭林として15年~20年で伐採することで、効率よく木材として利用することができます。しかし、玉川学園では樹木も人も同じ生命と考え、傷つけることをしないのです。このような「自然の尊重」は「人間の尊重」につながります。1本1本の木を大切にすることは、つまり、一人ひとりの人格を尊重することにつながる。人間教育を非常に重視していることが、キャンパスの自然にも現れているのです。

--キャンパスの自然環境に変化はありますか

石川: かつては自然そのままの風景が多く見られましたが、今はだいぶ整備された環境が増えてきています。例えば、ツツジなどの植栽は刈り込みを行っているので、景観としても、だいぶ現代風になってきています。

梅木: 玉川学園のキャンパスは、自然と人間、自然と建築が調和するよう考えられていて、その労作には私たちも長年関わってきました。もう20年ほど前になりますが、ヨーロッパの公園や植物園の設計を研究するために、石川先生と私とでイギリス・オランダに研修に行ったこともあります。

石川: ヨーロッパの文化というのは、自然を開拓して発展してきました。ですから、公園や植物園の設計も統制された美を好む傾向があるようです。一方、日本では自然そのものの有り様を尊重して文化を作ってきたといえます。例えば、日本庭園では、水は自然のまま池に流れ込みますが、ヨーロッパの公園では噴水のような形で水を制御したりします。さらに、中心にはアクセントを置くようにします。研修では、そういった文化的な違いも自分の目で学ぶことができました。

梅木: それから、早くから木を伐採して都市を作り上げてきた分、ヨーロッパでは自然に対する意識が非常に高いです。例えば、スコットランドのエジンバラという街では、もともとあった植物に加え、外国からも多くの植物を取り入れて、うまく調和させている。また、街路樹などを植える場合は狭い空間でも無理なく育つよう、まっすぐ伸びる木や、枝がしだれる木をうまく使い分けています。そういった調和のさせ方も勉強になりました。

石川: 自然のままの環境と、管理された環境のどちらが良いというわけではありません。良いものは積極的に認め、教育現場に取り入れていく。こうして玉川学園では生きた教材として活用されてきました。自然環境だけでなく教育の面でも同じです。キャンパスには礼拝堂がある一方で、近くには聖観世音のある和風庭園が作られています。それは、特定の宗教について教えるのが目的ではなく、「宗教心を持つこと」が大切だと考え、キリスト教でも仏教でも、良いものは教育に取り入れているということ。つまり、知識や研究を悪しことに使わずにという考えで、大学8号館入口にある石碑『神なき知育は、知恵ある悪魔をつくることなり』からもうかがい知ることができます。そして、それが創立者・小原國芳が考えていた「全人教育」なのだと思います。

多くの人の労作が自然環境を作り上げた

--キャンパスの自然を紹介する取り組みを行っているそうですが。

梅木: そうですね。玉川学園の教育活動を伝える『全人』という月刊誌があるのですが、その裏表紙にキャンパスの動植物を写真入りで紹介する「玉川の仲間たち」というコーナーを設けています。

石川: 2001年の4月から連載を開始し、毎月、その時期にふさわしい植物を選び紹介してきましたが、途中から植物だけでなく動物も紹介しようということになり、さらには、北海道・鹿児島にある農場、箱根の演習林、カナダ・ナナイモ校地といった学外キャンパスの動植物も掲載しています。これまでに135種を紹介し、2008年には、その途中経過をまとめた書籍『玉川の仲間たち』(玉川大学出版部)も出版することができました。

梅木: この『玉川の仲間たち』で紹介するための写真撮影に2年間の準備期間がありました。この間に植物のそれぞれの形態的な特徴を捉え、かつ、美しい写真を撮るのがとても大変でした。開花や果実が実る時期を適切に判断した上、天気や撮影の時間も考慮しなくてはいけない。ですから、今でも忙しい授業の合間にはいつも大型のカメラを持って、キャンパスを歩き回っていますよ。

石川: 専門書ではないので、紹介文は一般の方にもわかりやすいよう、あまり学術的な説明にならないよう心がけています。キャンパスの植物に親しんでもらい、自然に興味を持つきっかけになってくれたらうれしいですね。

梅木: また、この連載をもとに、植物の写真と簡単な解説が書き込まれている「たまがわトランプ 四季の花々」 (玉川学園購買部)も制作しました。よりゲーム感覚で、植物に親しむ機会になればと考えています。

--特に思い出深い植物はありますか。

石川: まずは桜でしょうか。キャンパスには約1,400本の桜があり、野生のものやソメイヨシノ、その他の園芸品種に加え自然雑種も多くあり、種類は特定できないほどです。このなかには、1980年にサクラ類の品種を増やそうと私と梅木先生で苗木を調達して農学部の実習で植えたものもあります。また、特徴的な桜として、環境省などが進める巨樹データベースに登録されているヤマザクラ、ソメイヨシノが3本ずつ、計6本確認されています。もともとサクラ類の自然科学的な研究者が少ないのですが、日本を象徴する花ですから、後世に伝えていくためにも玉川学園ではその保存に取り組んでいきたいと考えています。私も日本櫻学会に所属し、サクラ類の研究に取り組んでいる一人です。

梅木: 日本を代表する植物というとツツジもあげられます。特に九州はミヤマキリシマ産地で、私の故郷にも多いため個人的な親しみも持っています。玉川学園にあるツツジの一部は、群馬県・館林市にある「つつじが岡公園」から寄贈されたものです。つつじが岡公園は世界一のツツジ園なのですが、かつてそれを知った創立者は、このツツジをキャンパスに植えようと提案しました。そこでツツジ園に連絡をしたところ、管理をしている方が小学校の先生をされていて創立者のこともよくご存じで、「國芳先生がご希望なら差し上げましょう」と寄贈いただいたという経緯があります。キャンパスに届けられたツツジは、創立者自身の手で、さし木をしました。

石川: 珍しいものではヤシも植えられています。(「玉川学園の花 50選」A地区II区 )これは、1973年に創立者と面識のあった保護者から支援を受けて植えられたものです。本当は、このヤシを植えるためには多額の費用がかかる予定だったのですが、ヤシの木の生産業を営む八丈島の方が、仕事を引き受けてくれました。

梅木: 実は、私が所属していた造園研究部の合宿でお世話になった方で、お子さんが病気を患った際に玉川大学で献血運動を行いました。その方は、「我が子の命を助けてくれたことへの恩返し」ということで、この仕事を快く引き受けてくれました。植樹は造園研究部・海外移住研究部や農学部有志の学生、教職員の労作によるものです。このように、玉川学園の自然は、多くの人の献身的な援助と労作によって作り上げられてきたのです。また、玉川っ子は、まっすぐに伸びる椰子の幹のように素直な心を持ち、大きな夢をもってほしいとの創立者の願いもこめられているのです。

石川: キャンパスのアジサイの多くは学生の労作によって植えられたものです。(「玉川学園の花 50選」A地区III区 )玉川大学にはかつて、“塾”と呼ばれる寄宿舎があり、その塾生の労作によって植えられたアジサイが、塾が閉められるときに現在の大学9号館あたりに多く移植されたと聞いています。

梅木: 私も塾で3年間暮らしたのですが、塾生は朝の労作の時間があり、アジサイを植えるなどの作業をした記憶があります。多くの仲間との作業を通して、たくさんの思い出を作ることができました。

石川: 植物を取り扱う作業は体を動かす必要があるので、労作の題材として最適なのです。人間教育の題材として、植物はとても大きな役割を果たしていると思います。

自然を守りながら教育に活用する

--キャンパスの自然環境の今後について教えてください。

梅木: 農学部の山岡好夫先生の調査によると、キャンパスにある木の中でもっとも古いものとして、樹齢160年以上になるケヤキの巨樹があります。(「玉川学園の花 50選」C地区II区 研究・管理棟 )先ほどもいいましたが、玉川学園では生きた教材として草や木を大事にしています。ですからこのような大きく樹齢を重ねた木が残されているのです。「自然の尊重」を掲げる玉川学園を象徴する1本であり、いつまでも大切に保存していきたいと思っています。また、3本のケヤキが絡まって1本の木のように見える「三位一体のケヤキ」と呼ばれるものもあります。これも、学生・保護者・教職員が一体となって取り組む玉川学園の教育の象徴として、これからも大切にしていきたいですね。

石川: また、これまでの調査をもとに「玉川学園の花マップ 50選」を選定し、キャンパスのどこに、その植物があるかを示す植物マップを作成しました。春までには、100選にする予定です。前述の『玉川の仲間たち』や「たまがわトランプ」とともに、多くの人にキャンパスの植物に親しんでもらい、その後の自学自習のきっかけになってくれればと考えています。人間はもちろん、生命の存在の根底をなすのが自然です。自然がなければ生命もあり得ないし文化も生まれてこない。このキャンパスにある豊かな自然をもっと活用して、玉川学園が目指す全人教育に役立てていきたいと考えています。

梅木: 創立期から1950年頃の古い写真を見ると、キャンパスの周囲の土地は多くの田畑や薪炭林がありましたが、現在では宅地化が進み、豊かな自然が失われつつあります。ですから、玉川学園のキャンパスが多摩丘陵の自然を保存する砦として、この地域の動物や植物などの自然を守る役割も果たしていきたいと願っています。

石川: このキャンパスには、小さな生態系が確立されています。年間を通して野鳥の飛来も多く、例えば、ハヤブサの仲間であるチョウゲンボウが住み着いていて、玉川学園のキャラクターマークにもなっている。野鳥がくるということは、エサとなる虫や木の実などがあり、それらが育つ自然が保たれているということ。創立者は「花のないところでは教育はできない」と話していました。そのような自然環境の中で人間教育を行っている大学のキャンパスとして、この自然が都市に存在していることは極めて貴重です。この自然環境を残すことはもちろん、さらに発展的に広めていくことが、私たちの願いです。