科学するTAMAGAWA 質の高い教員養成に向けた改革を進める 教師教育リサーチセンター

2012.10.25

教員養成のあり方が大きく変化するいま、
より質の高い教員養成システムの体系化と、
学外とのさらなる連携の高度化を推進する
教師教育リサーチセンターの挑戦。

大きく変わりはじめた教員養成のあり方

2012年8月28日、中央教育審議会は総会で「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」という答申を取りまとめました。その大枠としては、(1)教員養成の修士レベル化(2)教員免許制度の改革(「一般免許状(仮称)」「基礎免許状(仮称)」「専門免許状(仮称)」の創設)(3)初任者研修制度の高度化など教職大学院制度の発展・拡充(4)学び続ける教師像の確立を目指した教育委員会と学校、大学の連携・協働による高度化、という4点が示されています。

つまり、教員養成を修士レベル化することで、教員を“高度専門職業人”として明確に位置づけ、その実現のために養成、採用、研修といったトータルなシステムを再構築することが、この答申が示す方向性といえます。こうした大きな改革の方向性が示される中で、玉川大学ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。玉川大学教師教育リサーチセンター長の森山賢一教授に尋ねました。

教師教育リサーチセンターの概要



これまで玉川大学では、教職に関する総合部門として「教職センター」を設置していましたが、さらなる“質の高い教員養成”と“教師教育学の研究活動推進”のためにこれを改組し、2012年4月に「教師教育リサーチセンター」を新設しました。そのセンター長である森山教授は「教師教育リサーチセンターは2つの部門から成り立っています。ひとつは、教職課程履修学生をサポートする『教職課程支援室』、もうひとつは、教師教育に関わる研究活動を推進する『教員研修室』です」と話します。

「教職課程支援室では、教育実習・保育実習・介護等体験などの手続きや教員免許状の一括申請、さらに、保育所長、幼稚園長、小中学校校長経験者など、現場経験豊富なスタッフを擁する教職サポートルームを設置し、学生の指導や相談に応じています。これは従来の教職センターでも同様に行ってきたことを全学的組織としてさらに充実をはかるものです。 一方、教員研修室では、教職カリキュラムを中心に教師教育学にかかわる研究のほか、現職教員の研修を行ったり、玉川大学の教員を幼稚園・小学校・中学校・高等学校に講師として派遣するなど、近隣の教育委員会や教育現場との連携を強化しています。これは新しくはじめた取り組みで、外部との連携を強化していくことで、玉川大学の教員養成のさらなる高度化にも貢献するものと考えています。また、先に示された答申の方向性にも合致するものです」。

理論と実践を早い段階から両立

では、教師教育リサーチセンターでは、具体的にどのようなことを行っているのでしょうか。まずは、教職課程支援室の特徴的な取り組みについてお話を伺います。「教職課程の学生への支援は、当然これまでも行ってきました。ただし、教育学部以外の学部においては、今年まで教職科目を履修できるのは2年次からでした。一方、教職課程を希望する学生は、入学時からすでに教員を志している人が多いのです。そうした学生のモチベーションを受け止め、早い段階から教職に関わる学習をはじめられるよう、1年次から教職科目が学べる体系の確立を進めています」と森山教授。



玉川学園での参観実習
教育学部1年生

「具体的には、教育学部は1年生を対象に全員が近隣の小学校・中学校で体験実習を行うプログラムをすでに実施しています。早い段階から“教える立場”で学校の1日を体験することで、大学の授業で学ぶ理論が実際の教育現場でどう生きるのかを身をもって知ることができ、教職課程の学習に対するモチベーションの向上につながります。また、その後の教育ボランティアやインターンシップに対する事前学習の効果もあります。また、体験実習では、授業だけでなく部活動のサポートや、先輩教員とのコミュニケーションも経験できます。いま教員に求められているのは、きちんと授業ができるだけでなく、子どものことをしっかりと理解しながら、組織の中で学校全体を支えていくことですから、このような経験は教員をめざす学生にとって非常に有用な機会となるはずです。

その後も、幼稚園から大学までがワンキャンパスにあるメリットを活かして、玉川学園(1年生~9年生)の授業を体験する機会を設けています。理論だけでなく実践の機会を早い段階から豊富に用意することで、実践的な指導力を持った教員を育成していることが、大きな特徴となっています」。

人間性の土台を持ち合わせた教員の養成

さらに、今年から教職課程を希望する1年生を対象に、学内での合宿も実施したと森山教授。「今年度の初めに、近隣の教育長の方々とお話をする機会があったのですが、その折に共通していわれたのは、『授業能力は荒削りでも、多少のことではへこたれない、教師としての自覚のある人間を育てて欲しい』ということでした。確かに、最近の教育現場は非常にデリケートで、子どもがケガをするなど問題があると、何かと教師がやり玉に挙げられます。しかし、それでくじけて辞めてしまうようでは、教師が務まるはずがありません。そこで、合宿の機会を設け、あらゆることを自力でやり遂げる精神力やコミュニケーション力を培えるようにしています」。

合宿研修「教員になるための基礎を築こう!」

こうした“人間力”を培う取り組みは、玉川大学創立者・小原國芳の教えに基づく伝統だとも、森山教授は話します。「本学には『玉川教師訓』という創立者の教えがあります。『子供に慕われ、親たちに敬われ、同僚に愛せられ、校長に信ぜられよ』というもので、つまり、教師には授業能力だけでなく、こうした人間としての力が大切だということです。そして私たちは、この教師訓を実践するために、具体的な4つの力量を備えた教師の養成を明確化しました。すなわち、(1)確かな学力と健やかな体を育てる『学習指導力』(2)豊かな心を育て自己実現を図る『幼児・児童・生徒指導力』(3)ともに高めあうクラスをつくる『学級経営力』(4)新たな学校づくりを推進する『指導力』です。こうした“めざす教師像”を教職課程に関わる教員が共有し、しっかりと実践していることは、玉川大学ならではの特徴だと考えています」。

そのほかにも、日本教育新聞社の支援を得て、教員採用試験で問われる時事問題のトレーニングを行ったり、自分の得手不得手を把握できるよう、模擬試験の機会を豊富に設けるなど、教員採用試験の対策にも万全の準備を整えていると、森山教授は話してくれました。

学外との連携で日本の教員養成に寄与する



教員免許状更新講習

さて、一方の教員研修室では、どのような取り組みを進めているのでしょうか。森山教授は次のように説明します。「今回の中央教育審議会の答申では、『教育委員会と学校、大学の連携・協働による高度化』が示されています。では、これまではどうだったかというと、大学側から教育委員会へ教育実習などのお願いをするばかりで、一方通行の面がありました。その関係を打破し、日本の教員養成に寄与するために、教員研修室では、大学のいちばんの資源である教職員を教育委員会のイベントに派遣するなど、積極的な連携をはじめています。 隣接する町田市・横浜市とは教育に関する協定を締結しており、例えば、今年の8月には町田市の教育委員会が主催する研修会に玉川大学のキャンパスを会場として提供しました。また、教員免許状更新講習を大学で積極的に受け入れるとともに、教員研修室の研究成果を活用してよりよい講習プログラムの開発に取り組むといった活動も行っています。その甲斐もあり、玉川大学の教員免許状更新講習は、募集から数十分で定員が埋まってしまうほどご好評をいただいています」。

さらに、こうした連携は、教員をめざす玉川大学の学生にとっても大きなメリットを生むと森山教授は続けます。「ひとつは、近隣の教育委員会や教育現場と普段から協力体制を築いておくことで、いざ学生が教育実習や教育ボランティアに行く時に、とてもスムーズに受け入れていただけるというメリットがあります。また、玉川大学が協力する研修会などには、学生も参加できるように手配しています。現職の教員が研修を受ける場面を目にする機会はめったにありませんから、学生が自分の将来像を描く上で貴重な時間になるはずです。また、真剣に学ぶ学生の姿を教育委員会の方々に見ていただくことも、玉川大学出身の学生の評価を高める上で非常に効果的であると考えています」。

ほかにも、日米の大学が教員養成に関する共同研究を促進するために設立された日米教員養成協議会(JUSTEC) に、玉川大学は日本の基幹大学として参加しており、日本の教員養成の拠点として海外との連携も強化していくということです。

さらに質の高い教員の養成をめざして

このように、教員養成制度の大きな変化に合わせ、より質の高い教員の養成に力を注いでいる教師教育リサーチセンター。今後は、さらにプログラムを充実させていくと森山教授は話します。「まず来年度は、教育学部だけでなく全学部の1年生が春学期から教職課程を履修できる体制を整えます。これにより、より早い段階で、教員をめざすのか、それとも他の道に進むかを学生が判断しやすくなり、効率的に大学の学びを進めることができるようになるでしょう。また、1セメスターで取得できる単位の上限が16単位となるため、空いた時間を有効に使って教育ボランティアやインターンシップへ積極的に参加してもらうよう、学生に働きかけていくつもりです」。

“質の保証”だと森山教授。「質の高い教員を育てるということは、教員採用試験に合格できればいいということではありません。“玉川大学出身の教員ならここまでできる”という指標を示すことが重要なのです。そのために、学部の4年間、あるいは、教職大学院までを含めた学びのプロセスをしっかりと評価することが欠かせません。 これまでも、入学時からの学習内容や理解度を記入する『履修カルテ』を活用し、学生の学びのプロセスを教員が逐一チェックし、指導できる体制を整えてきました。さらに、来年度からはじまる『教職実践演習』という科目においては、その到達目標と評価基準を明文化し、いま、何を学び、どのような力を伸ばせばよいかを明確に把握できるよう準備を進めています。これを、学生・教員が共有することで、玉川大学が輩出する教員の質を、しっかり保証できる体制を築いていきたいと考えています」。

また、大学の資産を活かした社会貢献も強化し、11月には、大正時代の新教育をテーマとした「玉川教育フォーラム」も開催予定だといいます。このように、大きく動きだした日本の教員養成制度、そして、精力的な改革を続ける玉川大学教師教育リサーチセンターの今後の動向に、大きな注目が集まりそうです。