科学するTAMAGAWA 本気で理科教師を育てる農学部教職コース

2012.09.25

自然現象の中に驚きや感動を覚え、
それを、地球の次世代を担う子どもたちに伝えていく。
そんな優れた理科教師の育成に、
農学部教職コースは本気で取り組んでいます。

地球の将来を担う次世代を育てるために

玉川大学農学部では、中学・高等学校の理科教師を養成する「理科教員養成コース(教職コース)」を設置し、学科の枠を越えて専門的な教育を提供しています。それというのも、教師とは「地球の将来を担う次世代の子どもたちを育成する」重要な仕事であり、その仕事に自信と責任をもって取り組める人材の養成が必要だと考えているからです。

では、教職コースではどのような理科教師の養成をめざし、そのために、どのような教育を行っているのでしょうか。また、「理科離れ」が叫ばれているいま、これからを担う子どもたちに理科に対する興味をもってもらうためには、どのような工夫が必要とされるのでしょうか。農学部生物資源学科(教職担当)の有泉高史教授にお話を伺いました。

本気で教師をめざす人を育てる

団塊世代の教師が大量に定年を迎えている現在、教員の採用枠は全体的に増加傾向にある、と有泉教授は話します。「その影響もあり、ここ数年、玉川大学農学部でも教職コースを希望する学生は増えていますが、中には『とりあえず資格が欲しいから』と、気軽に考える学生もいます。しかし、そのような学生に教職コースはお勧めできません。なぜなら、教職コースは理科教師養成に特化した教育を提供しているため、途中で教師になるのをあきらめて学科の専門的な学びに戻ろうとしても、ついて行けなくなる可能性があるからです。ですから、教職コースに所属する前の1年次に2回のガイダンスを設け、本当に教師をめざす人だけが受講するよう指導しています。それほど、教職コースの学びは特殊なものなのです」。

学生による模擬授業(実験)

教職コースに所属すると、2年次から学科の科目に加えて教職に関する科目の履修がはじまります。「2年次からすでに、同じ教職コースに所属する学生を相手にした模擬授業の体験学習がはじまります。実際に黒板やプレゼンテーションソフトを使って授業をしてもらうわけですが、このときはじめて『自分は人前で話したり書いたりするのが苦手』だと気づく学生もいます。ですから、2年次の最後に教職コースの所属から外れ、学科の専門的な研究へ早いうちに戻れるチャンスも残しています」と有泉教授。その結果、教職コースにはモチベーションが高い学生だけが残り、授業後も学生同士で自主的にディベートを行うなど、真剣に学習に打ち込む姿もよく見られるといいます。

理科教師としての本質的な力を身につける

館山 臨海実験場(磯採集)

しかし、これは教職コースを受講する最初の一歩に過ぎません。理科教師として次世代の子どもを育てていくためには、さらに大事なことがあると有泉教授は話します。「最も大切なのは、理科が本当におもしろいと感じることです。それも、知識だけで知っているというのでは足りない。自然のさまざまな現象の中に驚きや感動を覚え、それを子どもたちに伝えられる理科教師をこそ、玉川大学農学部は育てたいと考えています」。

館山 臨海実験場(ウニの観察)

そこで、実験や観察を行い、実体験として学ぶことを重要視していると有泉教授。「例えばわたしの専門分野は、カエルやイモリといった両生類の胚の未分化細胞を使い、臓器などがどのようにつくられるかを調べる『発生生物学』というものですが、それに関係する実験や観察を行ってもらうこともあります。また、夏期休暇中には他大学の臨海実験場へと出向き、ウニの発生について一晩かけて観察し記録を取ったりもしています」。

2年生総合科
「お米」の学習
フィールドワーク
(ビオトープ*)

さらに、玉川学園(1-4年生)と連携した取り組みも行っています。「2年生総合科の『お米』の学習で行う田植え、稲刈り、脱穀などの作業や、ビオトープ*を使ったザリガニ釣りなどの行事を、教職コースの学生がサポートする機会も設けています。このように直接、自然現象に触れたり、それを子どもたちと共有する経験は、理科の楽しさを実感し、子どもたちに伝えられる理科教師になるために、非常に有益なことだと考えています」。

  • ビオトープ:いろいろな生物が集まって作り上げた小さな生息空間

教師としての実践力を磨く

理科教師としての本質的な力を身につける一方で、教師としての実践力を磨くことも欠かさないと有泉教授は続けます。「教職コースでは、ボランティア活動の紹介も行っています。小・中学生のキャンプに同行してそのお手伝いをしたり、自然観察や生き物調査といった学習を支援するボランティアが、その代表的な例です。子どもたちと実際に関わり自分が役に立ったという経験は、その後、教師としてのかけがえのない力となるはずで、最近は教員採用試験でも、ボランティア経験について聞かれることが多くなっています。教職コースの学生たちはボランティアを主催する団体からの評価も高く、自然と数多くの募集が寄せられるようになってきています」。

さらに特徴的なのが、4年次後半に行う『卒業教材研究』です。「これは、自分なりに工夫を凝らした教材を開発したり、よりよい授業のしかたを研究し、まとめる取り組みです。例えば、子どもたちにとって理解しやすい標本づくりを行ったり、50分という授業時間の中で、実験をどう効率的に進められるか試してみたりもします。この実際に『やってみる』ことが重要で、正しい知識をもっていたとしても、いざやってみるとうまくいかないことがある。それを学生のうちに経験しておくことは、実際に教壇に立ったときに大きな差となって現れてくるはずです」。

他にも、教職関連科目については教育学部の先生が行う講義を受講したり、中学・高校の現場で指導していた経験を持つ教員が、指導のしかたについて細かいアドバイスをするなど、教師としての実践力を磨くための万全の準備を整えています。

玉川学園の生徒との連携で理科への興味を育てる

サイエンス・サマー・キャンプ
「走査型電子顕微鏡を用いた微生物の観察」

さらに、農学部では玉川学園の生徒と連携し、子どもたちの理科への関心を高める活動も積極的に行っています。「9-12年生の生徒に対し、農学部の教員が専門分野の最先端の研究内容を紹介する『サイエンス・サマー・キャンプ』という取り組みをこれまで毎年行ってきました。本年に関しては11月に開催予定で、タイトルも時期に合わせて『サイエンス・オータム・キャンプ』とする予定です」と有泉教授。

「今年は、わたしの専門分野について最新の研究を紹介する予定です。簡単に紹介すると、両生類胚には、アニマルキャップとよばれる未分化細胞からなる部分があります。これを胚から切り出して、アクチビンという物質で処理すると、その濃度により血液や筋肉や脊索が分化します。また、時間を変化させることで、頭や尾を形作ることもできる。さらに処理方法を工夫することで、心臓や膵臓、肝臓を形成することもでき、それを生体に移植すると、きちんと臓器として機能することもわかりました。これらの実験は、傷ついた組織の再生や難病の治療などに基礎研究として貢献できるものと考えています」。

「サイエンス・オータム・キャンプでは、こうした実験を高校生と一緒にやってみたいと考えていますが、もちろん、高校生にとってはかなりハイレベルです。しかし、わかりやすく説明すれば考え方自体は理解してもらえると思っています。これまでも、他の高校で実験を披露したことがありますが、高校生たちは目を輝かせておもしろがってくれました。『人工的につくった心臓を生体に移植したら機能するのか』『人工的につくった膵臓は、もともとある膵臓の代わりとしての役目を果たせるか』など、自発的に疑問も生まれてくる。こうした経験をすることで、理科を本当におもしろいと感じられる生徒・学生が育ってくれたらと思っています」。

さらにレベルの高い理科教師の養成を

教職コースを窓口として、玉川学園(1-12年生)とも連携し、優れた理科教師を育てている玉川大学農学部。今後の展望について、有泉教授は次のように話します。「現在は、教員の採用枠が増えているため、理科教師を志望する学生の就職率も高い状況です。しかし、採用枠はいつまでも多いわけではありません。ですから、今以上に質の高い教育を提供し、より優れた理科教師を育てていくことが重要です。玉川学園(1-12年生)との連携をさらに緊密にし、児童・生徒の理科に対する関心を深めることはもちろん、今後は大学院進学も視野に入れた教育の場を提供し、さらにレベルの高い教員を輩出できる体制を整えていきたいと考えています」。