科学するTAMAGAWA 学芸員資格の取得を通した全人教育の実現

2012.07.25

全学部生が学芸員資格を取得できる玉川大学。
それは、リベラルアーツを学び、コミュニケーション力を磨くことで、
『人間文化のすべてをその人格の中に調和的に形成する』という
全人教育の理念を具現化するものでもあります。

全学部生が学芸員資格を取得可能

みなさんは、学芸員という職業をご存じでしょうか。これは、博物館(美術館や動物園、植物園なども含む)で資料の収集や保管、展示、研究などを行う職業で、学芸員になるためには国家資格を取得する必要があります。

大学では、文部科学省によって定められた「博物館に関する科目」の単位を修得することで、卒業時に学芸員の資格が取得できますが、一部の学部学科に限られているのが一般的。しかし、玉川大学では7学部すべての学生が、学芸員の資格を取得することが可能です。

ではなぜ、玉川大学では学芸員の資格を重要視しているのでしょうか。そして、学芸員としての力を身につけることには、どのようなメリットがあるのでしょうか。芸術学部メディア・アーツ学科の加藤悦子教授にお話を伺いました。

リベラルアーツを学ぶ伝統

「博物館は、大学、図書館と並ぶ社会における文化の集積地のひとつです」と加藤教授は話します。「そこで働く学芸員には、人間文化を幅広く理解していることが求められます。そのために必要となるのが、学問分野を横断する学際的な学び、言い換えれば、リベラルアーツの学びです。それは、『人間文化のすべてをその人格の中に調和的に形成する』ことをめざす、玉川学園の全人教育の理念を具現化する方法であるとも言えるのです」。

実際、学芸員資格関連科目には、人間の文化を幅広く学ぶ内容が組み込まれていると加藤教授。「例えば『博物館概論』では、“博物館とはなにか”についてや“博物館の歴史”を学びますが、それはつまり、“文化とはなにか”や“文化の歴史”を学ぶことに他なりません。さらに玉川大学では、文部科学省が定める科目の他に、文化史・音楽史・演劇史・美術史・民俗学といった幅広い分野における選択必修科目を設置し、文化や文化財についての知識を深められるように配慮しています。これにより、学際的に広く学べるだけでなく、学芸員として働くために必要な専門性を深く掘り下げることも可能。要するに、学芸員としての力を身に付ける学びは、創立以来リベラルアーツを重要視してきた玉川大学の教育方針と合致するものなのです」。

教育博物館をもつことのメリット

こうした学びを支えているのが、玉川大学教育博物館の存在です。「学芸員の資格を取得するためには、実際に博物館で業務を体験する『博物館実習』を履修する必要があります。一般的な大学では、外部の博物館に依頼し実習の時間を割いてもらうことになりますが、その場合、実習時期と大学の授業期間がバッティングしてしまうことが起こり得ます。その点、玉川大学では博物館法で定められた博物館相当施設である教育博物館を学内に所有しているため、比較的自由に実習時期を調整でき、大学のカリキュラムとのスムーズな両立が可能となっています」と加藤教授は説明します。

また、教育内容に関しても学内に博物館をもつメリットは大きいと言います。「『博物館実習』には大学内で学ぶ学内実習と、博物館で実地に学ぶ学外実習があります。外部の博物館で学外実習をする場合、内容はその博物館に任せることになりますが、玉川大学では教育博物館の側でも大学での授業内容を把握し、それと連携した実習を行っています。これにより、効率的で効果の高い学びを実現することができるのです」。

さらに、学内実習でも教育博物館の資料を使った実習ができる点も非常に有益だと加藤教授。「例えば、教育博物館から土器を借りて梱包方法を学ぶ学内実習などは、内部に博物館を持つ大学でなければ実現できないでしょう。また、大学の教員も博物館と密にコミュニケーションを取っています。例えば芸術学部でライトアートを専門にしている教員が制作した、美術館で作品を照らすLED照明の実験装置を実習で活用するなど、博物館と大学が有機的に連携した学びを実現していますが、それは学芸員をめざす学生にとって大きなメリットとなっています。そして何より、学内に多くの資料を備える教育博物館があり、常に本物に触れられる環境があることは、学芸員としての専門性を磨く上で大変役立つことなのです」。

社会人としてのコミュニケーション力を培う

教育博物館における実習のほかに、大学で実施する科目にも玉川ならではの工夫があると加藤教授。「玉川大学では、伝統的に教員養成に力を注いでおり、これまで数多くの教員を社会に送り出してきました。そこで、学芸員を養成する科目においても美術館教育を重視し、美術教員として生かせる力を身につけさせようと考えています。美術館における学芸員の重要な仕事の1つは、作品と来館者の間に立って、作品の良さや価値を伝えることです。しかし、来館者が子どもなのか大人なのか、美術に造詣が深い人なのかそうでない人なのかなど、条件によってそれを伝える方法は異なります。そこで大切になるのは、鑑賞者ごとに異なるコミュニケーションの方法を考え、どうすれば鑑賞者によりよく伝わるかを学ぶことです。近年、小・中・高校の美術の授業でも鑑賞教育が重視されているため、こうした美術作品を通したコミュニケーションの方法を学ぶことは、美術教員志望の学生にとって非常に大切になってきているのです」。

そのために『博物館教育論』という科目では、博物館と大学が連携しコミュニケーション力、鑑賞力を身につける学習を行うと言います。「鑑賞者と作品・学芸員と教員・学芸員と学生・教員と学生など、それぞれの関係の中で総合的な対話について考え、実践する授業を行う予定です。また、鑑賞教育のためのプログラムやワークシート作成などを演習として行うことも計画しています。そのためには、作成者は作品を理解するとともに、プログラムやワークシートを使用する相手をよく観察し、一方的でない対話について考える必要があります。これにより、学芸員や美術教員としてだけでなく、社会全般で通用するコミュニケーション力が培われることになります。もちろん、学生自身にもワークショップや鑑賞ツアーに参加してもらい、その報告会を踏まえた上で授業を展開します。できれば、学芸員や大学の美術教員の講義を受け、しっかりとした鑑賞力を養った上で演習に入りたいと考えています」。

さらに、“視覚の時代”と言われる現代社会のニーズに適ったコミュニケーション力を養成する学びも展開すると加藤教授。「コミュニケーションというと言葉によるものを考えがちですが、もちろんそれだけではありません。特に博物館であれば視覚的なコミュニケーション、つまり展示を通したコミュニケーションというものが大切になります。そこで『博物館展示論』という科目や『博物館実習』では、博物館の展示方法を来館者とのコミュニケーションと捉え、さまざまな展示の方法を学習します。こうして培われる力は博物館だけでなく、書店・カフェ・雑貨店・デパートなど、“商品をディスプレイ展示する”あらゆる場所で役に立つ、 一般社会人としてのコミュニケーション力の育成につながるものと考えています」。

全人教育としての学芸員養成

このように玉川大学では、社会人としての基礎力であるコミュニケーション力を高めるためにも、学芸員資格を全学部生が取得できる体制を整えているのです。そしてこれらは、玉川大学がめざす全人教育の理念にしっかりと根付いたものだと加藤教授は話します。

「かつてフランス革命によりルーブル美術館が市民に開放されたとき、市民はそれまで見たこともない美術―文化財の価値を理解することが難しかったという指摘があります。それは、人間の文化に対する理解が、まだ市民の間に形成されていなかったからに違いありません。過去の文化を理解できなければ、その先の文化の発展は望めません。はじめにもお話ししましたが、学芸員としての力を身につけるということは、人間文化を幅広く理解するということ、つまり、その国の文化の発展に寄与するものとも言えます。そしてそれは、『人間文化のすべてをその人格の中に調和的に形成する』ことをめざす、玉川学園の全人教育の理念と一致するものなのです」。