科学するTAMAGAWA 徹底した体験教育で子どもと保護者に寄り添える乳幼児教育者に

2011.12.25

乳幼児期の子どもをいかに保育するか、
そういう子を持つ親をいかに支えるかは、
現代社会の大きな問題となっています。
そうした問題に対応できる乳幼児教育者を育てるために、
玉川大学では、徹底した体験教育を行っています。

多様化・高度化する乳幼児教育の仕事

社会環境の変化による地域のつながりの希薄化や、核家族の増加などの影響により、現代社会における「子育て」は、大変難しい問題になってきています。それに伴い、乳幼児期の子どもの教育や子育て支援などに携わる幼稚園教諭や保育士に求められることも、多様化・高度化してきているのが現状です。そのような中、玉川大学では幼稚園教諭や保育士の免許・資格取得をめざす学生たちに、どのような教育を提供しているのでしょうか。幼稚園教諭の経験を持ち、子育て支援活動にも従事している、教育学部乳幼児発達学科の大豆生田啓友(おおまめうだ ひろとも)准教授にお話をうかがいました。

「私が授業で重要視しているのは、徹底した体験教育です」と、大豆生田准教授は語ります。「乳幼児期の子どもたちは、遊びなどの体験の中から『自分が生きている世界ってこんなにおもしろい!』『自分が世界に働きかけるといろんなことが起こる!』ということを理解していきます。そのような子どもたちに対して、知識を詰め込み理屈でわかっただけの教育では、現場であまり役に立たないのです。ですから、子どもたちがどんなことを体験し、それをどう感じ、そのとき何を考えるのかを理解するために、学生にも子どもと同じ体験をしてもらうことにしています」。

徹底的な体験型授業

新聞紙を落とさず走ってみよう

例えば、子どもがよくする遊び“泥だんごづくり”も授業で実践していると大豆生田准教授。「子どもは素材選びから泥を固めるタイミングまでこだわって、何日もかけて泥だんごをつくります。堅くて丸くてぴかぴかの泥だんごをつくるのに、全身全霊で取り組むのです。授業では、それを学生に体験してもらいます。学生たちは、最初は『たかが泥だんご』と甘く見ていますが、やってみるとうまくいかないことがほとんど。次第に『先生、どうしたらいいの……』と、まるで子どものような反応を見せるようになります。また、泥だんごができあがると、子どものように大切にし、持って帰りたいという学生も多くいます。このように実際に泥だんごをつくってみることで、子どもがそのときどんな気持ちなのかが実感として理解できるようになるのです。授業のあとで子どもたちが一生懸命泥だんごをつくっている様子を映したビデオを見せると、涙を流して感動する学生がたくさんいますよ。この遊びが子どもにとっていかに大切なことなのかが、実感となってわかっている証です」。



絵本の読み聞かせ

他にも、学生に絵本の読み聞かせを行ったり、新聞紙を思い切り破いてかけあったり、自由に服をつくりファッションショーをするなど、授業ではできる限り体験の要素を取り入れると大豆生田准教授は続けます。「学生はとかく、先生はどう子どもにかかわるかを学びたがるのですが、それは後の話です。まずは子どもと同じ感性を身につけるのがスタート。なぜなら、大人は成長する過程で子どものようなものの見方、考え方から離れてしまっているからです」。

例えば、子どもが夢中になって大はしゃぎするような絵本を学生に読み聞かせても、最初は「要するに何?」と関心を示さないのがほとんどだと言います。「それはつまり、答えを早急に求める大人の反応なのです。それでは、子どもの気持ちなんてわかるわけがない。そこで一つひとつ『子どもはどう思うだろう』『何を感じるだろう』と学生たちに問いかけます。すると次第に学生たちは、子どもと同じように絵本に反応するようになります。子どもの気持ちがわかるようになるのです。そうなってはじめて、実際の乳幼児教育の現場で子どもが本当に求めているものを提供できるようになるのです」。

親の気持ちもわかる人を育てる

ただし、現在の乳幼児教育者が身につけなければいけないのは、子どもとの関わり方だけではありません。子育てをする保護者をどう援助できるかが、いま、現場では求められています。「子育て支援は、現代社会の重要な問題です。子育ては『母親の責任』という風潮がありますが、歴史的に見ると全くそんなことはないのです。戦前までの日本では大家族が基本であり、子どもの面倒を見るのは祖父母の役割が非常に大きかった。また兄弟も多く、小さい子の面倒は兄弟が見ていた部分もあります。さらに、自分の家だけでなく地域社会で子どもを育てるという考え方がずっと存在していました。地域のみんなが助け合い、声を掛け合って子どもを育てていたのです。それが戦後、父親は会社勤めで家におらず核家族化も進んだことで、家には母親と子どもだけが残されるようになりました。近所の付き合いも少なくなった。母親一人で子どもを育てるようになったのは、ここ最近の話なのです。今まで家族や地域ぐるみでしていた子育てを、母親一人に背負わせるというのは当然無理があります。乳幼児教育者は、そのことを理解して親を支援する必要があるのです」。

しかし、学生にそれを理解させるのは優しいことではないと大豆生田准教授。「学生は当然親になったことはないですから、親の気持ちはわかりません。そこで、具体的に“親になるシミュレーション”をしてもらいます。例えば、『何歳で結婚するか』とか『何歳で子どもを授かる予定か』など。この辺までは学生も何となく考えられます。しかし、『赤ちゃんのいる一日の生活はどう変わるか』『どこで暮らすのか』『その間取りは』『家賃は』『仕事は』と具体的に聞かれると、全然想像できないのです。また、自分の両親はどうだったかを考えてもらうこともあります。このように、実際の親の視点を知識ではなく実感として理解してもらうことで、保護者をどう援助したらいいかを学びます」。

子育ての経験が大きな転機に

こうした教育を行うようになったのは、自身の子育て経験が大きな転機だったと大豆生田准教授は話します。「自分は“いい父親”だと思っていたのですが、実は全く何もわかってなかったのです。次男が生まれたときには妻から『研究者として言ってることとやってることが全然違う』と言われました。そこでゴミ捨てや朝食づくりをかって出たり、次男が夜泣きしたときには面倒も見ると宣言したんです。しかし、夜泣きへの応対は本当に大変で、『うるさい!』と怒鳴りつけたこともありました。そんな自分に愕然としましたね。仕事では『子どもの気持ちにより添う』などと言っていましたが、親になってみたらそれが全然できない自分がいたのです。親となるのがどれだけ大変なことか実感し、どうすれば親を支援することができるか考えなければと思いました。それを未来の乳幼児教育者となる学生に伝え、保護者と信頼関係を築ける人材を育てていきたいと思っています」。

執筆した書籍

大豆生田准教授はこうした経験を元に、現在では子育て支援を行うNPO法人の理事も務め、テレビや雑誌、講演会などでも子育て支援に関する周知活動を行っています。「将来のことばかり考え焦ったり、競争社会の中で我が子と他の子を比較して不安を感じたりしている保護者がたくさんいます。子育て支援ができる乳幼児教育者を育てるとともに、より多くの人に子育て支援についての説明や紹介を行うことで、人と人とが協力して子育てを行える社会を実現していくことも、研究者としての私の使命だと思っています」。

ゼミも卒論も体験を重視

大豆生田准教授は、ゼミでも徹底して体験型の教育を実践しています。「協力して一つのものをつくり上げる喜びや感動を実感してもらうために、学園祭ではゼミのメンバーで「エルマーのぼうけん」の劇を行いました。学生たちは忙しいさなかアルバイトや部活の時間を削って本当にがんばってくれました。公演のあとは、やり遂げた感動でみんな大泣き。とてもいい仲間になったと思います。みんなで協力して一つのものを作り上げる経験は、教育者になる人たちに必要なスキルだとも思います」。

さらに、大豆生田ゼミでは卒業論文も体験型です。「幼稚園や保育園に通ったり、私が理事を務めるNPO団体などを通じて、子どものいる家庭へ出向き訪問ボランティアをするなど、現場の体験から卒業論文を書くよう指導しています。専門書を読んで、そつなくまとめただけの論文は必要ありません。大切なのは、『あなたが何をやりたいか』ということ。その想いが込められた卒業論文でなければ、誰も説得することはできません。学生には、(1)誰を説得したいのかを決め、(2)現場に行き、子どもや親、保育者の姿や声などから証拠を集め、(3)あとから専門書でそれを裏付けることを求めています。そうすることで、多くの人を説得する力が養え、それは、保護者に自分の保育を伝える力にもつながるのです」と大豆生田准教授。

最後に、どんな乳幼児教育者を育てたいかという質問に次のように応えてくれました。「私のゼミのテーマは『ラブ&ピース』です。子どもが子どもらしく(自分らしく)あることを大事にできる社会は、幸福感あふれる豊かな社会です。いまは必ずしもそういう社会ではありません。私たち一人ひとりは小さいけれど、自分たちはそうした幸福な社会を創り出すために貢献するのだという大きな志を持ってほしいと思っています。そんな思いを持ってアクションすれば、きっと誰より魅力的な保育者になるはずです」。