科学するTAMAGAWA 40年以上の歴史をもつ玉川学園の水泳教育

2013.07.25

1972年、全国でも有数の設備を整えた屋内プールが
玉川学園に誕生しました。
以来、玉川学園・玉川大学では水中での安全を考慮した
独自の水泳教育を展開しています。

時代に先駆けて建設された屋内50mプール


玉川学園には、日本水泳連盟の競技規則に従って認可された屋内50mプールが設置されています。その完成は今から40年以上前の1972年。当時は全国的に見ても屋内プールがきわめて少ない時代であり、玉川学園のプールは日本水泳界で、大きな注目を集めました。

玉川学園はなぜ、それほどプールの設置に力を入れていたのか。また、どのような水泳教育が展開されてきたのか。プール完成当時から現在まで、玉川学園の水泳教育を牽引してきた、教育学部教育学科の金井茂夫、赤堀実の両教授に、その歴史と意義について話を聞きました。

当時、日本でも有数の設備を設置

「玉川学園の屋内プールは全7コースあり、水深は120cmから160cmで、横方向のコースロープや指導用ブリッジなど他のプールにはない様々な工夫が施されているのも特徴です。また、災害時の防火用水としても使用され、さらにこの9月には、災害時に飲料水として利用できる1050t対応の浄水機も設置する予定です」と赤堀教授。

コースロープ
2m間隔で横方向にロープが張れるよう設計。子どもたちが横方向(15m)にも泳げるように、また目的に合わせて区切って使えるように配慮。

指導用ブリッジ
指導者が緊急にプールを横切れるように設置しているが、受講者数によって利用面積を変えたり、上から泳ぎのフォームの確認や、25mでターンができるようにもなっている。

水中窓
選手の泳ぎをチェックする。水中窓と水中スピーカーを使って指導。

体育教育の三本の柱として

玉川大学のプールが完成した当時、日本に50mの屋内プールは、千駄ヶ谷の東京体育館と代々木のオリンピックプールがある程度でした。その時代にこれほどの設備をつくることに、どのような意図があったのでしょうか。赤堀教授は次のように説明します。「一つは創立者の小原國芳が『世界に類がない一流のプールをつくりたい』と考えていたことが挙げられます。また、一説には公認プールよりも大きいプールをと、長さ51mのプールを構想していたということも聞いています」。

「もう一つは、当時副学長の小原哲郎がデンマークのオレロップを訪れ、現地の屋内プールを視察していたことも影響したと思います。緯度が高く屋外で水泳ができる期間が短いヨーロッパは屋内プールが充実していて、水球や飛び込みにも対応できる水深の深い本格的なものが多くありました。一流の設備を持ち、しかも一年中使用できる屋内プールということで、玉川学園のプールは建設されたのだと思います。当時玉川学園ならではの教育として定着していたデンマーク体操とスキーに加え、水泳を体育教育の三本の柱とする期待がありました」。

金メダリストの練習場や公式大会の会場としても活躍

「当時は様々な学校・施設から見学の依頼があり、新しいプールをつくる参考にと視察に訪れる方も大勢いました。また、ミュンヘンオリンピック(1972年)金メダリストのジョン・ヘンケン氏、田口信教氏(鹿屋体育大学教授)、ソウルオリンピック(1988年)金メダリストのジャネット・エバンス氏、鈴木大地氏(日本水泳連盟会長)も視察や練習に訪れ、世界選手権の最終選考会場として使用されていました。今でも東京都の公式大会で使用されています」。

学内に向けては、完成当初から水泳教室を開催しています。「水泳教室は毎週日曜日と夏期休業中の1ヵ月間、学内の児童・生徒向けに開催しています。当初は体育教員が指導していましたが、現在は大学水泳部が指導を行っています」。

その中で泳力検定という玉川学園独自の判定基準も設けています。「小学1年から高校3年まで各学年で目標とする級を定めています。クロールや平泳ぎなどの能力だけではなく、立泳ぎ、横泳ぎ、潜水、飛び込みといった競泳種目以外の水泳能力も評価の対象になっています。足の着かないところや流れのあるところでも安全に泳げるようになることから、体育科で考案しました。授業では、ブリッジの上からの飛び込みなども取り入れています。高いところから飛び降り、自分の身長よりも深いところへもぐる経験は、緊急で海の中へ飛び込まなければならなくなった時にも役立てることができます。そういったことがないことを願いますが、この経験を一度するかしないかで意識が変わってくるのです。玉川学園のプールは深さがあるので、こうした安全教育の指導にも適しています」。

安全教育としての水泳の必要性

安全教育としての水泳の必要性について、金井教授は次のように話します。「日本は水難事故が非常に多い国で、OECD加盟国の中では、水難による死者の割合が断トツに高いのです。これには理由があって、昭和40年代に、当時の文部省の方針により、水泳教育の充実のため全国の小中学校にプールが設置されました。水深90cm~120cmくらいの“浅く型にはまったプール”が建設されたのですが、替わりに臨海学校を行う学校は減っていきました。結果として、自然水域での水泳を経験する機会が無くなってしまったのです。これが、水難事故の増加に繋がっていると考えられます。さらに平成に入り、学校での水泳の時間数が削減されたことも拍車をかけました。また、新しい分野の教育も加わり、教員が水泳教育に時間が割けなくなりました」。

その結果、日本の水難による死者の割合は、ヨーロッパの約5倍にも上るほどになっています。「私はイギリス・アメリカ・オーストラリア・中国といった海外のプール環境を視察しましたが、どの国にも必ず深いプールがあり、そこで安全教育としての水泳の指導ができるようになっています。日本にはその環境がありません。それが、死者率の差として現れてもいるわけです。スキューバダイビングやウインドサーフィン、ジェットスキーなどマリンスポーツが多く親しまれるようになってきている現在、安全教育としての水泳を学校で教えることは、非常に重要だと考えています」。

自らの命を守る着衣泳

その点を考慮し、玉川大学の教育学部では安全教育としての水泳に関する授業に力を注いでいます。「クロールや平泳ぎといった泳法を教えることも大切ですが、他にも、さまざまな水あそびや水中運動を経験させることにより、自己保全能力を高めること学ばせています」。

その中でも、特に重要視しているのが着衣泳です。「水難事故は水泳中に起こるとは限りません。むしろ衣服を着たまま川や海に落ちるケースの方が事故に繋がりやすいのです。そのため着衣泳を経験しておくことは、自らの命を守るためにとても大切なことなのです。単なる泳法の指導であれば、スイミングクラブでも行っています。けれども、それだけでは安全教育とはいえないのです。玉川大学教育学部では、水泳の本質である釣りなども含めた“水辺活動”という観点から、学校の水泳指導ができる教員を育てたいと考えています。だからこそ、大学の授業で着衣泳に力を入れているのです」。

教員免許更新講習にも着衣泳の講座を設けていると金井教授。「自らが泳げない教員が増えています。以前はどの都道府県の教員採用試験でもクロールや平泳ぎで25m泳げることがあたりまえのように問われていましたが、現在の採用試験では、水泳がなくなってきています。そのため、着衣泳の指導ができる教員となるとさらに限定されてしまいます。周囲を海で囲まれた日本の安全を考えると、着衣泳の普及はぜひとも必要なことだと思います」。

水中での自己保全能力を高める指導を

これからの水泳教育の在り方について、「まずは、全国の学校やスイミングクラブでの着衣泳実践の普及です。スイミングクラブは、衛生管理の面から、着衣泳はプールの水が汚れると考えて行っていないようです。きれいな衣類を着て行えば、水面の油脂を衣類が吸着して、逆に水質を良くする効果も期待できます」。

「次に、自己保全能力の確認です。着衣泳の授業は、普通年に1回、単なる体験学習となっていて、到達目標が不明確なのが現状です。例えば、低学年はシャツを着用し、ペットボトル使って浮きながら13mの移動、高学年はペットボトルなしで移動するなど、授業の中で到達目標をしっかり定めれば、着衣泳と自己保全をリンクさせることができるのです。このように着衣泳のさらなる普及と通常授業で水中の自己保全能力を高める指導の確立が、今後の日本の水難事故・水難死者を減らすためにも急務であると思います」。