科学するTAMAGAWA 国内で熱帯原産の果樹の栽培を可能にする

2013.08.23

色鮮やかな果実、独特な形、芳醇な香り、濃厚な甘みと程良い酸味で
私たちの目や舌を楽しませてくれる熱帯果樹(トロピカルフルーツ)。
気候帯の異なる日本で栽培するからこそ見えてくる
課題とその解決策を現地へのフィードバックにつなげる。

熱帯果樹には未解明な現象がたくさんある

かつて『君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。』という歌がヒットしました。しかし、発売された1980年代半ばは、キウイもパパイアもマンゴーもまだ珍しい存在で、輸入される果物といえばバナナとパイナップルがほとんどという時代。それが、近年では、パパイア、マンゴーをはじめとする数多くの熱帯果樹(熱帯地域を原産とする果物)が輸入されるようになり、スーパーなどでも手軽に買えるようになりました。

水野 宗衛 教授

玉川大学でも、そうした熱帯果樹の研究が行われています。研究の中心となっているのが、鹿児島県の久志農場で熱帯果樹の栽培を始めた、現在、農学部生物資源学科で教鞭を執る水野宗衛(みずのそうえ)教授です。
「久志農場に赴任した当初は、ポンカンやタンカンなど晩生柑橘類を栽培していましたが、最低気温が0℃を下回らず、最高気温も33℃くらいという気候条件から、マンゴーやライチといった果樹を導入したのが熱帯果樹栽培の始まりでした。ところが、生育の環境としては問題がないのに全く花芽(発達すれば花となる芽)が着かなかったり、花が咲いても果実が成らなかったり……。勉強のために60km離れた地元国立大学の研究農場へ通うこともありました」

マンゴーの原産地はインドやマレー半島といわれています。熱帯には雨季と乾季があり、それが果樹の生育に大きく関わっていますが、温帯に属する鹿児島では、その問題をどう解決するかに時間を要したようです。
「熱帯果樹だからといって常に気温の高い状態を保つのではなく、2月下旬ぐらいまでは低温環境を維持することで、花芽の誘導が可能になるということがわかりました。また、特殊な栽培技術を用いCN率(植物中に取り込まれる炭素と窒素の割合)を上げることで花芽の着きが良くなることもわかってきました。マンゴーは1本の枝の先端に2000から6000もの小花を着けますが、果実はそのうち5、6果しか着きません。また、花粉も雌しべに付着して花粉管を伸ばす“生きた花粉”はわずか1〜2%程度しかないのです。さらに、受粉は虫媒で、人の手で丹念に授粉を行ってもほとんど果実は着きません。3棟のハウスに種類の異なるハナバチやハエを放し、受粉実験を行ったこともありました。結果は、ミツバチが有効で大きな果実を生産することができましたが、まだまだ開花した花の数に比べれば結果率が低いという問題があります。現在我が国で栽培されているマンゴーの多くは‘アーウィン’という品種で、生きている花粉の割合が低いのですが、東南アジアでは70%以上花粉管を伸ばす品種も存在します。このように、まだ解明できていないことがたくさんあるのです」

現在、玉川大学のキャンパスにある農場では15種類にも及ぶ熱帯果樹が栽培されています。そこには久志農場とは異なる苦労があったようです。
「“農業の基本は土作り”と言われるように、植物は土壌の物理性や理化学性の影響をかなり受けます。大学の農場の土壌は元々あった堆積土ではなく客土(他の場所から運んできた土壌)が多く、粘土質土壌で、水はけが良くないのです。さらに牧場で生産されていた堆肥の入手ができなくなったため、有機物の施用量が激減し地力が低下してしまいました。また、ハウス栽培のため地面は人の足で踏み固められ、ますます水はけの悪い土壌になってしまいます。土壌改良を毎年行い“地力”を回復させることも大事な作業です。

品種による果実断面の違い(スターフルーツ)
長花柱花(左)、短花柱花(右) 

さらに、土の問題だけでなく、果樹固有の問題も解決する必要があります。
例えばスターフルーツは、木によって花の形が異なります。雄しべよりも雌しべが短い短花柱花とその逆の長花柱花の2つのタイプがあり、同じタイプの花の花粉では果実が着きません。しかし、開花時期によってはどちらか一方だけでも果実を着けることがありますが、原因ははっきりわからず、現在調査中です。果樹は自家不和合性(自分の花粉では実を着けない性質)のものが多く、品種同士の相性が重要になってきます。それを早くに見きわめる必要があります」

“近年の猛暑”は熱帯果樹にも過酷な条件

温室内の温度上昇をメールで
配信するシステムも導入

一方、地球温暖化の影響からか育てやすい環境になっているとも。
「平成になってからキャンパスの農場で栽培を始めましたが、当時は最低気温が−10℃を下回ることがあり、11月上旬には霜が降りていました。現在はせいぜい−5〜6℃で、霜が降りるのも12月になってからです。ただ、暑くなりすぎるというデメリットも出てきています。とくにハウス内は熱がこもりやすく、夏期は連日40℃を超え50℃を超える日も少なくありません。熱帯果樹は寒さに弱いということは容易に想像ができますが、決して熱さに強いわけでもないのです。温度が高い環境では植物も呼吸量が多くなって消耗するだけでなく日焼けを起こします。35℃や36℃という温度は人間でもつらいように、ハウス内で栽培されている植物にとってはきわめて過酷な状況です」

国内の環境の異なる場所で栽培する意義

熱帯果樹品種の解説(日本熱帯果樹研究協会)

そうした苦労を重ねながら、東京、鹿児島と気候や土壌の異なる温帯の環境で、熱帯果樹を育てる意義はどんなところにあるのでしょうか。その問いに水野教授はこう答えてくれました。
「温度的に栽培に制限のある本学キャンパスでは、本格的な栽培試験には限界があります。一方久志農場では、生理生態的な調査や品種改良などの試験には限界があり、お互いにメリット、デメリットを補うことができるのです。また、ほぼ同じ条件で栽培し鹿児島と本キャンパスという異なる環境が生育や品質に及ぼす影響などについて、その原因を探ることも可能です」

熱帯果樹の特性や栽培方法の発表(日本熱帯果樹研究協会)

水野教授が着目しているのは“研究対象”としての側面だけではありません。熱帯果樹は種類が多く、また形や香り味が独特ですが、ビタミンやミネラルを豊富に含んだ機能性食品という点も要因として挙げられます。
「アセロラはレモンの30倍ものビタミンCがありますし、グアバは果実に含まれるビタミンCだけでなくポリフェノールを多く含む葉にも注目されています。アボカドは“森のバター”といわれ脂肪分を多く含みますが、コレステロールを減らす不飽和脂肪酸が多いなど熱帯果樹には温帯果樹には見られない機能を含んでいます。北海道でもマンゴーが栽培されているように、栽培のノウハウができつつある果樹も出てきました。熱帯果樹の多くは輸入されており、食卓に上がるまでに時間が必要となるため、早めに収穫しています。国内で栽培が可能になれば、その果実が持っている本来の味を楽しめることになります。もちろんそれを産業として成立させるには、販路や顧客などの確保も必要となるでしょう」

キャンパスで栽培されている熱帯果樹の紹介(一部)

  • 写真最上段左から、グアバの赤色の花、白色の花、果実の断面
  • 写真中段左から、ジャボチカバの花、果実 / ライチの成熟果実
  • 写真最下段左から:ドラゴンフルーツの開花、蕾、果実、果実の断面

キャンパス内で栽培されている熱帯果樹は、世界三大美果に数えられる『マンゴー』『チェリモヤ』をはじめ、初めて名前を聞くようなものまで多種多彩です。「接ぎ木から水やり、温度管理、受粉作業、果実の袋がけ、収穫、品質調査など年間を通して“生きているもの”を対象とした学びから、毎日の変化を見る大切さと継続することの大切さを学んでほしい」と水野教授はいいます。現在、キャンパスの農場ではこれまでの研究の深化と合わせて、新たな品種づくりにもトライしています。

写真左から チェリモヤの授粉の様子、果実、果実の断面

「酸味を抑えたパッションフルーツとグアバの無核果栽培技術の開発に挑戦しています。独特な香りを持つパッションフルーツは酸味が強いため他の品種と交配を行うことや、異なる栽培方法などで酸味を1%程度まで下げることができないか試行錯誤しています。グアバは植物生長調節剤を用いて種なし果実を作っていますが、濃度や使用回数など試行錯誤の連続です。また、様々な果実の品質向上を目的として果実にかける袋の素材の検討を行っています。受粉効率の向上や良質な果実の生産、新たな機能性の発見なども継続的に研究していきます」

写真左から、パッションフルーツへのミツバチの訪花、グアバの果実の袋がけ、パッションフルーツの成熟した果実

動画配信:
クロマルハナバチを用いたパッションフルーツの受粉試験(左)、ドラゴンフルーツの花の中を探る(右)