科学するTAMAGAWA 「ものつくり大国ニッポン」の技術力を支える工学部の学び

2013.09.25

科学技術は20世紀に急速に発展し、日本も世界屈指の技術国・工業国となりました。
世論調査によれば、70%以上の人が「日本の科学技術は諸外国に比べ進んでいる」と感じ、
「国際的な競争力を高めるためには科学技術を発展させる必要がある」と考えています。
これからの科学技術はどうあるべきか、そしてその技術を担う人材をどう育てるのかを、
玉川大学工学部における教育と人材育成から考えます。

成熟期を迎えた科学技術で日本が果たす役割は

イギリスで起こった産業革命を発端に世界が工業化へ舵を切ったのが18世紀後半から19世紀にかけて。約1世紀遅れで日本にもその波が届き、以来、日本はものつくりを産業の中心として発展し、数多くの技術や製品を生み出しています。国連工業開発機構(UNIDO)の報告によれば、日本は工業生産総額、世界工業力競争指数ともに世界のトップ3にランクされています。 その基盤・根幹となっているのが機械工学です。機械工学とは、機械の設計・製作・性能・利用など、機械に関係するすべてのことについて、理論的、実験的に研究する学問分野で、工学の王道ともいえる学問です。

そうした機械工学の熱力学・伝熱工学を専門に研究しているのが、玉川大学工学部機械情報システム学科の大久保 英敏(おおくぼ ひでとし)教授です。
「日本の技術は大和時代から発展を続け、先進性と独創性を発揮しています。宇宙を例に取ればロケット開発分野がありますし、海では深海探査分野、陸路のスピードではリニア中央新幹線の技術があります。このリニア中央新幹線は最高時速約500キロで走行する世界の最先端を行く鉄道で、日本が世界を先導する役割を果たしているといえるでしょう。リニアは、超伝導体を液体ヘリウムで冷やして磁気浮上させる「超電導電磁石」を用いた夢の技術です。さらに、タンカーなど大型船舶の船底に気泡の膜を作り海水との抵抗を低減させる技術や極超音速旅客機開発などでも日本の独自性が発揮されています」。

では、日本を支える技術の根幹をなす「学問を学ぶ意義」や「教授する目的」はどのようなところにあるのでしょうか。
「『和洋折衷』という言葉があるように、日本は古来よりさまざまな文明を吸収して新しい技術を創出し、発展してきた歴史があり、また、その能力に長けた民族であるといえます。新しいものも大切ですが、これまでのものを伝えていくこと、そこから学びさらに発展させていくこと、新しい技術と融合させることが重要であると考えています。当然、技術の伝承をしなければ発達・発展はあり得ませんし、それを止めてしまったら、やがて他国に追いつき追い越されてしまいます。ましてや資源に乏しい日本では、その歩みを止めてしまってはダメなんです。技術はこれから成熟期を迎えます。それを高めるのが日本の役目であり、そうした技術者を輩出していくのが私たちの使命でもあります」。

身の回りのものに広く応用されている科学技術

機械工学は大別すると、熱力学、流体力学、機械力学、材料力学の“4力(よんりき)”があり、その中で、研究室では熱の伝わり方を解明する熱力学や伝熱工学を中心に研究をしています。主なテーマは『着霜』『蓄熱』『噴霧冷却』の3つです。
大久保研究室では、実際にどのようなことが研究されているのでしょうか。

「『着霜』は冷蔵庫の熱交換機やエアコンの室外機に発生する霜を抑制する技術の研究です。冷蔵庫は一定の周期でONとOFFを繰り返していますが、これは熱交換器表面についた霜を溶かすために庫内の温度を0℃以上に上げ、溶けたら再度0℃以下に冷却するというサイクルで動いているための運転です。そもそも霜がつかなければ必要のないことです。そこで、0℃以下でも霜を取り除く方法や霜がつかないような技術の研究をしています。

銅板の表面に微細加工を施し、霜結晶の生成と成長を顕微鏡で観察しているところです。ミクロの世界で霜結晶を見ると、氷の結晶が見えてきます。雪の結晶のように、霜の結晶もきれいな六角形の結晶で構成されています。パソコンの画面上で霜結晶の三次元画像を見ることができます。
微細加工を施した銅板表面の拡大写真です。筋状の溝は幅が0.25mm、深さが0.7mmの寸法で、この溝の部分に霜結晶が成長しないことを世界で初めて見ることができました。
銅板を-15℃まで冷やし、霜結晶を成⻑させ、デジタル顕微鏡で撮影した写真です。冷却する銅板に微細な溝加⼯を施すことによって霜結晶が付かない部分が実現できました。霜結晶が付かない領域は、現在、冷却⾯表⾯全体の75%まで達しています。霜結晶が付着する領域をさらに減らすことを⽬標として研究を⾏っています。
冷却ステージに設置した試料を一定の冷却速度で設定した温度に冷却することができます。 顕微鏡観察システムを用いて、霜結晶の成長などをパソコンの画面上で見るだけでなく、温度変化などのデータを記録することが可能です。

『蓄熱』は、熱エネルギーを蓄え、輸送し、利用する技術です。私たちが普段使っている電気も、火力発電では輸入した化石燃料を燃焼させ、蒸気を発生させてタービンを回し電気を発生させています。ところが、化石燃料のわずか2~3割程度しか有効に使えていないのです。ロスしている分はどうなっているのかというと、熱エネルギーとして環境中に放出されています。単に廃棄しているのです。このうちの半分でも使えるようになれば、新たなエネルギー資源となり得るのです。現在、工場から出る排熱を蓄熱媒体となる人工甘味料を溶かし輸送して、病院や学校の暖房に利用するなど具体的な取り組みが行われています。液化天然ガス(LNG)の冷熱も一部では利用されている例がありますが、多くは廃棄されています。このように、利用されないまま廃棄されてしまっている熱エネルギーはたくさんあります。私たちは、蓄熱・蓄冷によってこれらの未利用エネルギーを有効利用するための研究を行っています。

『噴霧冷却』では、製鉄の際の熱処理の方法によって異なる性質を持つ素材を作る研究をしています。鉄というのは冷やし方によって結晶構造が変わるのです。日本刀を作るときに行う“焼き入れ”はものすごい技術で、この工程を経ることで刃の硬度を確保するのです。しかし、硬度が上がればそれだけ折れやすくなってしまいます。そこで、焼き入れの前に“土置き”という作業を行っています。この工程は、刃となる部分に薄く、刀の背にあたる峰の部分には厚く粘土を塗る作業で、これにより熱の伝わりやすさを変え、刃は硬く、峰は靱性(粘り強い性質)のある“切れ味鋭く折れにくい刀”が作れるのです。ここに日本の鉄鋼業が世界で戦い生き残るヒントがあります」。

鋼鉄の製造ラインと同じような工程で作られるのが、チョコレートなのだそうです。材料を溶かし、冷やして固める……だけでなく、冷やすことで結晶ができる点、冷やす過程で一度昇温させ結晶構造を変えるところまで。
「テンパリングという工程で、それをしないと美味しいチョコはできません。また、夏と冬で融点(溶ける温度)を変えていて、このノウハウは化粧品の分野にも応用されています。私たちは、融解や凝固するときの温度や熱量を測定する“示差走査熱量分析”という方法で研究しています。チョコや化粧品にも機械工学の裾野が広がっている一例ではないでしょうか」。

「ものつくり教育」から「心づくり教育」へ

これまで、工学部は「ものつくり教育」と言われてきました。しかし、大久保教授はもはやその次の段階に来ているといいます。
「これからは“心をつくる教育”が重要視されます。科学技術が進展し、今後もいろいろな機械や製品ができてきますが、それは人類・地球のためのものでなければなりません。さらに私たちは、「ものがたり」として技術をいろいろな人に伝えていかなければならないと考えています。その取り組みとして優れた機械を認定する『機械遺産』の活動を行っています。開発された物には携わった技術者がいます。そうした人の関わりを織り交ぜながら機械工学の面白さを「ものがたり」として伝えていくための活動です。2007年度から2013年度まで、機械工学の文化発展に寄与した機械61種が認定されていて、江戸時代のからくり人形から0系新幹線、ウォシュレットまで時代も幅広い中から選ばれています(詳しくは日本機械学会のホームページを参照)」。
大久保教授がいう“心をつくる教育”は、玉川学園の全人教育にも通じるものがあります。
「科学技術は、人間の生活を豊かにするためのものということに変わりはありませんが、20世紀は技術が爆発的に進展したため、大量生産・大量消費という、人類と地球にとってプラスばかりではない側面もありました。それを高度な科学技術で変えていくのが21世紀です。人間の生活に機械が寄り添うような成熟した機械を生み出せるのは日本であり、その技術を世界も必要としています。持続可能な社会を実現するには3つのE(Economy=経済、Energy=エネルギー、Environmental conservation=環境保全)の持続的な発展が必要といわれています。そのどれかが突出していてはやがて破綻をきたします。そもそも、工学は物事の真理を人のため、生き物のために役に立てる学問で、多様化した夢を実現させてくれるものです。対面での少人数教育で世界の最先端を学べる環境に加え、大学で学んだことが「世界を変える」可能性を秘めていること……そしてそのきっかけは、意外なほど身近なところにあったりするのです」。