「玉川大学教育博物館ガスパール・カサド 原智恵子コレクション目録」公開記念のシンポジウム開催

2016.12.09

世界的音楽家、スペイン人チェリストのガスパール・カサドと、戦前より国内外で活躍した日本人女性ピアニストの原智恵子夫妻の音楽活動に関する貴重な資料が玉川大学に寄贈されたのは1990年のこと。少しずつ調査・整理が進められ、このたび目録の刊行とデータベースの公開という一つの節目を迎えることができました。これを記念し、10月22日(土)には「カサド作品の世界初演付き記念シンポジウム」を開催し、2人の音楽世界をたどりました。

20世紀の貴重な音楽資料「カサド・原コレクション」の目録刊行とデータベース公開までの歩み

ガスパール・カサドと原智恵子は、「デュオ・カサド」として世界各地で演奏活動を行い、名実ともに世界的に活躍しました。1990年、原智恵子とそのご家族により、縁のある本学にカサド・智恵子夫妻の音楽関係の資料が寄贈されました。これを機に調査・整理が進められ、折々に記念コンサートの開催、カサド作曲で未発表曲の出版などを行ってきました。2012年からは学内外の有識者の参画を得て「ガスパール・カサド及び原智恵子関係資料整理・調査プロジェクト」を発足させ、目録公開に向けて作業を進めてきました。
そして、ようやくカサド没後50年、智恵子没後15年の節目に当たる2016年、目録の刊行とデータベースの公開ができたことからさまざまな記念行事を行っています。新しく生まれ変わった「玉川大学 University Concert Hall 2016」で開催された記念シンポジウムもその一つです。このシンポジウムは、日本音楽学会東日本支部の特別例会として同学会との共催で開催され、学術的にも多くの方々の評価をいただく機会となりました。シンポジウムは2部構成で、1部は「基調報告」と「ラウンドテーブル」、第2部は「実演付き解説」と「演奏」です。

第1部の基調報告は、「カサド・原コレクション」の整理・調査と目録刊行を担当した、玉川大学教育博物館・学芸員の栗林あかね講師が行いました。コレクションの構成は楽譜や出版物、手稿譜、レコード、宗教画などの画集、ショパン国際コンクールの様子を伝えるワルシャワの新聞、手紙や写真など多様な資料について紹介。カサド自作の楽譜には注釈などの書き込みが多く見られる一方、智恵子の楽譜には書き込みがほとんどなかったり、それぞれの扱い方に違いが見られ、興味深いものです。2人ともに録音資料はあまり残っていないため、貴重なものとして旧ソ連に1963年で録音されたデュオ・カサドのレコードがありました。演奏会プログラムでは、カサドが2回目に来日した時の小澤征爾指揮のNHK交響楽団の定期演奏会や、1937年のワルシャワで行われた第3回ショパン国際ピアノコンクールに智恵子が出場した時の演奏会プログラムも含まれています。

データベースは、10月24日から玉川大学教育博物館のホームページで公開されています。簡易検索と詳細検索が可能で、詳細検索ではたとえば演奏会プログラムではカサドと智恵子が演奏した演目はすべて分かるようになっています。現在も資料の整理や調査は継続しており、都度データベースの更新や公開が行われる予定です。

続く「ラウンドテーブル」には、生前の原智恵子をご存知の堤剛氏(チェリスト・サントリー芸術財団代表理事・日本芸術院会員)をゲストに、玉川大学教育博物館の「ガスパール・カサド及び原智恵子関係資料整理・調査プロジェクト」の委員である津上智実氏(神戸女学院大学音楽部教授)、岸本宏子氏(昭和音楽大学音楽学部教授)、星野宏美氏(立教大学異文化コミュニケーション学部教授)、林淑姫氏(旧日本近代音楽館事務局長・主任司書)をパネリストとして、カサド夫妻と資料についてお話しいただきました。堤氏からは、フィレンツェの夫妻の自宅で名器ストラディバリウスの試奏の様子など、演奏家ならではのエピソードの紹介がありました。津上氏は、神戸女学院で一時期教鞭をとっていた原智恵子の指導者としての実績を紹介されました。わずかな期間の教授生活でありながら、優秀なピアニストを多数輩出していたそうです。岸本氏は、目録の編纂方式について、星野氏は、コレクターとしてのカサドコレクションの一つであるフェリックス・メンデルスゾーンの直筆譜を中心にカサドの交友関係もご紹介いただきました。林氏は、教育博物館が整理した「演奏家」の資料の今日的意義についてお話いただきました。

幻の弦楽器「アルペッジョーネ」による演奏と、世界初演のカサド編曲チェロ四重奏の調べに酔いしれて

第2部は大ホールにて、まず最初に、作曲家・元玉川大学芸術学部長の土居克行氏による解説付きで「アルペッジョーネ・ソナタとアルペッジョーネ協奏曲」が、元東京交響楽団首席チェロ奏者のベアンテ・ボーマン氏と栗林講師による実演で行われました。ここで使用されたのが、同曲の作曲者であるフランツ・シューベルトが愛した「アルペッジョーネ」という弦楽器。これはチェロの演奏技術を応用した楽器で、アルペッジョーネ研究家で製作者の奥村治氏より拝借した貴重な逸品です。珍しい楽器に聴衆の皆さんも興味津津といった様子でした。同曲はシューベルトのソナタをもとにカサドがチェロ協奏曲にアレンジしており、シューベルト版とカサド版を要所要所で比較して解説と演奏を聴くことができ、非常に有意義なひとときでした。

続いて、ガスパール・カサド編曲のチェロ四重奏曲を2作品披露しました。2作品ともこれまで未発表で、世界初演となりました。演奏はラウンドテーブルに参加されたチェリストの堤剛氏、先の実演付き解説で演奏を担当したベアンテ・ボーマン氏、京都市交響楽団チェロ奏者のドナルド・リッチャー氏、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団チェロ奏者の香月圭佑氏(本学卒業生)の4氏によるものです。最初のJ.S.バッハの作品はゆったりと静かな情感あふれる曲調、次の作品は5楽章のうちの第1楽章で導入部分とクライマックスに弦を爪弾くリズムが印象に残る曲でした。聴衆から大きな拍手が湧き起こり、記念シンポジウムは無事に幕を閉じました。

「デュオ・カサド」を2人のコレクションからたどる特別展は来年1月22日(日)まで開催中です(入館無料)。ガスパール・カサドと原智恵子によるデュオ・カサドの音源や発売中のCDの視聴コーナーも用意しています。また、学芸員が展示の見どころを解説する「ギャラリートーク」は、2017年1月17日(火)の13:30~14:30に開催(入場無料・予約不要)。2017年1月15日(日)には「ミニコンサート」(15:00~16:00、入場無料・予約不要)が開催されます。ぜひ大勢のみなさまにお越しいただき、2人の音楽世界を堪能していただきたいと思います。

ギャラリートークの様子
ミニコンサートの様子

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