アグネス・チャン氏の講演会など、世界のさまざまな問題について考える、SGHのグローバルキャリア講座が開催されました。

2017.01.25

国際社会でリーダーとして活躍できる人材を育成するため、SGHとして多文化理解や世界の諸問題に興味を持つようなさまざまなプログラムを展開している玉川学園。10月には国際問題について考える、さまざまなプログラムが行われました。


まず10月5日(水)〜24日(月)に、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の協力によって、グレッグ・コンスタンティン氏の写真展「NOWHERE PEOPLE : THE WORLD’S STATELESS –世界の無国籍者たち-」が開催されました。今回の写真展は学内4か所にて行い、大学生・K-12の児童・生徒はもちろんのこと、一部会場では一般にも公開し多くの方に見ていただく機会になりました。コンスタンティン氏は無国籍問題について、写真を通して世界に発信し続けているカメラマン。イヤーインターナショナル賞やアムネスティーインターナショナル・ヒューマンライツプレス賞など受賞歴も多く、2008年からはUNHCRと提携し、世界中で写真展を開催しています。
現在も1000万人の難民が世界に存在するといわれています。彼らは法的地位を有さない、世界で最も脆弱な人々といえます。ソ連崩壊によって一夜にして国籍を失った何百万人ものウクライナの人々や、ミャンマーやバングラデシュで迫害を受けながらも暮らすロヒンギャの人々、そして近年ヨーロッパに押し寄せる中東の人々など。コンスタンティン氏は、そんな彼らが置かれた状況にカメラを向けています。日本で暮らしているとなかなか実感しにくい世界の難民問題ですが、コンスタンティン氏の写真にはそうした世界の「今」が映し出されています。

10月13日には、UNHCR駐日事務所の担当官が来園し、展示会場を視察しました。担当官からは、「無国籍の状況を児童・生徒・学生たちにも知ってもらいたい。
国際的な人材になる生徒さんたちはさまざまな国のひとに接する機会が多いと思いますが、「国」に当てはまらない人もいることを知ってほしい。知ってさらにそのような考え方を広めてほしい。そして、なにか自分でできることはないかと行動に移してほしい」と児童・生徒・学生に対しメッセージをくださいました。

また、10月26日(水)には、SGHグローバルキャリア講座として、アグネス・チャン氏による講演会も行われました。アグネス氏は歌手としての活動だけでなく、ユニセフ・アジア親善大使としても積極的に活動しています。この日はアグネス氏をお招きし、「子供の安全保障」について、玉川学園9-12年生生徒と共に考えていきました。当日は会場となった大体育館に一同が集まりました。そこへ吹奏楽部による「ひなげしの花」の演奏と生徒たちによる拍手に迎えられ、アグネス氏が入場してきます。
この日の講演会では、IBクラスの各学年から1チームが登場し、世界の子供に起こっている問題についての発表がありました。子供の人身売買、子供兵の現状と解決策、ユニセフへの募金がどのように役立てられているのかなど。どのチームも、パワーポイントを使いながら分かりやすく説明していました。

そして、その後にアグネス氏の講演が始まりました。「皆さんのお話を聞いていて、私自身が初めてユニセフに入った頃のことを思い出しました」とアグネス氏。1998年に日本ユニセフ協会大使に就任したアグネス氏は、まずタイを訪れて児童買春の実態を視察。帰国後にその現状を訴えたことが法律を成立させるきっかけにもなりました。また児童兵の問題についても南スーダンを訪れ、現地で交渉の末に子供兵を全員解放したといったエピソードも語ってくれました。「児童兵がいなくならないのは、戦争がなくならないからです」とアグネス氏。こうした活動、特に児童買春への対応については誹謗中傷を受けることも多く、耐えきれずに去っていった仲間もいたといいます。それでもアグネス氏がこの活動をやめなかった理由を語ります。「それは実際に被害者と会ったからです。だからこそ、多くの人に現状を知ってもらいたいと思っています。何よりも、知ることが第一歩になります。もしかしたら皆さんは、自分には何もできないと思っているかもしれません。でも、今日聞いたことを一つの種として持ち帰ってほしい。その種が育っていくことが大事です。日本が行動を起こせば、世界に影響を与えることができるんです」。終始力強い口調で生徒たちにメッセージを送り続けたアグネス氏。生徒たちの心にも、しっかりと種が蒔かれたことでしょう。

またこの日は、第11回UNHCR難民映画祭の上映会も行われました。この映画祭は、世界中から集められたドラマや映画を通して、難民や国内避難民、無国籍者に関する啓発を行うことを目的としています。映画の上映は全国各地の会場だけでなく、日本国内の16の教育機関でも実施。そのほとんどは大学ですが、玉川学園は唯一の総合学園として参加しています。
各会場で上映されるプログラムは異なりますが、玉川学園で上映されたのは「無国籍 〜ワタシの国はどこですか(2009年、監督:玄真行)」です。映画の中では、台湾国籍だったことから日中国交正常化と同時に無国籍となってしまった日本に住む人や、第二次大戦中にフィリピンで日本人とフィリピン人の間に生まれた人など、さまざまな理由で無国籍になってしまった人々について描かれています。映画はそうした人たちを通して、国籍や国そのもの、さらに人としてのアイデンティティなどについて考えさせられる内容となっていました。

この日は、映画に出演していた陳天璽さんもゲストスピーカーとして登場。映画を鑑賞した生徒からの質問に答えてくださいました。現在文化人類学者として活躍されている陳さんは横浜・中華街出身でルーツは台湾にあります。日中国交正常化によって国籍を失いました。陳さんに対して生徒からはさまざまな質問や意見が寄せられました。「どうして無国籍になってしまうのでしょうか」、「日本や世界では、どのようなアプローチをしているのでしょうか」、「二つの国籍を保有している児童が成人する際に国籍を選ぶという行為は、自分のアイデンティティを捨てているような気がします」など。また「こんな複雑な問題が存在しているとは知りませんでした。今後無国籍の人が減るためには何が大切なのでしょうか」といった質問に対して、「国籍を取得することよりも、無国籍でも安心して暮らしていけることのほうが大事なのではないかと思います」という答えが印象的でした。無国籍がもたらすさまざまな問題、そしてこのグローバルな時代に国籍がどのような意味を持つのかなど、多くのことを考えるいい機会となりました。

アグネス氏からのメッセージ、陳さんの実体験、そしてコンスタンティン氏が映し出した難民の現実。そのどれもが、生徒たちには印象深かったことでしょう。これらの体験を通して学んだことが、これからの学びや将来の「種」になるのではないでしょうか。