「ESDと地球市民教育」玉川大学教育学部主催のユネスコスクール研修会が開催されました。

2017.01.12

ESDは、(Education for Sustainable Development)「持続可能な開発のための教育」と訳されています。
環境、貧困、人権、開発といったさまざまな地球規模の課題を、自分のこととして捉え、その解決に向けて自分から行動を起こす力を身につけるための教育です。
11月26日(土)、University Concert Hall 2016で玉川大学教育学部主催のユネスコスクール研修会が行われ、ASPUnivNetに加盟する大学をはじめユネスコや地球市民教育に関心のある研究者、学生、各大学のユネスコクラブの学生らが参加しました。

教育の国際的なネットワーク

国連の教育、科学、文化、コミュニケーションの分野を担う専門機関であるユネスコ。ユネスコスクールはユネスコ憲章の理念を学校の現場に実践するための国際的な教育ネットワークです。
「地球規模の問題に対する国連システムの理解」「人権、民主主義の理解と促進」「異文化理解」「環境教育」などのテーマを柱に、地球市民教育(GCED:Global Citizenship Education)を進め、そのグローバルなネットワークを活用し、世界中の学校と交流し、生徒間・教師間で情報や体験を分かち合い、これらの問題に若者が対応できるような新しい教育内容や手法の開発、発展を目指しています。
現在、世界181か国で約10,000 校が、日本では、約900の幼稚園、小学校、中学校、高等学校のASPnetに加入。教員養成系大学として玉川大学は17大学とともにユネスコスクールを支援する大学のネットワークASPUnivNetに加盟しています。
文部科学省の日本/ユネスコパートナーシップ事業として行われた今回の研修は、「ESD(持続可能な開発のための教育)と地球市民教育―地球市民アイデンティティの形成に向けたユネスコスクールの新たな展望―」をテーマに開催されました。

多くの期待を集めて

「本学は『地球は我らの故郷なり』の言葉の下、国際的な協力を教育信条の一つとしています。混乱の様相を示す世界。グローバリズムやグローカリズムとは反対の方向を目指す動きが強くなっています。このような国際政治の中で地球市民教育を推進することは、これからの世界にとって重要なテーマです。有意義なユネスコスクール研修会になることを期待しています」。小原芳明学長の開会のあいさつから研修会は始まりました。
「貧困の撲滅や平和の構築に向けて、本日のユネスコスクール研修会でも新たな展望を導き、今後の活動の充実に資する機会が得られることを期待しています」。森本浩一文部科学省国際統括官のメッセージ(代読)に続いて、公益社団法人日本ユネスコ協会連盟の野口昇理事長から「ユネスコスクールの大学と小中学校、高校が連携し、地球市民教育の進展を図り、民間ユネスコの大きな柱として進めていきたいと考えています」と研修会への期待が寄せられました。

玉川学園の教育思想とユネスコスクールの理想との関わりを紹介する小原芳明学長
ユネスコスクールの活動を民間ユネスコの柱にしたいと語る公益社団法人日本ユネスコ協会連盟の野口昇理事長

グローバルな視点で地球市民教育

豊富な情報から地球市民教育が必要になった経緯やAPCEIUの活動を通じて、これから地球市民教育の方向性が述べられたウタク・チュン氏の基調講演

第1部の基調講演は地球市民教育の国際的なリーダーであるユネスコ・アジア太平洋国際理解教育研究所(APCEIU)の所長ウタク・チュン氏をゲストスピーカーに迎え「地球市民教育とユネスコスクール」というテーマで行われました。
第二次大戦後の世界が直面している現状を踏まえながら、国連とユネスコの関わりから教育に力が注がれるようになった経緯や、グローバルな視点から地球市民教育のあり方とその推移について深い内容を聞くことができました。また、先駆として地球市民活動に取り組んでいるAPCEIUの説明もあり、国際会議やワークショップ、国際教師交流、教材や資料の製作など、さまざまなプログラムの説明がありました。
「日本のユネスコ・アジア文化センターと協力、連携して、持続可能な開発のための教育と地球市民教育に取り組んでいきたいと思います。この地球市民教育という新しいトピックを、学生、大学院生、教員の皆さんも、ぜひ、学んでください」と講演を結びました。

地域とは何か、地球市民とは何か

第2部パネルディスカッションを進行する小林教授(右端)とパネラー

第2部はパネルディスカッション「学校現場でESDと地球市民教育をどう推進してゆくか?」です。

パネラーは、国際社会の立場から基調講演のウタク・チュン氏、日本の高等教育、大学での学術研究から東京都市大学環境学部の佐藤真久教授、学校現場の視点から日本で初めて公立学校にグローバルシティズンシップ科を作り、授業を実践している上尾市立上尾東中学校の松野紗野香教諭。コーディネーターは主催側から本学教育学部の小林亮教授があたりました。

50年間にわたる地球市民性の変化について説明する佐藤真久、東京都市大学環境学部教授

討論を前に、まず佐藤教授からの情報提供がありました。
教育研究に関する文献を多数収録している米国教育省教育資源情報センターERICのデータベース上で、“Global Citizenship”を検索語に1966年から50年にわたって「地球市民性」に関する経年変化と文献特性の計量書誌学的分析を行ったものです。「地球市民性」の意味は時代とともに変遷し、現代では、行動的多元的でグローバルな相互連関の認識が重要である「混成的文化の時代」、資源や環境への対応が求められ、自然生存権への配慮が必要な「地球惑星の時代」、ものの見えにくい不確定な時代とそのリスクへの対応が求められる「変動・不確実・複雑・曖昧の時代」、さらに自国中心主義への傾向に国家間の軋轢が高まる「地域間化、インターローカライーゼーションの時代」の4つ特色が表れ、さらにこれからの地球市民教育を考える上で、「歴史的な概念の進展と教育実現に基づいて、何のために地球市民性なのか」「これらの特色の中で『地球市民性』をどうとらえるか」「地球市民性が脆弱なアジアの地域・国・地方で『地球市民性』の醸成を促すことができるか」が論点であると佐藤教授は唱えます。

中学校での地球市民教育の実践について語る松倉紗野香上尾東中学校教諭。「国際理解教育や地球市民教育はどの学校にも必要」

中学校で主にプログラムコーディネーターとして、地球市民教育のマネジメントをしている松倉教諭は、上尾東中学校が研究開発学校の指定を受けた経緯と地球市民性の実践を紹介しました。
「選ばれた生徒だけが特別な教育を受けるのではなく、国際理解教育や地球市民教育は、どの学校にも必要ではないか。脈々と続けるうちに国際理解教育の効果を感じ、外に発信しようと、研究開発校に手を挙げました。毎週金曜日の5・6時間目は全校19クラスが『グローバル・シチズンシップ・エデュケーション』の時間です」
「私の主な仕事は地球市民教育のプログラムを作ることです。先行事例がないので、海外の事例や、日本のNGOの出している材料をリライトして教材を作り、先生方に提供しています。教科書や指導書もなく、正解もありません。現実社会の問題をテーマに、先生には生徒と一緒に悩み、一緒に考えるファシリテイターになってもらって、生徒が考え、気づき、社会につながる参加型学習を目指しています。楽しんでくれる先生を一人でも増やすことをポイントにしています」

パネラーの情報提供に続き、会場からも「地域間格差と資本主義の関係」「地域という概念は何を指すか」活発な質問が向けられます。続いて、コーディネーターの小林教授から「そもそも誰が地球市民か」という問いがパネラーに向けられました。

「地域社会に対してオーナーシップを持つ人こそが、地球市民」と、ウタク・チュン氏。「われわれは多重性多元性を持っている市民です。地球市民でありながら、日本市民、地域市民でもあります。地球市民は誰かという論理でなく、自身がどんな市民性のオーナーシップを持つかです。どんなものを持っているかを各自が位置づけると、結果的に地球市民になると思います」と佐藤教授は付け加えます。「私も全員が対象になりうると思います」と松倉先生も続けます。
さらに「地球市民教育はお互いに生きるということを学ぶことだと思います。世界の情勢の中で、地球市民教育をサポートする環境が大切。不安定な中でも戦争のないアジアにしたいと思っています。そのために教育がカギになると思います。ともに生きるということを概念として、理念として学ぶということが大切。それによって平和な持続可能な世界を実現していきたいと思います」と語るウタク氏。「皆さんも今日の宿題として自分なりの地球市民性を考えてみてください」。このセッションのまとめとして、小林教授が会場に投げかけました。

ワークショップで地球市民教育の現場を体験

この研修会には翌日、玉川大学で開催されるユネスコクラブ全国サミットに参加する玉川大学、奈良教育大学、広島大学、慶應義塾大学、国際基督教大学の各ユネスコクラブの学生も参加しています。第2部の松倉教諭のワークショップでは教員を目指す学生たちも地球市民教育を体験します。
「答えの定まらない課題に対して教師も生徒も一緒になって悩みながら考え、授業を進めていますが、そこで大切なのは『多様な視点』です。皆さんも中学生になったつもりで『多様な視点』を持って、現実の課題について、悩み、考えて、解決のヒントを見出すきっかけを探してください」

ファシリテーターとして、ワークショップを進める松倉教諭
周囲の学生と意見を交換する5大学のユネスコクラブの学生

会場には2人に1枚ずつ白紙と付箋紙が配られました。
「上尾東中学校の生徒たちが答えに一番困った問題を用意しました」と松倉教諭。
「アフリカ・ルワンダには100日間続いた内戦で多くの人々が傷つき、義足や義手が必要とする人がたくさんいます」。三択のクイズを取り入れながら、前提としてルワンダの大虐殺について学びます。

表情は和やかでも話し合う内容はかなり深刻。会場の雰囲気もだんだん重くなる

「第1問です。あなたは義手や義足を作る職人です。『義足を作ってほしい』という依頼があなたのもとに来ました。あなたは作りますか。周りの人と話し合って、作るか、作らないか、そして、その理由を白い紙に書いてください」

「第2問です。依頼者が、あなたの大切な家族や恋人を苦しめたり傷つけた人だったら、あなたは義足を作りますか」

会場がどよめきました。頃合いを見計らって、「付箋には今、話した人と違う人の意見ではっとしたことや気づいたことを書いてください」

スクリーンには上尾東中学校の中学生の意見が映し出されます。「作る」という意見の理由には、「職人だから」「戦争が終わっているから」「その人が悪いわけではないから」「その人も家族がいて、働かなければならないから」「その国に平和が訪れるのだったらいいのではないか」とあり、「作らない」と答えた中学生の理由は「親切にしたくない」「悪いことをした人に対して作らなければいけない理由が分からない」「何が何でも大切な人を傷つけた人に作りたくない。というよりも作れない」「また、戦争が始まった時のことを考えると恐い」などの理由が記されました。

二人で答えを相談し、白い大きな紙に記入。さらに話し相手を拡大し新たな気づきは付箋紙へ。エンジのトレーナーは玉川大学ユネスコクラブ

上尾東中学校では後日、さらにルワンダで義足工房を開いているNPOの人々を招いて、講演会を行いました。松倉教諭はそこで当人たちに同じ質問をしました。
「作りたいわけではなかった。でも、それは僕たちが決める仕事ではない」。彼らの言葉を聞いて、泣き出した中学生もいました。
松倉教諭は続けます。「パリの同時多発テロの後で、パリの人々は復讐するのではなく、日常生活を続けることでテロに屈しない姿勢を見せていました。自分たちでできることを粛々とやることが何よりも大切だと感じました」
中学校の子どもたちも寛容な気持ちが広がっていました。

今回のワークショップでは参加者一人ひとりの考えや思いに触れることはできませんでしたが、地球市民教育の方法の一つを体験することができました。

研修会の学びを実践でどう生かせるか

渡辺一夫先生の講評。「今日の内容は難しいと思いますが、ここで書き留めたことを、将来に生かしてください」

閉会式ではユネスコスクールの日本の事務局でもある公益財団法人ユネスコ・アジア文化センター参与の渡辺一雄先生から講評をいただきました。渡辺先生は以前玉川大学教育学部、文学部で教授、教育博物館館長を歴任。玉川大学がユネスコスクールに加盟したのも渡辺先生の在任中です。
「今日の研修会、特に前半の内容は専門性が高く、学生にとっては難しかったと思います。理解できない専門用語も多かったでしょう。ただ、今日しっかりノートに取った内容をこれからどう利用していくかが、大切です」
近藤洋子教育学部長のあいさつで、研修会は終了しました。
研修会の充実した内容に、参加した各大学のユネスコクラブの学生も成果を感じました。

「基調講演の内容は難しかったのですが、普段僕たちも大学内で話し合っていたこともあり、少しは分かったと思います。地球市民教育のワークショップは実践を見ることがなかったので、体験できたことは大きな成果でした。2問目の質問は、児童もどう答えようか迷ったと思います。それを克服することで持続可能な教育としての能力が身につけられると思います。発問の仕方も大切だと感じました。僕たちも教員を目指していますが、赴任する先々でも考え方が違うと思います。その地域性を知って、教育に落とせる力が必要だと思いました」。
広島大学ユネスコクラブ参加学生のコメント

「今日は持続可能な開発のため教育の授業の実践を見せてもらえました。中学生の想像を超える高いレベルの内容に衝撃を受けましたし、それに向き合った中学生のコメントの深さにも強く考えさせられました。その部分に応えられるように教員のスキルも必要だと感じました。学校教育まで落とし込むとなると、ユネスコクラブの活動でも、概念だけではなく、実践の部分まで詰めていかないといけないと思いました」。
広島大学ユネスコクラブ参加学生のコメント

「私は以前、松倉先生の授業を見学したことがありましたが、今年の内容は知らなかったので、今日のワークショップですごく進化したと思いました。見学した時、生徒たちが主体性を持って取り組んでいたことが印象的でした。彼らはパワーポイントやタブレットも使いこなしていて、それもすごいと感じました。今回は、見学ではなく、ワークショップで実体験ができましたが、質問は意味が深く、私たちも答えるのが大変でした。大学4年生なので半年程、ユネスコクラブの活動にブランクがあったのですが、改めて学び直さなければならないと刺激を受けました。今日だけでも持続可能な開発のための教育や地球市民教育について、多くの知識を吸収できたので、明日のサミットにもそれを生かしたいです」
玉川大学ユネスコクラブ・想田唯さん(文学部4年)

学生が運営する全国サミットにつなげて

翌日の27日は引き続き玉川大学で5大学のユネスコクラブによる「大学ユネスコクラブ全国サミット」が開催されました。「義務教育の諸教科においてユネスコ精神をどう教育するか―地球市民の育成に向けて―」をテーマに、6つの教科の分科会に分かれ討論しました。
研修とサミットの運営には玉川大学ユネスコクラブが活躍しました。
「各団体に連絡したり、招待する方に対してのご案内や当日どういう動きをするか、また、プログラム自体も、きちんとタイムマネージメントできるように、準備が大変でした。2日間で、参加した皆さんが何かしら印象に残せるように務めていきたいと考えています」と4年生の近藤剛司さんは主催者としての感想を語りました。