玉川大学 読売新聞社立川支局 共催 連続市民講座第3回「日本の観光と未来〜ホテルマネジメントとホスピタリティ 労働生産性の向上について考える」

2018.06.04

2018年4月より玉川大学では、読売新聞社立川支局と共催の連続市民講座「進む大学研究 最先端の現場から」がスタートしました。この公開講座は玉川大学8学部・研究所の先生方が講師を務め、12月まで全11回、それぞれの分野での“最先端”についてわかりやすく講義します。5月19日開催の第3回のテーマは「日本の観光と未来〜ホテルマネジメントとホスピタリティ 労働生産性の向上について考える」。講師を務める観光学部の根木良友准教授が、日本の観光業の労働生産性を向上させるための方策や訪日外国人客への接客向上などについて、事例を交えながら話しました。

根木良友准教授は大学在学中、父親が営む店でのバーテンダー修行を経て、箱根の老舗の富士屋ホテルにてマネジメント・トレーニーとして勤務し、ホテルサービスとマネジメントの基本を習得しました。その後、当時日本では学べなかったホテル産業統一会計基準やホテル不動産投資などの実務スキルを習得するため、米国・コーネル大学ホテル経営学部大学院に留学。卒業後はシェラトンマウイホテルの宿泊部マネージャーや株式会社KPMG FASでのホテル売却アドバイザリー業務などを経て、一般財団法人日本ホテル教育センターでホテル実務者教育に従事した後、玉川大学に着任しました。現在は大学・大学院で観光産業を目指す学生の教育とホテルマネジメントや観光人材教育の研究、さらに沖縄県久米島での観光誘客対策事業などを担当しています。

根木准教授は、まずわが国の観光産業の現状から講義を始めました。近年日本を訪れる外国人観光客は着実に増加しており、昨年(2017年)は2869万人と過去最高を記録しました。「新興国の経済成長」「入国ビザの規制緩和」「格安航空会社の台頭」などの世界的なマクロ経済環境がその背景として考えられますが、2020年の東京五輪に向けて旅行先としての日本の人気が高まっていることも要因となっています。中でも観光産業のインバウンド市場は、他産業を含めた数ある市場セグメントの中で、数少ない二桁成長が見込める分野として非常に注目されています。

ところが一方で、訪日外国人の増加とともに日本の観光産業の課題も露呈してきました。それが「労働生産性」の問題です。労働生産性は「労働者一人あたりが生み出す成果、あるいは労働者が単位時間(期間)あたりに生み出す成果を指標化したもの」。もともと不動産や情報通信、金融・保険などの資本集約型の産業に比べて、労働集約型の「宿泊・飲食サービス業」は労働生産性の面で著しく低い傾向があります。労働生産性の国際比較をしてみると、日本は米国の6割ほどの低水準。OECD加盟35カ国中20位で、主要先進7カ国では1970年以来最下位の状況が続いています。

根木准教授は、日本の観光産業における労働生産性向上に向けて次の3つの提言をしました。

  • 「外国人観光客への対応力向上」
    急増する外国人観光客に対するホスピタリティサービス向上のポイントとして「先入観なく外国人観光客の要望を理解すること」「言語や文化の壁を考慮した環境整備」、そして同質社会で生きる日本人が忘れがちな「顧客の多様性に考慮した接客思考と行動」について解説。「以心伝心」という言葉からも分かるとおり、日本のおもてなしは「察する」ことがベースとなります。同じ日本人同士なら良いですが、文化や宗教などの多様性の度合いが大きい外国人客を自己流で察することは、ニーズの誤認につながります。また接客においては、最も大切な笑顔による歓待に注力できるように、特に外国語が堪能なスタッフが少ない地方ではサービスやメニューの説明などの定型的情報の伝達は、サインや自動翻訳機などの非言語コミュニケーション環境を整備することで、スタッフの負担を減らし、効果を高めていくことが重要だと指摘しました。
  • ビッグデータの効果的な活用
    数十億人規模の顧客データをベースにビジネスを展開する企業が世界の株式時価総額トップ5にランクインする現代は「データを制する者が世界を制する」とも言える時代。観光産業においてもビッグデータの活用が成否の鍵を握っています。根木准教授はTポイントカードが収集するID付きPOSデータによるコンビニの商品展示レイアウト変更やファミリーレストランのメニュー改定の事例、さらに小田急線沿線にある鶴巻温泉の老舗旅館「陣屋」による顧客データの収集・共有・活用による接客の質の向上と業務の合理化の事例などを映像も交えて紹介しました。
  • AI・ロボットの導入
    人間の仕事を代替するAIは、観光業でもホテルのポーターなどの単純労働をロボットに置き換える試みが始まっています。根木准教授はアンケートデータを元に「手塚治虫さんのSF漫画や星新一さんの小説の時代からロボットに親しんでいる日本人は、接客ロボットを好意的に受け止める」傾向があることを示唆。グローバルホテルチェーンの事例に加えて、「世界初のロボットホテル」としてギネスブックにも認定され、4つの業務部門でロボットがホテル業務を遂行する「変なホテル」(長崎・ハウステンボス、西葛西、銀座)の事例を紹介しました。

講義の最後に根木准教授は、訪日外国人客への対応力向上に関して、日本は島国のため文化の違いに疎いので、外国人の要望や行動特性をデータで客観的に把握する癖をつけることの大切さを繰り返し説きました。

また、少子化による産業間での労働力争奪戦が加速していく中で、他言語や異文化と対峙せざるを得ないストレスフルな接客環境の改善を企業が行わなければ、観光業は他産業に人材を奪われてしまうという懸念を示しました。

テクノロジーの活用に関しても先入観を排除しデータを基に顧客の声に耳を傾けることも重要ですが、依然として“人的サービス”が顧客満足の源泉となる部分は否定できません。そのため、接客業においては、合理化により生まれた余剰時間を従業員がお客様と向き合う“時間”にきちんと充てることが大切であり、労働生産性向上の“手段”としてのテクノロジーが“目的”にならないよう肝に銘じる必要があると強調しました。

今後、2020年東京五輪に向け、私たち日本人一人ひとりが世界中から日本を訪れる人々を歓待することになります。この日の講義を聴いた方々は、自分ならどのように訪れた外国人観光客に「おもてなし」をするか、それぞれに考えを巡らせたことでしょう。

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