玉川大学 読売新聞社立川支局 共催 連続市民講座 第8回「社会性ハチ類の知られざる生態─ミツバチ、マルハナバチ、スズメバチと私たちの生活との関わり─」

2018.11.05

2018年4月より玉川大学では、読売新聞社立川支局と共催の連続市民講座「進む大学研究 最先端の現場から」がスタートしました。この公開講座は玉川大学8学部・研究所の先生方が講師を務め、12月まで全11回、それぞれの分野での“最先端”についてわかりやすく講義します。第8回のテーマは「社会性ハチ類の知られざる生態─ミツバチ、マルハナバチ、スズメバチと私たちの生活との関わり─」。ハチの専門家としてテレビ番組などメディアにもたびたび登場する農学部長で農学部生産農学科の小野正人教授が、最新の研究成果を踏まえて知られざるハチの世界をわかりやすく解説しました。

食料問題など人類の未来に欠かせないハチの存在に着目

「今回の講座は奇しくも8(ハチ)回目」。冒頭、壇上の小野教授はそんなジョークを切り出しながら、直径が50cmぐらいありそうな本物のオオスズメバチの巣と、それよりやや小型のキイロスズメバチの巣を掲げ、会場の受講者の注目を集めました。
スズメバチの巣は抗菌性のある木の皮でできていること、見えないところに営巣する閉鎖型(オオスズメバチ)と開放型(キイロスズメバチ)の2タイプがあることを解説しながら、「秋はスズメバチの被害が多いシーズンですが、本日は良い、悪いという色眼鏡を外してハチたちのことをお話しします」と講義を始めました。

人口増加が著しい地球上において、最も重要な課題と言えばまず食料増産でしょう。それも現在求められているのは短期的な増産ではなく、持続可能な農業、環境保全型の農業です。かつてアルバート・アインシュタインが授粉昆虫としてのハチの重要性について「もしハナバチが地球上からいなくなったら、人類は4年以上生きられない」と述べたことがあります。食料となる植物の増産のために、ハチなどの授粉昆虫の役割はそれほど大きいものなのです。
玉川学園がミツバチの研究を始めたのは昭和5年(1930年)のこと。日本における昆虫学が主に害虫駆除を目的としていた時代から、益虫であるミツバチに着目し、その伝統は現在でも小野教授を中心としたハチの研究に脈々と受け継がれています。

コロニー全体が生態系における一つの生存の単位となるハチの世界

ハチ目は30グループに分かれる昆虫の系統図を見ると上位に位置する集団です。私たちにも身近な存在であるミツバチ、マルハナバチ、スズメバチなどは、コロニーを作る社会性を持った生態がよく知られています。
ミツバチのコロニーは、雌の女王バチと働きバチ、そして雄バチの3種類から構成されています。女王バチになるか働きバチかは「氏より育ち」であることがわかっています。すなわち女王バチは「生まれつき」ではなく、同じ雌の幼虫でもローヤルゼリーを食べて育った個体だけが「女王バチになる」のです。この不思議な現象に小野教授も学生時代に取り組み、実験によって確認しています。
働きバチは女王バチの出産と子育てのために自己犠牲的な労働に明け暮れ、スズメバチなどの外敵に対しては生命を投げ出して戦い、女王バチと巣(コロニー)を守ります。
一般的に生物は自分の遺伝子を未来に残すために生きていますから、子孫を残さない働きバチの自己犠牲的な生態は、長年研究者たちを悩ませてきました。進化論の祖チャールズ・ダーウィンも「どうしても説明できない」と匙を投げたそうです。
その謎を解明したのはダーウィンからおよそ100年後、オックスフォード大学のウィリアム・ドナルド・ハミルトンによってでした。ハミルトンは遺伝子の血縁選択という考え方から、個々の働きバチが犠牲になっても同じ遺伝子を共有する血縁者からなるコロニー全体を守ることが自分の遺伝子を未来につなぐことになるという仮説(ハミルトンの法則)を導き出しました。いわばコロニー全体が一つの生態系の単位として遺伝子を伝えていくという考え方です。

自然の厳しさと生態の神秘を迫力ある映像で体感!

小野教授は続いてミツバチの社会性の象徴的な事例である「ダンス言語」によるコミュニケーションの研究(1973年ノーベル生理学・医学賞 受賞)、ニホンスズメバチが巣を攻撃する天敵オオスズメバチをハチミツをエネルギー源とした蜂球によって熱死させるという撃退法などについて紹介。毒液に含まれるフェロモンを嗅覚で感知することによって集結するオオスズメバチと、やはり嗅覚で天敵の襲撃を認知するニホンミツバチ……そのシーンは小野教授自身も出演している米国ナショナルジオグラフィック協会のドキュメンタリー番組の映像として会場に映し出されました。臨場感あふれる高速カメラ映像が捉えたハチ同士の戦いと驚きの生態を目の当たりにして、受講者たちは思わず溜息を漏らします。

最後に小野教授が紹介したのはスズメバチの天敵である猛禽類ハチクマのエピソードです。ハチクマはスズメバチの巣を襲い、幼虫やサナギを食料としています。まず自分の巣にカエルやヘビなどを運び込み、それらに近づいてきたスズメバチを追跡し、巣を発見します。では、なぜスズメバチの巣を襲撃したハチクマは毒針で攻撃されないのでしょう?はっきりした理由はまだわかっていませんが、ここでも匂いが重要なポイントになります。ハチクマから発散される体臭成分の中にスズメバチの戦意を喪失させる物質が含まれているのではないかという説があるのです。もし、ハチクマの羽毛からスズメバチ撃退物質を抽出することができれば、スズメバチの被害から人間を守ることができるかもしれません。
小野教授は「同じ対象でもアプローチの方向によって映し出されるモノが異なってくるのが生命の魅力。多様でありながら、本質を共有するハチ類の社会も総合的な理解を試みることで立体的に捉え、これからもさまざまな“なぜ”に答えを与えていきたい」と講義を結びました。

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