伝統のある第九を歌う玉川大学音楽祭

2014.12.26

2014年12月20日(土)、恒例の玉川大学音楽祭が開催された神奈川・パシフィコ横浜国立大ホールの客席は、2階席までほぼ隙間なく埋まっていました。全学部(文学部・農学部・工学部・経営学部・教育学部・芸術学部・リベラルアーツ学部・観光学部)の1年生全員(1969名)による、ベートーヴェンの「交響曲第9番」《合唱付》終楽章<歓喜に寄す>(以下、「第九」)の演奏会がスタートしました。音楽祭は、大学1年生が2つのグループに分かれ、2回公演で行われました。
開演を待つ客席で、「娘の時はスケジュールが合わなかったが、孫の番になって、やっと聴きに来ることができました」と、保護者と同伴のご年配の方が話していました。親子代々、このステージに立つ人たちも珍しくありません。

クリスマス礼拝

午後3時30分。大学の聖歌隊による合唱で始まるクリスマス礼拝が行われ、ざわついた客席を厳粛な空気に変えていきます。30分ほどの休憩をはさんだ午後5時、暗転したステージ左右から第1グループの学生たちが入場してきました。玉川大学の第一装である紺色系スーツの男子学生、女子学生は第一装にあわせた白いブラウスに紺色系のスカート。学生ひとりひとりの少し上気したその表情には、一様に緊張感も伺えました。

第一グループ
玉川大学管弦楽団

演奏は玉川大学管弦楽団。1959年(昭和34)、「第九」を演奏するために、わずか10数人の有志たちによって始められたオーケストラは、現在では100人を超える大編成となりました。各回に出演するソリスト8人全員も玉川大学の卒業生で、それぞれ二期会や藤原歌劇団に所属するなど、プロの声楽家として第一線で活躍しています。

第二グループ

2回目の公演は、午後7時から。同じ曲でも、声の強さやハーモニーの完成度などの違いがあるなか、共通していたのは、歌い終わったあとの学生たちの晴れやかな表情です。ホッとしたような、ハニかんだような。大きく声を張り上げて歌いきった。だれもがそんな達成感を味わっていることが、客席からもはっきりと感じられ、それがまた新たな感動を呼び起こしました。
玉川大学では、8学部16学科共通のユニバーシティ・スタンダード科目の履修が義務づけられています。専攻を問わず、学士課程教育に重要な役割を果たすカリキュラムで、1年次前・後期の必修科目「音楽Ⅰ・Ⅱ(FYE芸術)」は、“歌う喜びを自ら味わいながら、みんなでひとつの作品を創り上げること”を目的としています。その総仕上げを、音楽祭の「第九」公演としています。
玉川大学と「第九」の歴史は古く、戦前の1936年(昭和11)まで遡ります。東京・日比谷公会堂で行われた、ヨーゼフ・ローゼンシュトックが指揮する新交響楽団(現NHK交響楽団)の「第九」演奏会の合唱メンバーに、玉川大学の学生たちが参加したのが、最初の関わりでした。その後、1962年(昭和37)に、管弦楽・合唱ともに学生の手による初めての演奏会が開催され、以後、毎年の全学恒例行事として歴史を重ねてきました。
 こうした背景をもつ「第九」の練習は、入学早々から始まります。4月の段階で1年生全員がソプラノ、メゾソプラノ、テノール、バスの各パートに分けられ、5月には、暗譜で歌うドイツ語の歌詞の意味を教わります。同時に、楽曲が生まれた背景を学ぶことで、曲の理解を深めていきます。パート別に練習を重ねたあとの11月に、オーケストラとの合同練習。本番が近づく12月は総仕上げの集中練習と、完成度を高めてきました。
今年度の指揮は、芸術学部の小佐野圭教授が務めました。本番当日のゲネプロは、音合わせを中心に仕上げるのが例年のスタイルでしたが、今年度は「いい形で完璧なパフォーマンスを披露したい」と、本番同様の完全通した流れで行われました。「本物の音楽を体感してほしい。そして、満足と記憶に残る音楽祭にしたい」これが第九を指導してきた教員の共通の思いでもありました。
約5カ月をかけて「第九」に取り組み、壇上の全学生が心をひとつにしたステージは、理屈抜きで聴衆を熱い気持ちにさせてくれました。音楽系科目を専攻としない学生たちにとっても、名曲を知っているだけでなく、歌ったことがあるという体験はとても貴重なものです。「練習を重ねるごとに、ドイツ語の歌詞が自然と身体に入っていく感覚が新鮮だった」という感想も聞かれました。
卒業して何年経っても、「第九」のドイツ語だけは忘れないという声や、卒業後に市民合唱団に参加して「第九」を歌っているという卒業生。そして、留学先で「第九」の話題をきっかけに会話が弾んだというエピソードなど。学生たちにとって、この「第九」公演は、卒業後も強く思い出に残る、かけがえのない経験になっています。
創立者の小原國芳は、「全人教育」を理念とし、「歌は人生に潤いと励ましを与えてくれる」という思いから、音楽教育を重視しました。そして、創立当初より「歌に始まり歌に終わる」と学校生活を例えたようにさまざまな場面で“歌う”ことが生活の一部となっています。そんな玉川大学の教育の“理想”が、音楽祭の「第九」公演に結実しています。