【動画付き】玉川大学芸術学部が文化庁とともに主催したニューヨークのオフ・オフ・ブロードウェイ「ラ・ママ実験劇場」招聘公演。大成功に終わった公演を振り返って......

2015.09.02

さる6月20日、玉川大学・玉川学園講堂にて「ラ・ママ実験劇場」招聘プロジェクト『La MaMa Cantata(ラ・ママ・カンタータ)』を上演しました。この公演は、玉川大学芸術学部が文化庁と共に主催し実施する平成27年度の「次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」の一環として、ニューヨークのラ・ママ実験劇場を招聘し行なう日本初の試みでした。大成功に至るまでの経緯と今後の展望について、プロデューサーである芸術学部パフォーミング・アーツ学科の太宰久夫教授に話を聞きました。

舞台芸術の次世代育成とグローバル化を叶える「ラ・ママ実験劇場」との協同公演

オフブロードウェイの劇場と化した講堂

「ラ・ママ実験劇場(La Mama Experimental Theatre Club)」とは、エレン・スチュワートにより1961年にニューヨークのマンハッタンのイーストビレッジ9丁目に、カフェ付きの劇場「カフェ・ラママ」を開設したことに始まります。商業ベースにとらわれない前衛的な作品を数多く公演し、ニューヨーク演劇界に革命を起こし、のちに「オフ・オフ・ブロードウェイ」と呼ばれる潮流が作られる端緒となった劇場です。ちなみに、「ブロードウェイ」とは500席以上の大劇場を指し、500席以下の劇場を「オフ・ブロードウェイ」、100席以下の小劇場を「オフ・オフ・ブロードウェイ」と呼びます。「ラ・ママ実験劇場」と改名した劇場から世界に羽ばたいた俳優、演出家、脚本家など舞台芸術家は現在まで1万5千人以上とされ、アル・パチーノ、ロバート・デニーロ、ダイアン・レイン、サム・シェパード、ユニット「ブルーマン」やミュージカル作品「ヘアー」などの名が次々と挙がります。また、タデウス・カントール、アンドレア・セルバン、寺山修司、東由多加、大野一雄、ピーター・ブルックなど、日本をはじめとする海外からの数々の芸術家もラ・ママの舞台からアメリカへと紹介されました。

戦後の舞台芸術文化交流の先駆けとなった「ラ・ママ実験劇場」が来日し、しかも玉川学園での上演が実現できたことは、すばらしい奇跡です。そのきっかけを作ったパフォーミング・アーツ学科の太宰久夫教授は、次のように話しています。
「パフォーミング・アーツ学科では、青山円形劇場との劇学連携の提携公演『Performing Arts Fair(通称:PAF)』を2003年より毎年6月に開催してきました。舞台芸術を担う次世代育成をめざし、学生が主体となり劇場スタッフとともに4~5日間で10数作品を上演する実験的なスタイルを12年間にわたって試みてきました。青山円形劇場は本年3月で惜しくも閉館となりましたが、新たに展開する場として世田谷パブリックシアターと提携し、来年2月の上演に向けて着々と準備を整えています。しかし、これまで毎年6月のPAF上演が恒例でしたから、同じ時期に学生にとって新たな目標となる大プロジェクトを間髪入れずに開催したい、そう考えていた私の元に1通のメールが届いたのです」
それは「ラ・ママ実験劇場」に出演経験のある日本人俳優からで、「『ラ・ママ』の日本公演を玉川大学パフォーミング・アーツ学科と提携して開催しないか」というメール。一昨年のことでした。

「『ラ・ママ実験劇場』へは世界約70か国の舞台芸術家が集まりファミリーを形成しています。私は30年ほど前に『ラ・ママ』を訪問したことがありますが、いつかはつながりたいと考えていました。まさに千載一遇のチャンスで、『ラ・ママ』とつながりファミリーの一員になれば、玉川大学パフォーミング・アーツ学科が世界70か国とつながれることでもある。たとえば玉川の学生や卒業生が海外へ出てパフォーマンスをやろうと考えたら、その国で『ラ・ママ』ファミリーを探せば多くが叶えられるでしょう。次世代は日本の枠に止まらず国境を越えて活躍の場を探してほしい。次世代育成とともにグローバリズムを考えました」
太宰教授は、玉川大学パフォーミング・アーツ学科と公共劇場「世田谷パブリックシアター」「ラ・ママ実験劇場」との提携・協同による新しい舞台芸術家の育成を目的に、文化庁の「平成27年度 次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」として申請。採択され、6月20日の上演を迎えることができたのです。

ワークショップとレッスンを通して、一流のプロフェッショナルから舞台芸術の核を学ぶ

玉川大学パフォーミング・アーツ学科による「ラ・ママ実験劇場」上演のプロジェクトは、来日する「ラ・ママ実験劇場」の芸術監督らスタッフとキャストによるレクチャー、ワークショップ、レッスンそしてリハーサルを実施し、最後はステージで「ラ・ママ」のキャストメンバーとともに、大学外から一般公募したプロの俳優9名、そしてパフォーミング・アーツ学科学生のキャスト21名とスタッフ65名が共演するという夢の試みです。
「今回のプロジェクトには二つの目的があり、一つは学生と日米のプロが一緒に舞台を作ること、もう一つが4日間にわたるワークショップとレッスン、『ハーモニー&リズム』『ボーカル・テクニック』『アクティング』『ステージ・テクニック・デザイン&マネジメント』の4クラスの設定です。『ラ・ママ』のスタッフとキャストによる講師陣は、内容はオーソドックスでも教え方がすばらしく、使用言語が英語だったので、受講する学生は一言も漏らすまいと集中力を保っていましたね。何かをやりたくてパフォーミング・アーツ学科に入学した学生にとって、『ラ・ママ』のメンバーに仕掛けてもらうことで、いろいろと掘り起こして考えるきっかけになったと思います。最終日は成果発表として、3分程度の身体表現を披露。どれも素直に表現できてよかったですね。おそらく1年分以上の学修経験ができたと思います」

「ラ・ママ実験劇場」のスタッフも驚く、パフォーミング・アーツ学科の学生のパワー

そして、いよいよ6月20日には一夜限りの公演の幕が開きました。会場となった玉川学園講堂は立ち見も出る超満員の観客で埋まりました。上演するのは、「ラ・ママ実験劇場」の創設者で多くの芸術家たちに“ママ”と呼ばれて親しまれたエレン・スチュワートの波乱に満ちた生涯と、アメリカ演劇界に革命を起こし、ついにはオフ・オフ・ブロードウェイの潮流を起こした劇場の奇跡の物語を、エリザベス・スウェイドスのバラエティに富んだ歌と映像でシンプルに魅せるステージ、「ラ・ママ カンタータ」です。
「『ラ・ママ』のキャストは圧倒的な歌唱力とパフォーマンス力でステージを盛り上げていましたが、彼らは玉川の学生はセミプロ並みに歌えると驚き、すばらしいコラボレーションだったと称賛してくれました。1ステージだけだったのがもったいなかったと思いますが、パフォーミング・アーツ学科への評価が高かったので、『次に玉川とコラボする時は、『ラ・ママ』がいくつか持っているプログラムの中から何を上演しようか』と、次につなげられるステージとして大成功でした」

観客の皆さんの感想をいくつかご紹介しましょう。
「La MaMaのことを知らなかったけれど、エレンの軌跡と思いを知ることの出来るエネルギッシュで美しいショーでした。NYから来日したアーティストの確かな歌唱力に圧倒されました。日本のメンバーもステキでした」
「学生たちも生き生きと参加していてすばらしい体験だったと思います」
「辛いこと、苦しいことを明るく、パワフルに歌うメンバーはとても美しかったです」

太宰教授によると公演が大成功だっただけでなく、「パフォーミング・アーツ学科の学生の熱心に学ぶ姿勢、そして心のこもったおもてなしに、彼らは『今まで訪問した国の中で、世界一だ』と評価してくれた」と話します。「ラ・ママ実験劇場」からの提案で、インターネットを介してパフォーミング・アーツ学科の学生と創作をしないかとの提案や、9月下旬には「ラ・ママ」の芸術監督と玉川大学の教授陣とのテレビ会議の開催も決まっているそうです。さらには、『ラ・ママ』のオフィスへパフォーミング・アーツ学科の学生にインターンシップで来てほしい、すぐ来れないかと要請もあったとのこと。
「『ラ・ママ』との固いつながりができましたから、今後は『ラ・ママ』とは2年に1回くらいで定期的に上演したいと考えています。生涯を綴る映像に流した日本語訳の歌詞に、『どんな時でも信じて進め! 止まるな! 続け! 自分がなすべきことを……』とありましたが、パフォーミング・アーツ学科では公共施設や世田谷パブリックシアターとの連携による新進芸術家の育成など、次世代の育成の点で社会貢献を続けたいと考えています」
 玉川大学・玉川学園内にとどまらず、広く社会に向けて発信するパフォーミング・アーツ学科の活動。さらなる飛躍に期待が高まります。

【学生コメント】

■小野紗貴子さん(4年生)

ステージマネジャー、いわゆる舞台監督として照明、音響、装置など舞台の運営をすべて仕切る役目を務めました。「ラ・ママ実験劇場」から今回の来日公演については、装置などは大枠の方向性を伝えられているだけで、私たちスタッフが練りに練って考えたものですが、学内外の観客の方々に好評でみんなで頑張った甲斐があったと、喜びもひとしおです。私自身3年生の夏まではキャストとして沖縄公演などに出演していましたが、裏方もやってみたいと考えていました。パフォーミング・アーツ学科のよい所は、役者も裏方も両方学べること。3年生の秋には裏方に携わり、達成感ともっと深く関わりたいという思いが強くなり、4年生の春学期はすべての公演で舞台監督を務めることになりました。「ラ・ママ」のような海外の一流のプロを招聘しての公演は初体験ですが、さまざまな職種のスタッフのプロ意識の高さ、考え方を学び、自分自身の今後に活かしたいと思っています。

■根本真子さん(4年生)

2014年のアメリカさくら祭り公演に出演し、オフの時間を利用して仲間とニューヨークの「ラ・ママ実験劇場」を訪れました。その経験があり、今回の来日に際してスタッフのアテンドを担当し、またワークショップ・レッスンに一学生として参加。一方通行の講義ではなく、「あなたはどう考えるか」「あなたはどうしたいのか」とどんどん引き出そうとする。受け身が多かったので、よく考えて発言すること、表現することの大切さを学びました。「ラ・ママ」のポリシーは、「いつでもオープン」です。一人ひとりを分け隔てなく人間として接してくれる。彼らも、私たちパフォーミング・アーツ学科の真剣さが伝わり、真摯に向き合ってくれたのだと思います。「ラ・ママ」のスタッフは、どの人もエネルギッシュでキラキラして、人生を楽しんでいるのが伝わり、彼らのような人たちと仕事をしたいと強く思いました。

2015年6月20日「ラ・ママ実験劇場」動画