玉川学園でジャーナリスト・池上彰氏の講演会を開催しました

2015.12.02

玉川学園は、2014年に文部科学省スーパーグローバルハイスクール(SGH)に指定されたことを受け、さまざまな教育課程に取り組んでいます。その一つとして学外の専門家をお招きした「グローバルキャリア講座」を実施。今回はジャーナリストの池上彰氏をお迎えした講演会です。

10月28日(水曜日)、ジャーナリスト池上彰氏が玉川学園9-12年生の生徒を対象に講演会

玉川学園は、2014年に文部科学省スーパーグローバルハイスクール(SGH)に指定され「国際機関へキャリア選択できる全人的リーダーの育成」を目指して、グローバルな課題(貧困・人権・環境・外交・国際協力)の解決に向けて日々取り組んでいる専門家の方を講師としてお招きして「グローバルキャリア講座」を実施しています。
ジャーナリスト・池上彰氏は、国内外の情勢についての分かりやすい解説で執筆活動、テレビ出演で大活躍されています。また東京工業大学リベラルアーツセンター教授を務められ、社会科学系のとくに日本と世界の現代史で歴史上の出来事の背景などについて興味深い講義をなさっています。その池上氏が玉川学園の企画にご賛同くださり、今回の9年生から12年生の生徒を対象にした講演会が実現しました。

10月28日の午後、玉川学園講堂で開催された池上氏の講演会のテーマは、『イスラムを知るために~真の国際理解とは』。ISによる残虐な行為の報道から、「イスラムは怖い」というイメージが世界中に広がっています。実際はどうなのかを、一神教の中での位置づけから考えるものです。2部で構成された講演会の(1部を9・10年生、2部を11・12年生)、1部の様子をご紹介します。いずれの部も対象学年の代表の生徒が司会・進行を務めました。
大きな拍手と歓声に迎えられ登壇した池上氏がこれまで訪問した国は73の国と地域。「お笑い芸人のイモトアヤコの80には負けている」とユーモアたっぷりに始まりました。そして、「私が君たちくらいの年齢の頃、日本人にとって海外旅行は夢のまた夢だった」と話し、「日本も昔から清潔な国だったわけではない。1964年の東京オリンピックに向けてクリーンアップキャンペーンを行い劇的に清潔になった。経済的に豊かになると、少しずつ国際的なルールを守ろうと意識するようになる」と経済の発展とともに生活も変わっていくことを示しました。

グローバル化の時代、宗教を知ることが国際理解につながる

近年、東南アジアの各国の経済的発展とともに、観光で来日する外国人が増えています。その中には髪をスカーフで隠したイスラム教徒の女性もいます。「イスラム教徒=中東地域の人のイメージを抱くが、最大のイスラム教徒1億8千万人を擁するのは同じアジアのインドネシアです。私たちは、イスラム教とはどのような宗教かを知っていなければならない時代を迎えている」と、講演テーマの核心へと迫ります。「現在、全世界にイスラム教徒は約16億人。キリスト教徒は20億人を超えているが、2030年頃にはイスラム教徒が、圧倒的多数を占めるといわれている」のだそうです。
日本人の多くは神社に参拝し、クリスマスを祝い、結婚式はキリスト教の教会へ、お葬式は仏教のお寺で、という人が大半を占めながら、“無宗教”であるという。しかし「世界では信仰する宗教があるのは当たり前。神様を信じていない人間は、神をも恐れぬ危険人物と疑われる」と実際のエピソードを交えて生徒たちをひきつけます。
そして、イスラム教とはどういうものかをユダヤ教、キリスト教と比較しながら説明していきます。これら3つの宗教は、まったく異なる宗教で信仰する神様は異なると思われますが、「どれも信じている神は同じ唯一神で、呼び方が違うだけ」と、それぞれの宗教の誕生の経緯から分かりやすく解説してくださいました。
宗教の聖典にも触れ、ユダヤ教は「旧約聖書」、キリスト教は旧約聖書とともにイエスが人びとに遣わされたことによってイエスを通して神様と新しい約束をしたとする「新約聖書」、さらにイスラム教徒には旧約聖書と新約聖書に加えて、イエスを通じて新しい聖書を渡したが人びとは守っていないために神が言葉を残し、それを預言者が暗記し書き留めたもの「クルアーン(コーラン)」を与えたとされています。池上氏は、アメリカは多民族国家であるため、大統領の演説で引用される聖書は、国内・国外・地域によって旧約聖書と新約聖書を使い分けていることを挙げ、生徒らの驚きを誘っていました。

世界のさまざまな宗教をあるがままに受け入れる多様性を身につける

このように3つの宗教の誕生の経緯は非常に複雑であり、それゆえ戦争・紛争の火種にもなりうるものということが分かります。池上氏は、「イスラム教徒は『すべては神様の御心において私たちは生かされている』とする考えを大切にし、クルアーンで人びとが守るべきことを伝えている。きちんと守っていれば、死んでからも地下で眠り続け、世界が終った時に蘇り、よいことを積み重ねていれば天国で永遠の命が与えられるとされている。クルアーンの中には1日5回のお祈りやよく知られた断食(ラマダン)、豚肉やお酒の飲食の禁止など厳しい戒律が記載されています。女性は大切にしなければならず、美しい部分は家族以外の男性に見せてはいけないとベールやスカーフで隠しています。厳格なイスラム教徒であるサウジアラビアでは女性は体全体を隠し、インドネシアやマレーシアは厳格さがなくなりスカーフ程度と、同じイスラム教でも地域により異なる」と指摘しました。

昨今、ISの凶行により、イスラム教徒全体への風当たりが強くなっていますが、池上氏は「どの宗教にも極端な考え方を持つ人はいる。イスラム教徒以外でも宗教戦争は起きている。世界には約16億人のイスラム教徒がおり、そのほとんどの人は平和な生活を望んでいる。皆さんはこれから世界のいろいろな国を訪れ、世界の人たちと出会うでしょう。彼らは何らかの宗教を信じており、君たち日本人が『自分は無宗教である』といえば、彼らは驚き、君たちを危険人物とみなすのだということを知っておいてください。そして、いろいろな宗教をあるがままに受け入れる多様性を認めることが、これからの国際化時代に求められることです」と結び、大きな拍手が湧き起こりました。

生徒からの質問に、「いい質問だな~」とおなじみのフレーズが飛び出した!

約50分間の講演の後には、生徒から質問があり、その一つ「宗教にとってよい行動は誰が決めているのでしょうか。また、人はなぜ宗教というあいまいなものを信じようとするのですか」という質問に対して、「いい質問だな~」とテレビ出演でよく聞くフレーズが飛び出し、会場から拍手と歓声が上がりました。「神の教えは絶対であり、人間が理性や論理でそれをよいこと悪いことと判断することではない」「私たち日本人は無宗教と言いつつ何かあると『神様、仏様お守りください』とお願いし、お守りを大切にもする。そういったものが宗教心ではないかと思う。善い行いをする人が必ずしも幸せにはならない世の中で、死後は天国で幸せになれるに違いない、悪人はきっと地獄に落ちているに違いない。そう思うことで私たちの心が安定する。人間の弱さが宗教を生み出してきたのだろうと私は思っている」ととても丁寧に答えてくださいました。
参加した生徒に感想を聞くと、「普段の生活の裏には何があるのか、先入観をもたずに考えたいと思った講演会でした」(10年生女子)、「イスラム教に対してよいイメージを持っていなかったが、今回の講演を通して、深く知るということが大切なんだということに気づかされました」(10年生男子)。
池上氏は、つねづね「複眼的に見ると視野が広がり、立体感が生まれる」と話しており、イスラム教やISなどについても、誕生の経緯を知り、ユダヤ教やキリスト教との比較をもって、彼らと彼らの国、宗教の理解に役立つことを学ぶことができました。第一線で活躍するジャーナリスト・池上彰氏のお話は、玉川学園9-12年生の生徒の記憶に強く残り、将来グローバルに活躍する場面でも大いに役立つことと思います。