礒村宜和 研究室

礒村 宜和 脳科学研究所 教授

神経科学/神経生理学  博士(医学)

多細胞活動計測と光操作で神経回路の仕組みと働きを探る

2013.9掲載 2018.4更新

研究内容

礒村研究室では、動物の行動発現を担っている大脳の神経回路における情報処理の仕組みと働きを、独自の行動学的、電気生理学的、光遺伝学的手法を駆使して探っています。例えば、ラットが前肢でエサをつかんで食べるとき、いったい脳の中では何が起こっているのでしょうか? 皆さんの教科書には、大脳皮質が形成する「運動指令」が脊髄へ伝わり骨格筋を収縮させて随意運動を実現する、と書かれていることでしょう。しかしながら、大脳皮質の一次運動野のなかでは、どのような神経細胞が、どのような信号をやり取りして、どうやって「運動指令」を形成するのか、そもそも「運動指令」というものの実体は何なのかさえ、まだまったく解明されていないのです。

礒村研究室では、動物の行動発現を担っている大脳の神経回路における情報処理の仕組みと働きを、独自の行動学的、電気生理学的、光遺伝学的手法を駆使して探っています。

例えば、ラットが前肢でエサをつかんで食べるとき、いったい脳の中では何が起こっているのでしょうか? 皆さんの教科書には、大脳皮質が形成する「運動指令」が脊髄へ伝わり骨格筋を収縮させて随意運動を実現する、と書かれていることでしょう。しかしながら、大脳皮質の一次運動野のなかでは、どのような神経細胞が、どのような信号をやり取りして、どうやって「運動指令」を形成するのか、そもそも「運動指令」というものの実体は何なのかさえ、まだまったく解明されていないのです。

そこで、私たちは、ラットの前肢運動を制御する大脳皮質や大脳基底核の神経回路の仕組みを明らかにすることを当面の研究目標に掲げています。具体的には、まず独自に開発した行動実験装置(特許取得)を使って、前肢でレバーを適切に操作すると報酬を得られる運動課題をラットに効率よく学習させます。

次に、ラットが前肢運動を発現しているときに、傍細胞(ジャクスタセルラー)記録法、マルチニューロン記録法、オプトジェネティクス技術などを組み合わせて、大脳皮質(一次・二次運動野、海馬など)や大脳基底核(線条体など)の神経細胞の発火活動をミリ秒単位で計測・操作します。さらに、得られた実験データに理論的な解析を加えて、大脳皮質や大脳基底核の神経回路が運動指令を形成する過程をさまざまな視点から丹念に調べ上げていきます。

これまでに、運動の準備と実行の各局面に運動野の全層が関与すること、介在細胞の多くは運動の実行を調節する働きを持つこと、錐体細胞や介在細胞の間に強い同期的発火がみられること、運動の準備と実行に関連した異なるガンマ波活動がみられること、大脳基底核の2つの主経路で運動情報が報酬期待による修飾を受けること、などの新知見を報告してきました。

従来の脳科学研究は、脳活動を「平均」することにより、脳機能の「局在性」をあぶり出す方向に進んできました。しかし、脳活動は時々刻々とダイナミックに変化していますし、単一領域ごとではなく多領域ネットワーク全体が情報処理を担っているのは今や疑いありません。私たちは「静から動へ」「点から線へ」という視点を大切にして、研究手法を洗練し、高度な理論的思考を取込み、多少の失敗を恐れずに、真のオリジナリティを追究したいと考えています。

研究体制

礒村研究室は、2010年4月に脳科学研究所において塚田稔名誉教授(現在)の研究室を引き継ぐ形で研究活動を開始しました。 私(礒村)の助言のもと、大学院生とポスドク研究員数名が、各自の研究課題に沿って立案した実験に日々取り組んでいます。また、実験補助員2名と秘書1名が研究活動を日常的に支えてくれています。

研究室のスペースは十分に広く、マルチニューロン記録装置や二光子レーザー走査顕微鏡などの最新の実験装置や動物飼育室を含む実験施設も完備しており、基本的に1人1台の実験セットアップをとことん使いこなして大量の実験データを蓄積していきます。実験データは効率よくコンピューター処理された後に、実験者自らが標準的な生理学的解析を施して、研究の方向性を定め結論を導いています。必要に応じて、酒井裕研究室の協力を得て高度な理論的解析も実施しています。また、木村實名誉教授と大脳基底核の意思決定の仕組みに関する共同研究も進めています。

知識よりも論理力を育むディスカッションを大切にしており、礒村研究室、酒井裕研究室、相原威研究室、鮫島和行研究室の合同で月に数回開かれる「Sゼミ」では、最新論文を巡って徹底的に議論して研究者の感性を磨きます。木村名誉教授が主宰する大脳基底核機能研究会では、国内の第一線の大脳基底核研究者と緊密な連携を保っています。このように、実験と解析の技術を一通り習得し、実験と理論の融合を体感する指導カリキュラムが特色となっています。

とはいえ、徹夜続きの困難な実験と解析の日々、なんてことは決してありません。四季折々、お花見やBBQやたこ焼きパーティーなどの楽しい行事も企画して、適度に息抜きしつつ次なる実験への英気を養っています。ぜひ一度、礒村研究室を訪ねてみてください。

略歴

1996年大阪大学医学部医学科卒業、2000年京都大学大学院医学研究科博士課程修了。京都大学博士(医学)。同年東京都神経科学総合研究所・CREST研究員/日本学術振興会特別研究員(米国Rutgers大学Buzsaki研究室にて在外研究活動も)。2005年理化学研究所脳科学総合研究センター・研究員、2008年副チームリーダーを経て、2010年より玉川大学脳科学研究所・教授。専門は神経生理学。所属学会は日本神経科学学会、日本神経回路学会、Society for Neuroscienceなど。