松田哲也 研究室

松田 哲也   脳科学研究所 教授

臨床神経科学/精神神経科学/神経生理学  博士(医学)

脳から人の個性を探る

2017.3掲載

研究内容

これまでの脳科学研究は、対象となる事象に対して、人によって働く脳の領域が違うのではなく、“脳は同じように働く”という前提で研究が進められてきました。それは、脳科学研究が視覚や聴覚といった感覚系の機能を対象とした研究から始められたことにあります。例えば、目の前の“縦の白い直線”を脳でどのように処理をして“縦の白い直線”と認知できるのかという研究であれば、“脳は同じように働く”と仮定しても問題ありません。しかし、ある人が好きな音楽をみんな好きとは限りませんし、食べ物も好き嫌いがあります。学問でも、文系型、理系型といわれるように、向き不向きがあったりします。このように、脳は人により違った使い方をしているわけです。これは、遺伝子、経験、環境、性別など様々な要因が考えられます。もし、人がみんな同じ考え方、感じ方をするような脳をもっていたら、種の発展はありえません。そこで、松田研究室では、脳から“個性”を探っていきたいと思っています。これまでの研究から、人と人の違いをもっと知ることが必要だと思うようになりました。

現在、人の脳の詳細な構造・機能を計測する技術の開発が進んでいます。動物では、神経細胞レベルの構造マップ作成が世界各国で進められています。人の脳を生きた状態で詳細に調べることは難しいのですが、近年MRIの撮像、解析技術の開発が進められ、個々のレベルで脳のネットワーク(領域間の繋がり)を調べることが可能になってきました。個人レベルでの脳の詳細な構造マップを調べ、さらに脳活動マップを重ねることで個人ごとの神経回路の違いと働きの違いを調べることができます。

好み・嗜好の形成のメカニズム研究

コンビニやスーパーで飲み物を買いたいと思った時、A という飲み物に手を伸ばしたのにも関わらず、やはりB という飲み物に変えているときがあります。このように、行動選択における価値は、絶対的価値を表現しているのではなく、身体内環境や外部環境により変化しています。つまり、意思決定メカニズムの理解には、スタティックな情報処理だけではなく環境が時々刻々と変化するダイナミックな情報処理という視点からアプローチする必要があります。その観点から行った最近の研究成果の一つとして、顔選好課題を用いた心変わりのメカニズムに関する研究があります。日常的に経験する気持ち(意思決定)の変化、すなわち心変わりがなぜ起こるのかを明らかにする研究を行いました。

このように、同一個人内でも好みは変動します。その変動させるものは何か? また、人によって何に影響を強く受けるのか? このような好みの形成の個々の違いについて検討していきます。

個と集団内での自己の位置づけと役割に関する研究

私達は、集団に属するとその集団内での自分の立ち位置を分析し、自分の役割を見出すことができます。例えば、親分肌の人はその集団を纏めようと働きますが、親分肌の人がもう一人いた場合はどちらかに任せる必要もでてきます。このように、集団内で自分の役割も場合により変ります。そこに柔軟な社会性が要求されます。集団の社会的分析、他者の思惑などを理解する非言語によるコミュニケーションと社会認知、さらに集団の役割を変化させる脳の役割などから、社会の中での個々の違いについて検討していきます。

研究体制

松田研究室は、基本的に博士研究員と大学院生が中心となって研究を進め、秘書さんが事務的なサポートをしてくれます。現在は、教授と特任准教授を中心とした体制になっています。特に実験体制については、効率的に実験を行うことができる体制を整えています。被験者の募集については、被験者希望者のデータベースを構築しており、研究者が実験したい日時に被験者を担当のスタッフが手配します。さらにMRI については、専属のスタッフが被験者対応とスキャンを行います。そのため、研究者は自分の研究・実験に専念できます。

また、カリフォルニア工科大学の下條信輔教授と社会性、潜在認知機能に関する共同研究を行っています。必要に応じてカリフォルニア工科大学でミーティングを行うこともあるので、英語でのプレゼン、ディスカッションが必要な時もあります。このような世界トップレベルの研究機関との共同研究を通じて、国際性を含めた教育を行っています。また、国内の様々な大学、研究所とも多数共同研究を進めています。

脳科学は、医学系の学問と思われがちですが、心理学、工学、生命科学、理学などさまざまな領域の学際領域研究によって成り立っています。

興味がありましたら、まずは研究室の見学に来てみてください。

略歴

1998年玉川大学文学部教育学科卒業、2000年玉川大学大学院工学研究科修了(修士(工学))、2004年東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科修了(博士(医学))。米国ボストン大学心理学部リサーチフェロー、玉川大学助教、准教授を経て、2015年より現職。2011年から2013年まで文部科学省研究振興局(科研費担当)学術調査官、2016年から文部科学省研究振興局(ライフサイエンス担当)学術調査官。2013年から日本医療研究開発機構「革新脳」プログラムオフィサー。所属学会は、日本神経科学学会、日本精神神経学会、日本生物学的精神医学会(評議員)、日本神経精神薬理学会(評議員)、Organization of Human Brain Mapping、Society for Neuroscience など。