小島佐恵子先生第4回 大学は地域住民からどのように見られているのか

2016.08.09

 6月26日・27日、追手門学院大学で開催された第19回日本高等教育学会において、科研費で行った調査の分析結果を共同で発表しました1。発表のテーマは、地域住民の大学に対する現状認識と役割期待を探るというものです。これまでにも大学と地域社会の連携や大学の地域貢献の強化は、重要な政策課題であるため、大学と地域社会の連携は高等教育研究の重要なテーマとして掲げられてきました。しかし、地域が大学の地域貢献をどのように評価し、何を望んでいるかについては十分に把握されてきませんでした。そのため、今回は、2013年から開始されたCOC事業(地(知)の拠点整備事業)と2015年から開始されたCOC+事業(地(知)の拠点大学による地方創生推進事業)に3年連続で採択された都道府県のうち、政令指定都市のある県を除いた東京近郊の群馬県および山梨県を選定し、調査を行いました(発送数2,400件、2016年1月発送・2月回収、回収率32.6%)。
 今回の調査では、回答が「大学は地域の発展に役立つ教育研究を行うほうがよい」(42.7%)「大学は国や世界の発展に役立つ教育研究を行うほうがよい」(50.3%)にほぼ二分されるという面白い結果が出ました。山梨県では、大村智先生がノーベル生理学・医学賞を受賞されたことの影響があったかもしれませんが、地域住民の大学への期待が二分されたことは興味深いことでした。また、「経営が厳しいとしても、地域から大学がなくならないように、国や自治体は補助金を増やして維持していくべきだ。」(54.9%)など、地域の大学の存在を支持する層が半数以上いることは、大学にとって心強い結果となりました。
 このような地域の大学への期待について、調査票からは「①地域の教育機会の拡大」「②地元企業との連携推進」「③地元への定着促進」という3つの意見を読み取ることができました。続いて、これらを規定している要因について分析すると、共通した点が3つありました。1つ目は先述した「地域の発展に役立つ教育研究を行うほうがよい」という「地域志向」。2つ目は「地域の大学への関心度」の高さ、3つ目は「大学の教育・研究活動はよくわからない」という意見でした。また、「②地元企業との連携促進」以外については、「高卒」であることが正の影響力を持っていました。このことから、大学は地域のためにあると考えている人、そして地域の大学に関心を持っている人、また大学の教育・研究活動はよくわからないと思っている人ほど、地域の大学に期待しているということが明らかになりました。とくに興味深かったのは、①と③について、他の学歴を持つ者よりも高卒者が大学に期待を持ったという点です。大学に行った層ではなく、大学に行っていない層が地元の大学に対して教育機会の拡大や地元への定着を望んでいるということは、注目すべき点だと思います。
 学会発表ではさまざまなご意見をいただきましたが、いずれにしても、大学から地域住民へは、よりわかりやすい情報発信が不可欠であると言えそうです。今後より分析を進め、成果をまとめていきたいと考えています。

  1. 「地域住民の大学に対する現状認識と役割期待-COC、COC+事業地域の調査より-」(杉谷祐美子・小島佐恵子・白川優治による発表)。本発表は科学研究費補助金(基盤(C))「大学教育の現状認識・社会的意義・役割期待に関する実証的研究 -地方都市部を中心に」(研究代表:杉谷祐美子)の成果の一部です。