石井恭子先生科学的探究を考える

2021.01.12

乳幼児期における思考力の育ち

2017年に学習指導要領が改定され、幼児教育から初等中等教育までの子供の育ちと学びの連続性が強調されるようになりました。特に幼小連携については、幼児期において「自発的な活動としての遊びを通して育まれた力」を踏まえた円滑な接続ができるよう、「幼児期の終わりまでに育って欲しい10の姿」が明らかにされ、小学校の各教科の学習指導要領解説にも付録として載せられています。

幼児期の「自発的な活動としての遊びを通して育まれる」とはいかなる営みなのでしょう。

保育所保育指針解説1 には、「身近なものと関わり感性が育つ」の事例として、乳児が何かに手を伸ばして「振ったり、床にうちつけたり、手から離れて転がっていくのを追いかける」などを通して、「音や形の変化に驚いたり、面白さを感じたりして、次はこうしてみよう、こうしたらどうなるだろう、と子供なりの遊びを発展させていく」事例を示しています(p.120)。乳幼児期から、好奇心を持って自分から周りの世界に働きかけ、その変化に心が動き、さらに働きかける、という探究が起きているのです。

図1 乳幼児の遊びの発展

幼稚園教育要領解説2 にも、上記「10の姿」の「思考力の芽生え」の中で、砂場で遊んでいる幼児たちが、ふとした発見から水の流れに興味を持ち、失敗したり話し合ったりしながら繰り返し試して遊びが発展していく事例が掲載されています(p.59)。

どちらも、図に示すような心の動きで、探究がスパイラルに発展していることがわかるでしょう。示されています。遊びの中でのこうした探究のプロセスは、園のあちらこちらで見かけられることでしょう。できた!と見せあったり、うまくいかない時に、アイデアを出し合ったりする友だち、先生のヒントなどによって、遊びのスパイラルは豊かになります。

科学的探究のスパイラル

Karen Worthは、こうした幼児の遊びを科学的探究と意味づけています。ものに出会い、驚いたり触ったりして行動を起こします。その反応を見て疑問を持ち、より焦点化された探索を行うようになっていきます。結果を見て、パターンや関連する条件を探して、新たな調査に取り組み、また観察して考え、取り組み、ということを繰り返していくのです。こうした探索のプロセスを図2のようなサイクルで示しています3

この図とよく似た図が、高等学校の理科に示されている「資質・能力を育むために重視する探究の過程のイメージ」図3です4。高等学校でも、本来はこうした授業を行い、予測困難で複雑化した課題に協働して取り組む力を育むことが求められていると言えます。

科学的探究は、年齢を問わず、一直線に進むのではなく、いきつ戻りつ、思考と表現を繰り返し、また他者との関わりによって展開していくことが読み取れます。こうしたスパイラルが豊かになるよう、保育者も教師もどのような働きかけをすれば良いのか、たくさんの事例研究から学んでいきたいと思います。

図2 幼児の探究サイクル
図3 資質・能力を育むために重視する探究の過程のイメージ
  1. 保育所保育指針解説
    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000202211.pdf
  2. 幼稚園教育要領解説
    https://www.mext.go.jp/content/1384661_3_3.pdf
  3. Science in Early Childhood Classrooms: Content and Process
    https://ecrp.illinois.edu/beyond/seed/worth.html
  4. 高等学校学習指導要領解説理科編理数編
    https://www.mext.go.jp/content/1407073_06_1_2.pdf