近藤先生:子どもの健康と成育環境についてVol.1:全国調査からみた30年の変化

2014.01.09

私の専門は公衆衛生学(保健学)の中の母子保健・小児保健なので、子どもたちの健康の現状や取り巻く環境との関係について考えることが研究テーマのひとつである。大学生の頃は、重金属や発がん物質などの環境変異原が細胞にどのような遺伝的な影響を及ぼすかについて、顕微鏡下で研究していた。大学院でも研究テーマは同じであったが、修士課程2年生の時に、主任教授が国から委託された全国の子どもたちの健康に関する調査の集計・解析を手伝う機会を持ち、顕微鏡の世界から、人間が育つ現実の世界にも目を向けることの大切さを実感した。
その時の全国調査は「幼児健康度調査」という名称で、第1回目の1980年から10年ごとに継続されており、2010年で4回目の実施となった*。現在では調査の実施主体は日本小児保健協会であるが、私も委員として引き続き調査に携わっている。このコラムでは、その調査結果の中からいくつかの項目をとりあげることで、昭和後期から平成にかけて30年間の日本の子どもたちの健康や成育環境の変化をたどってみたいと思う。

幼児健康度調査の概要

幼児健康度調査は1980年以降10年ごとに実施されている。対象になる子どもたちは満1歳から7歳未満の未就学の幼児である。分析対象数は1980(昭和55)年15,045人、1990(平成2)年9,500人、2000(平成12)年7,364人、2010(平成22)年5,097人と年を追って減少している。これらの対象は厚生労働省が10年ごとに実施している乳幼児身体発育値調査(母子健康手帳の発育標準値の元データとなる)と同じであり、全国の国勢調査地区から毎回一定の割合で地区や世帯を選んでいる。従って、調査対象を作為的に減らしているわけではないので、対象数の減少傾向からも、わが国の少子化が進んでいることがうかがえる。

両親の高齢化(グラフ参照)

両親の年齢について、母親については、1980年には20歳代が47%であったのに対し、2010年には20%に大きく減少していた。一方、40歳以上は1980年の2%から2010年は11%と顕著に増加が認められた。父親についても同様の傾向であり、全国的な晩婚化、晩産化の流れの中で、幼児期の子育てを担う両親も年齢が上昇していることがわかる。

核家族・ひとりっ子の増加

核家族の割合は、1990年68%、2000年74%、2010年77%と増加しており、特に父方祖父母との同居率が減少している傾向が認められた。
 ひとりっ子の割合は、1980年25%、1990年25%、2000年31%、2010年32%と30年間で増加していた。5-6歳だけをみると、1980年8%、1990年7%、2000年13%、2010年14%であり、年長児の1割以上はきょうだいがいないということになる。

  • 幼児健康度調査についての詳しい結果は、以下をご参照下さい。
  • 衞藤隆、近藤洋子、松浦賢長、「幼児健康度に関する継続的比較研究(第4回幼児健康度調査)」平成22年度報告書、平成22年度厚生労働科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)、2011年3月
    上記報告書は、日本小児保健協会HP幼児健康度調査(http://www.jschild.or.jp/book/pdf/2010_kenkochousa.pdf)から入手できます。
  • 保健の科学「特集 第4回幼児健康度調査について」第55巻8号、2013年8月、杏林書院発行