長野先生:「授業設計」に基づく授業の構築Vol.4:授業設計の手順と技能

2014.03.03

「計画」から「設計」へ

図4. 教授活動のモデル

上述のような基本的な考え方に立って授業の全体を設計するためには、まず、授業あるいは「教授活動」にはどのような活動が含まれているかを明らかにしておかなければならない。
教師の教授活動は、極めて多様で複雑であるが、それを基本的・原則的なモデルとしてまとめれば、図4のように表すことができる。このそれぞれの段階が、授業設計に必要な技能となる。

教師の教授活動の第1段階は、「授業目標」を設定することである。教授活動は、常に目標を持った活動であり、何を学習させようとするのかが授業の目標となる。
その目標は、学習指導要領等に基づいて用意されることが多いが、現実の具体的な目標を設定するのは教師の重要な役目である。この目標は、検証可能な明確な形で、しかも妥当性のある目標を設定することが重要である。
第2段階は、授業の対象となる生徒について、教師が授業を行なう以前の状態を調査することである。何らかの方法で「事前調査」をすることによって、授業目標に対する生徒の実態を把握する。
授業で意図している目標に、既に大部分の生徒が到達していることがわかるかもしれない。
逆に、かなり多くの生徒が、前提となる学習事項を十分に達成していないことがわかるかもしれない。いずれにしても、そういう場合には、授業目標の変更を迫られることになるであろう。図4で、生徒の実態調査のところから、授業目標の設定に向かつて矢線が出ているのはこのことを示している。
第3段階は、「授業方法」を決定することである。吟昧の上設定された授業目標を、生徒にどのようにして達成させるかの具体的な方法や技術を考える段階である。
どのような教材を用いて、どのような内容をどのような配列で、どのような形態のもとで、どのような教具やメディアを用いて、どのような技術で生徒に働きかけるかを決定することである。
さて、このようにして決定された授業目標及び授業方法の設計は、通常、「学習指導案」の形にまとめられることになる。これが、第4段階の作業である。
第5段階は、設計に基づいて、生徒に対して直接に働きかけることである。いわゆる「授業」を行なうことである。
具体的には、教師が説明や発聞をしたり、指示や助言を与えたり、演示をしたり、討論や練習問題をさせたり、叱ったり誉めたりすることである。教師によるこういった教授活動と、それに応ずる生徒の学習活動が有効に行なわれることによって、生徒の学習が現実に成立することになる。
教授活動モデルの最後の段階は、評価である。ここで「生徒の評価」というのは、何らかの基準や観点によって生徒を分類することである。通常、評価と言えば、一般にはこの意味で考えられることが多い。
このモデルでは、もう1つ、「教授活動の評価」となっていることに注目する必要がある。
教授活動の評価というのは、生徒に実際に特定の学習が成立したかどうかを基準にして、教授活動の全体を評価することである。そして、その評価の結果に応じて、教授活動の一つひとつが検討され改善されていくことになる。図4で、「教授活動の評価」から前のすべての段階に矢線が戻っているのは、そのことを示している。
教師の責任において生徒に学習の成立を保障しようとすれば、授業の設計及び授業の実施の仕方そのものを評価することが欠かせないのである。
以上が、教授活動のモデルである。モデルの5段階目は、実際の授業場面における「授業実施者」として必要な技能であるが、他の段階の内容は「授業設計者」として必要な技能である。
教授活動モデルの説明に即して、授業設計者がしなければならないことをまとめると、次のように整理することができる。

① 学習指導要領やカリキュラムに書かれている漠然とした目標を、授業の目標として明確に設定すること。
② 授業の対象となる生徒の特性を明らかにすること。
③ 授業の目標を分析して必要かつ十分な下位の目標を選び、それを生徒に学習させる順序を決定すること。
④ 下位目標を学習させるための最適な刺激事態を選択し、それを操作する方法を決定すること。
⑤ 授業を評価する方法を決定する。また、授業の効果が十分挙がらなかった場合に、設計を修正する方法を考えること。


授業設計の結果は、通常、学習指導案の形式に書き表される。学習指導案には、その教師の授業設計が反映されている。従って、指導案を検討し合うことによって、授業設計の妥当性を吟味することもできるわけである。