「道徳の教科化」について

2013.07.09

周知のように、政府の教育再生実行会議は小中学校での「道徳の教科化」を提言し、現在検討が行われています。ある調査によれば、道徳の教科化に関する賛成の割合は、一般人84%、教員や教育関係者21.8%、市区町村教育長23.1%という状況です。(※日本道徳教育学会第81大会「プログラム・発表要旨集」p96 2013年) ここで注目したいのは、一般人の賛成者は多いのに、教育関係者は極めて少ないという結果です。道徳教育の教科化に一般の人たちの賛成が多いのは、おそらく道徳教育の重要性を意識した結果であると思われますが、では教育関係者は道徳教育を重要とは考えていないのでしょうか。

道徳教育の教科化について議論する場合には、現在の道徳教育の構造を理解しておかねば意味がありません。学校における道徳教育は、昭和33年に「道徳の時間」が特設されることで、二重の道徳教育がなされています。つまり、あらゆる学校教育活動の中で道徳教育を行い、さらに週1回の道徳の時間でそれらを「補充・深化・統合」するというものです。従って、国語や社会などの教科内でも道徳教育を行えますし、さらには朝の会、帰りの会、休み時間、給食の時間、掃除の時間、運動会、修学旅行等々あらゆる学校教育活動の中で道徳教育を行うことができます。そして、これらの単発的な道徳教育を補完しさらに深みのある道徳教育にするため週1回の道徳の時間がプラスされています。このように、こんにちの学校における道徳教育はいついかなる時間にも可能なのです。教育関係者は、こうした現行制度を理解しているが故に、道徳をわざわざ教科化しなくても現状で事足りるという意識につながったと思われます。

もしすべての学校教育活動において道徳教育が可能なのにその成果が上がらないのであれば、それは制度上の問題としてだけではなく、むしろ現場教員の道徳に関する指導力の問題として考える必要もあります。仮に、道徳が教科になって週1回の道徳の時間が週2~3回に増やされたとしても、教員が何をどのように教えてよいのか分からないのであればとても成果があがるとは思えません。さらに道徳が教科になれば、他の教科で道徳を教える必要はなくなる訳ですから、全体で考えると道徳教育にかける時間数は実質的には減少するという可能性もでてきます。いずれにせよ、道徳の教科化について議論する際には、教員の道徳的指導力の問題を抜きにした単なる制度上の議論にならないように気をつけたいものです。

(教授 山口意友)