竹田先生Vol.7:入門期の作文指導③―自らの体験を話す―

2016.05.18

入門期の作文指導では話題の豊かな学級づくりに心がけるようにします。そのために担任もできるだけ子どもたちに向かって自分の子どもの頃の体験などを機会あるごとに話題にするようにします。
1年生を担任した5月の頃、子どもたちに次のような話をしました。

「あっ クレヨンが…」
1年生に入学して、初めて買ってもらったクレヨンを学校へ持って行く日のことでした。前の晩から枕元に用意しておいたビニル製の手さげ袋に入った新しいクレヨンを手に提げて勇んで出かけました。嬉しくてついスキップしながらつり橋を渡る途中、橋の底にわたした横木に足をひっかけてころんでしまいました。あまりに勢いよくころんだはずみで、手に持っていたクレヨンは袋からはみ出し、箱のふたもとれてそこいら中に散らばってしまいました。ひざをすりむいた痛さにも気づかず、あわててクレヨンを拾ったのですが、何本かは横木と横木の間からころがって川底に落ちていきました。勢いよく流れる川を見つめながら、涙がこぼれてしかたがありませんでした。

この学級には、自分から進んで発言することもなく、目立たない存在の女の子がいました。笑ったり頷いたりという反応が乏しく、表面的には担任や友だちの話にあまり興味を示していないように見えました。
しかし、翌日、その子のお母さんから次のような手紙をいただき驚きました。

「お母さん、竹田先生ね、1年生の時、先生がね、クレヨンを持ってきなさいと言ったので、お父さんとお母さんが買ってくれた大切なクレヨンを持って学校に行ったんだって。でね、つり橋を渡る時、転んで、その大切なクレヨンのね、赤と白を深い川の中に落としてしまったんだって。泣いたんだって。足から血が出ていたんだけど、それが痛くて泣いたんじゃないよ。大切なクレヨンを川の中に落としてしまって泣いたんだよ。私ね、とっても悲しかった。」と目にいっぱい涙をうかばせています。「でもね、涙がこぼれそうになったけど、私、ぐっと我慢したの、涙を出さないの。おうちでは、泣いていいでしょ。」
ベランダで植木に水をあげていて転んだりしましたが、今日は泣かず、「お母さん、ここがね転んでいたいの。でもね、私、こういうことでは泣かないの。」ずっと外で遊んでいて、家の中にいなかった弟に夕食の時、話して聞かせてあげていました。弟は、だまっているだけです。
私も胸にジーンときました。ありがとうございました。

私が大変驚かされたのは、この子は学校では本当におとなしい女の子で、休み時間などは好きな本を一人で読んでいることが多く、直接私に話しかけてくることなどほとんどなかったからです。学校から帰って、お母さんとこのような素敵な会話をしていたことなど想像もできなかったのです。
このお母さんからの手紙は、私に自分の子どもの見方がいかに表面的であったかを教えてくれるきっかけとなりました。また、入学したばかりの頃の1年生の子どもたちは、あまり自分を表に出さない子であっても、実はその子らしいみずみずしい感性で学校生活を受け止め、様々なことに心を動かしているということに気付くことができました。
そして、改めて一人一人の子どもたちが、自分の思いや考えを安心して表現できる学級づくりを進めていくことの重要性を認識することができました。