山口先生Vol.4:物と人との関係(2)

2016.07.15

 我が国おいて、「物」ということばは、もともと「目に見えない霊魂」を表すものであったと言われています。それは、西欧とは対照的に「物」を「物体」としてではなく、魂をもつ「モノ」としてとらえようとするとらえかたであると言うことができます。皆さんも一度は聞いたことのある「唐傘お化け」や「化け提灯」などの付喪神(九十九神と記されることもあります)は、長い年月を経た「物」に魂が宿っている存在であるとされます。このことには、作った人や使う人の気持ちや思いが「物」に込められるということを含意されています。したがって、ここでは、「物」と人が、情感的な観点において関係づけられます。それゆえにときに、「物」は人と人とを繋ぐ架け橋となるのです。
私には、「物」を魂との関連において、「モノ」としてとらえる方がしっくりくるような気がします。私の「物を大事にしなさい!」という子どもたちへの注意は、「物体」としての「物」―すなわち、所有物であるからとか、消耗するからとか、邪魔であるからとか―を大切にして欲しいということを気づかせるためのものではありません。それは、「モノ」としての「物」―すなわち、「物」自体の魂であるとか、「物」に込められた気持ちや思いであるとか―を大切にして欲しいという願いに他なりません。私たちがプレゼントの包装紙にまで気を使う細やかさもまた、「物」に込める気持ちや思いの現われなのでしょう。機械化された工場のなかで作り出される「物」に溢れる現代だからこそ、「物」を「モノ」としてとらえることが、より重要な意味をもつのではないかと思います。