山口先生Vol.8:マザー・テレサのことばとこれからの道徳教育

2017.03.06

 “正直を美徳とし、それを大切にしなさい”という教えの正しさに確信が持てなくなっていた長女を救ってくれたのは、彼女の大好きなマザー・テレサの“If you are honest, people may cheat you. Be honest anyway.”ということばでした。いくつかの日本語訳が紹介されていますが、「あなたの正直さと誠実さとが、あなたを傷つけるでしょう。気にすることなく正直で誠実であり続けなさい。」という邦訳を、長女はいちばん気に入っているそうです。正直であることは、他人を傷つける可能性をもつだけではない。それは、同時に自分を傷つける可能性をもっている。それでもなお、“正直であれ”とマザー・テレサは言っているのだと長女は話してくれました。
 しかしながら、私は、正直であることが他人を傷つけないことであると同時に、自分も傷つけないことでなければならないと考えています。2014年の中央教育審議会答申「道徳に係る教育課程の改善等について」では、「多様な価値観の存在を認識しつつ、自ら感じ、考え、他者と対話し協働しながら、よりよい方向を目指す資質・能力を備えることがこれまで以上に重要であり、こうした資質・能力の育成に向け、道徳教育は、大きな役割を果たす必要がある」と述べられています。「考える道徳」、「議論する道徳」への転換には、他人も自分も傷つけることのない「正直」についての探究の大きな可能性が秘められているような気がします。このような意味において、私は、これからの道徳教育への強い期待を抱いています。