井出先生:ことばの教育のABCVol.1:子どもの心に寄り添う教師のことば

2012.05.07
井出 一雄

ことばの要素には、思考、伝達、認識、創造の4つがあるといわれています。人間は自らの生活を営む上で、ことばによって考えたり理解したりします。そして、そのことを相手に伝え、新たな生活を創り出していくのです。このことばの4要素はどちらかといえば、個としての人間によることばの営みといえます。
ところが、学級の中の人間関係のように個と集団との関わりという状況になりますと、ことばには表出する人や受け止める人の個性、考えや好みが醸し出されます。つまり、ことばのもつ人間性という要素が加わるのです。
人間関係におけることばと学級の中の問題を考えますと、何気ない一言によって相手の心を傷つけてしまったり、逆に、他者から全然ことばをかけられなかったりすることがあります。現在の学級の諸問題を考えるときに、教師や子どもの発することばに着目することは、問題解決の一助になるのではないかと考えます。そこで、第1回は「子どもの心に寄り添う教師のことば」、第2回は「ことばに響き合う学級つくり」、第3回は「ことばから考える子ども理解」、第4回は「学級でのことばによる規律つくり」という内容で述べていきます。

子どもの心に寄り添う教師のことば

問題のある行動をした子どもに対して一律に「・・・してはいけない」と頭ごなしに叱ることは慎みましょう。子ども一人ひとりの思いは多種多様であるとともに、目的や場に応じての言動も多様です。そのようなときに、子どもの心に入り込み、その子どもの言動の原因を探る教師のことばかけには、細心の注意が必要です。
そこで、まず、教師としてしてはいけない話し方や訊き方を例示します。
(1) 問い詰めるような話し方
早く状況や原因を知ろうとするあまり、「それでどうしたの」「どうしてそんなことをしたの」と早急に追求する話し方
(2) 憶測や断定的な話し方
直接、関係のない過去の出来事を持ち出して話したり決め付けるような話をしたりして、教師の一方的な考えを押し付ける話し方
(3) 訓示的な話し方
「○○だからいけない」「皆に迷惑をかけていることが分からないのか」など、一般的に分かりきったことを繰り返し、理詰めで進めていく話し方
(4) ゆとりや間のない訊き方
(5) 子どもの話した内容を軽々しく扱うような訊き方
古来より、ことばは、「言霊(ことだま)」といわれ人の心が宿っているのです。教師は子どもの心に響き共感することばかけをするように努めましょう。子どもの心に寄り添う教師のことばかけについて次に例示します。
(1) 子どもの考え・悩みなどに耳を傾け、共に考えたり悩んだりするような語りかけ
(2) 子どもを一人の人間として尊重するような語りかけ、つまり、子どもが一人の人間として生きている、存在していることが実感できる語りかけです。
そのためには、(1)相手の気持ちを引き出す (2)相手が話した内容を繰り返したり再構成・要約したりする (3)常に「待ちの姿勢」で臨む (4)相手の気持ちや感情を代弁して表現する などの話し方を身に付けることが大切でしょう。