安藤先生Vol.3:『ザリガニで遊ぶ』→『ザリガニと遊ぶ』→『ザリガニになる』(その1)

2015.09.17

『ザリガニで遊ぶ』

→『ザリガニと遊ぶ』

→『ザリガニになる』

飼っていたザリガニの卵がかえった。ザリガニの子どもたちは、母ガニの腹足の毛に、肉眼ではみえない小さなハサミでしがみついている。「この小さな子どもが、どのようにして親を認識するのか」というのが、父親と九歳の娘の共同研究のテーマになる。課題解決の方法として、まず親ザリガニにくっついている子どもを絵の具筆ではき落とし、おとなのオスとメスを入れる。いったん両方にくっつくが、やがてメスのほうに群がる。
娘「足が違うのよ。」父はオスとメスの足を切って、水槽の中につるす。変化なし。
娘「メスのからだが必要なのかしら。」今度はヌマエビのメスを入れる。子どものザリガニがワンサとつく。父「エビの動き方、何かに似ているだろう。」とヒント。娘「そうね。ザリガニのお母さんのしっぽの動きに似ている。」そこで、さっき切っておいた足を動かしてみる。オスとメスの差はない。娘「動くものならなんでもいいのかしら。」というわけで、糸くず、糸、ビニール、歯ブラシ、電線など、いろいろなもので試してみる。糸くずが一番つきやすい。そこで、セルロイドの下敷きをザリガニの形に切り抜いて、毛糸を数本たらし、水の中でふると、子どもたちが集まってくるが、やがて数が少なくなってしまう。
父「ザリガニのお母さんをもう一度観察してみよう。」秘密は、メスの規則的な動かし方にあった。なんともいえないリズムがあり、一度ゆすってはしばらく休む休止期が大切なのだ。つかまるべき材質、動き、リズムの三者が、ぴたりとあったときだけ、子どもは親にくっついている。「パパ、もうわかった。ピアノに行くわ。」「わかってない。つづけなさい。」10分たち、20分たった。父親の方も腕がだるくなった。「もうわかったよ。」「わかちゃいない。つづけろ、つづけろ。」(続く)