佐藤先生Vol.1:研究生活と教員生活を振り返って 第1回

2015.10.14

大学3年の時に、初めて生成文法に出会いました。ノーム・チョムスキーというアメリカの学者が考えた文法で、これまでの伝統文法、すなわち学校文法とは全く異なった考え方でした。言語には普遍文法というものがあり、子どもはすべての言語に係る規則を獲得する力を生得的に備えている、という考え方です。そこで、子どもが気づいた文法を表せば、例えば私たち第二言語獲得を目指すものにとっても、分かりやすく言葉を学ぶことができるのです。
ただし、チョムスキー自身は教育にはあまり関心がなく、英語文法や英語教育などの応用部分については詳しく説明していません。一方、母語を獲得するプロセスについての話はとても興味深いものでした。どんな地域や言語環境に生まれたり育ったりしても、世界中の子どもたちは同じくらいの時期に言葉を獲得できる、すなわち、親は特に教えなくても6歳くらいまでには大人とほぼ同じ文法を獲得できるのは、生得的な能力を持っている証である、というのがチョムスキーの説明でした。また、親は文法を教えたり訂正したりしなくても、子どもは文法の規則に自然に気が付き、また訂正できます。例えば、2歳くらいになると、それまでfeetやwentと正しく話していた子どもが、footsやwented, goedなどと言うようになるのです。親は決してこのような単語を使わないので、子どもがある時期に、名詞の複数形や過去形の規則に気が付き、自らその規則に沿って単語を使い始めると理解できます。さらに、規則には例外があることに気が付きfeetやwentに自ら訂正できるというものでした。
3年生の時にこの生成文法に出会い、英語の様々な事象をこの文法を使って説明できないかと、生成文法に夢中になりました。そこで、就職などはしないで、大学院に行ってさらに研究を続けたいと思うようになりました。
ちょうどそのころ、初めてイギリスの大学に1カ月留学し、同じ年代の様々な国の留学生と寮で友達になりました。将来何になりたいかと聞かれ、「大学で英語を教えるのもいいかな?夏休みもあるし」と答えて、寮の仲間にひどく叱られました。「そんな安易な気持ちで教員になってはいけないわ!」私の転機でした。