山口先生Vol.3:教育の原点を探る

2015.11.20

前回お話しした( ̄ー ̄)な感じの顔が描かれた子どもの消しゴム、それは、子どもがイタズラをしたものではなく、母親がわざわざ描いたものだったのです。「顔を描いておくと大切にするし、落としてもすぐ拾うんだよ!」と言われたときは、頭をガンと叩かれた気がしました。言われてみれば、確かに、これを理論によって説明することが可能です。しかし、理論とは無関係に、子どもとの直接的な関わりの中で、これを直観的に見抜くことは、とうてい私にはできないことです。
 玉川学園の創設者である小原國芳先生は、『母のための教育学』という著書のなかで、「母は生の創業者であって、身も魂も母によって成るのです」と述べられています。このような母親の教育力について、科学的に証明することはできないかもしれません。しかし、そのことによって、母親の教育力を否定するのは間違いです。1998年版の「厚生白書」では、子どもが3歳になるまでは母親が子育てに専念すべきであるという3歳児神話が「少なくとも合理的な根拠は認められない」ものであるとされました。しかし、私たちの生活のなかでは、「三つ子の魂百まで」、「雀百まで踊り忘れず」といったことわざが、今なお脈々と受け継がれています。それはまさに、スペインの哲学者オルテガが「科学的真理」というものを日常の具体的な生活から遊離しがちで、未来に対する方向付けをもたないものとしていることにも通じていると思います。オルテガは、人間の本質を「よく在る」ことを願う存在であるとも述べています。子どもはよくなりたいと願い、母親がそれを信じる。ここに、教育の不動の原点があると言えるのではないでしょうか。