メルボルンの小学校視察に同行しました

2011.09.01

第1日目 Caufield校

Caufield校は、1872年に創立した伝統ある学校です。オーストラリアに4校、中国の南京に1校あります。カリキュラムマネージャーのジェイミー先生に案内していただきました。 まず、学校の概要を話していただきました。Caufield校は、Thinking of thinkingを大事に考えています。「考えるとはどういうことかを考える」学習です。教師が子どもにどういう発問をしているかに注目してほしい、と話されました。

まず、ART室に案内されました。パッと見て驚いたのは、掲示物の色彩色の豊かさです。そして、さまざまな作品が掲示されています。その中に仮面がありました。学習発表会で使う仮面の制作です。アフリカに関するものだったので、ふさわしいデザインを、模様を調べて描きます。そして、仮面にしていく段階で、いくつか調べた模様から選んでいく、という手順で制作します。

1年生のreadingの授業を拝見させていただきました。まず、ホワイトボードの前に車座になりました。ここで、インタラクションが始まります。 まず、絵を見せ、簡単な質問から広げていくという感じでした。Quarterという言葉について考えていました。しきりに先生が投げかけていたのは、「Tell me the story」という言葉です。子どもたちは、「青いリンゴが3個あります。赤いリンゴ1個があります。」といったように、話をします。その後、三つのグループに分かれて、それぞれの課題に応じた学習を進めていきます。パソコンで調べている子もいれば、文章のあいているところに単語を入れている子、オーディオの前で、リスニングしている子がいます。それぞれの子の実態にあわせて毎回、グループを編成しているそうです。

5年生の教室からはにぎやかな声が聞こえてきました。みんな料理をしています。ケーキを作っている子もいれば、巻寿司や生春巻きを作っている子もいます。これは、算数の授業なのです。調理をしながら、そこで出てくる単位について学ぶというものでした。こうやって、生活の中から算数に関連付けながら学習を進めます。算数の教科書を使って、系統立てて教える日本の算数とは対照的でした。 2年生による日本の文化の理解では、ゲストティーチャーとして参加させていただきました。井元さんと、日本の家や学校、歴史、家族についてのパワーポイントを用意し、簡単なプレゼンを行いました。驚いたのは、子どもたちからたくさん質問が出たこと。考える教育が浸透されていることがわかります。日本の人口やお金、主食など、質問が出ました。子どもたちは、Data chartで質問をあらかじめ、作成していました。 6年生は、Unit of inquiry-Spirits of Our Nation。歴史上の人物について調べて、最後は、その人物になりきって発表します。日本でいえば、織田信長になりきり、質問に応えるといったスタイルです。質問されることを予め考えておき、カードにかいておきます。箱に入れておき、質問者はその箱から、1枚カードをとって、質問をします。今回の授業では、質問の質について学びました。「はい」か「いいえ」か、もしくは、答えが一つしかないような質問はよくない、また、広がりすぎる質問もよくない、とのことでした。こうやって質問の内容まで、深く考えさせていることに驚きました。

1年生から順番に6年生まで、見ていきましたが、子どもに考えさせる授業を行っていたのがわかりました。日本では、算数を算数として教えますが、Caufield校では、生活の中で、生きる力を身につけるために、算数を学ぶというスタイルです。また、プレゼン能力をつけるために、さまざまなヒントを活用しているのがよくわかりました。また、シラバスがあり、学習を進める段階で、自分はどの位置にいるのかがわかるようになっていました。子どもたちの勉強の意欲が継続しているのもわかるような気がしました。 子どもたちの目の輝きを見れば、Caufield校の教育の素晴らしさがわかります。考える力を育てるメソッドがたくさんあり、その一つ一つが、どういった効果をもたらすのか、詳しくはわかりませんでしたが、「考える」学習を今後ぜひ、取り入れていきたい、と感じました。

2日目 Kelly校

Kelly校を訪問しました。郊外にある公立校で、高台にあります。グラウンドから見える景色は、格別です。 始めに、3年生の教室を訪問しました。算数です。4クラスあり、オープンで、お互いの授業の様子が見えるような教室配置になっています。数の大きさを比べるクラス、時計を読みとるクラス、グラフを読みとるクラス、棒で、図形を作っているクラスがありました。 その中で、私が注目したのは、数の大きさを比べるクラスです。まず、始めに、全員カーペットに座らせ、1から100までの数の表を読みとらせ、特徴を掴ませます。たとえば、縦の列は、すべて一桁目が同じ数字である、といった感じです。この後、グループに分かれてさまざまな活動を行います。四桁の数字のカードを順序よく並べるグループ。二桁の数字を並べかえるグループ。問題に取り組んでいるグループ。1桁の数字のトランプカードを使って、並べ替えて、最も大きい数字、最も小さい数字などを作るグループです。 Caufield校でも、こうしたグループ活動は行われていました。私は、どうしてこういった活動を行い、どういった効果があるのかを質問しました。 以下が答えです。

  • まず、少人数化にすることによって、子どもの理解度をつかみやすいこと。
  • あえて、到達度の高い子と低い子を同グループにすることで、お互いに効果があること。
  • 教師側が、一人一人に声をかけやすいこと。
  • さまざまなアクティビティを体験することで、理解度が深まること。

1人だけ、みんなと違う課題に取り組んでいる子がいました。百分率の問題に挑戦していました。これは、この子のIQの高さによるものだそうです。9年生(中学3年生)ぐらいの能力をもっていて、その子に応じた学習プログラムを与えているのだそうです。こういったところも、日本とは違うと感じました。日本では、能力が高くても、みんな平等の教育を受けます。個に対応した学習を与える、という点で参考になりました。

体育も見学させていただきました。グラウンドでは、5年生と6年生が体育をしていました。 ソフトボール、サッカー、ネットボールをしていました。快晴のもと、芝生で体を動かすのは、実に気持ちよさそうでした。その中で、ネットボールを見学しました。以前から、体育の研究をしていた私は、このスポーツを体育に取り入れたことがあります。ネットボールは、バスケットボールによく似ています。コートは同じですが、大きく違うところが三つあります。

  1. ボールを持ったら歩いてはいけない。(ドリブルもだめ。)
  2. ゼッケンに「GS」「GK」「C」といった背番号が書かれていて、それぞれ役割がある。
  3. バスケットゴールのリングだけで、バックボードがない。

(1)のメリットは、同じ子がずっとボールをもつことができないため、パスが多くなります。パスが多くなるということは、全員がボールに触れる機会が多くなるということです。(2)のメリットは、ポジションがあることで、責任が伴ってくる、ということです。「GS」は、シューターであり、「GK」は、ゴールを守ることになります。こうすることで、コート全体に広がる活動になりますが、運動量は少なくなるように思いました。(3)のバックボードがないことで、玉入れのような状態になります。ゴール下の動きも面白くなると感じました。実際に行っていたのは、高学年の女子でしたが、楽しそうに運動していました。

訪問した二つの学校は、共通点と相違点がありました。共通していたのは、思考を深めるための教室掲示がたくさんあったこと、そして、思考力を深めるための教室掲示が多かったことです。オーストラリアの子供たちは、とても素直に、そして意欲的に学習しています。「考える」ことを大切にしているオーストラリアと比べると、日本は、知識を高めることに重きを置いていることが分かります。知識自体、評価しやすいものであり、成果がわかりやすいものです。思考が深まっている、考える力がついた、というのは、なかなか判断しにくいものだと思います。日本人は、よく発言力がない、自分で意見を言うことができない、などと言われます。これは、オーストラリアで見たような教育がなされていないからかもしれません。知識を豊かにする、ということと、考える力をつける、という学習は、バランスよく行っていくのがいいのだと思いました。疑問をどう持たせるか、どのように探究していけばいいのか、といった内容を子どもとインタラクションを図りながら指導していくことの大切さを学びました。

「百聞は一見にしかず。」今回、案内していただいた堀田教授は、「見たことをいかに伝えるかが難しい。」とおっしゃっていました。今回視察させていただいて学んだことをもとに授業をデザインし、公開したいと思います。そして、自分の考えを伝えられることができる子どもを育成したいと思います。私にとって、このメルボルン視察は、かけがえのないものになりました。

今回、私たちの私事旅行による同行を許可していただいた堀田教授、そして、学校視察をコーディネートしていただいた関西大学の黒上晴夫教授に心より感謝致します。ありがとうございました。

(現職院生・高橋豪/I.S.)