学校法人 玉川学園 Puente 2011.06 vol.01
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玉川の生活には音楽が欠かせない。朝のあいさつから始まって、授業や昼食、放課後でも、生活の区切りには必ず歌を歌う。『愛吟集』の歌曲は玉川っ子の心身にしっかり沁み込んでいて、卒業生が集まると誰からともなく歌い出す。 大学生にとっての晴れ舞台が、毎年12月に行われる音楽祭だ。このときに、1年生全員でベートーヴェンの『第九』を合唱することが玉川の伝統となっている。 この年齢になると、人前で大きな声でクラシックを歌うことが面映ゆいという学生もいる。大学は学生が全国各地から集まっているため、玉川流の音楽教育になじみがない者も多い。しかし、最初は渋々だった学生も、練習を重ねるうちにその表情や歌声に変化が出てくる。音楽祭で見事に歌い上げ、仲間と抱き合って涙を流す光景は傍から見ても感動を誘う。長年、指導を担当している木下則文准教授(教育学部乳幼児発達学科)は「歌の素晴らしいところはその場にいる仲間と達成感を共有できることだ」と語る。 この春に教育学部を卒業した冨永友希さんは「皆が一生懸命になれたのは、先生の本気が伝わってきたから」と振り返る。教える側が手を抜けば、学生も真剣にはならない。木下准教授をはじめ教員が学生に本気で向かっていくからこそ、どんなに冷めた学生でも心を揺り動かされるのだ。 「課題曲が『第九』という一流の楽曲であることも大切な要素なんです」と、木下准教授は続ける。創立者の小原國芳は子供たちにスキーを教えるために海外から一流の選手を招いた。「本物」だからこそ、感じられること、学べることがあるとの考えからだ。この精神は玉川教育のすべてに通じている。 本物の歌を本気で合唱した経験は青春時代のかけがえのない思い出になり、後々の人生にも大きな意味を持つ。10年以上前に文学部を卒業したある女性は、母親の急死に打ちのめされていた。そんなときに、自分が舞台で歌った『第九』のビデオを見て思わず号泣したという。そして「私は生きていかなければならない」と、再び立ち上がることができたそうだ。彼女はその後、玉川大学の通信教育部で学び直し、現在は教師として活躍している。 「苦しいときほど、音楽の感動は人生の支えになる。歌にはそういう力があるんです。だからこそ、学生や子供たちには良い音楽体験をしてもらいたい」(木下准教授) 木下准教授のゼミでは地元の小学校を訪問し、演奏や合唱をともに楽しむボランティア活動を行っている。昨年ゼミに所属していた永富愛弓さんは「音楽の素晴らしさを子供たちにも知ってほしいとの思いで参加しましたが、実は歌っている私たちこそ学ばせてもらいました」と話す。 本気で歌うことを経験した学生たちが、子供たちに音楽を楽しむことを伝え、こうして思いがつながっていく。 中学部から玉川っ子の木下美樹さんも大学時代をこう振り返る。 「歌は1人でも歌えるけれど、皆で集まって歌うことに意味があります。これまでの人生や思いは人それぞれに違う。意見がぶつかることもあるけれど、それを乗り越えて一緒に歌うから、すごい力が生まれるのだと思います」 そして今日も、玉川の丘では子供たちの歌声が響いている。13vol.01

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