学校法人 玉川学園 Puente 2011.06 vol.01
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研究プロジェクト❷つながる記憶、そして夢が動き出すSpecial1光通信量子暗号とは何か。これを説明するのはかなり難しい。高校生にとっては、まさしく「?」の世界だろう。その光通信量子暗号の研究拠点が、FSTの2階にある。そこで彼らを待っていたのが、広田修教授と二見史生准教授の2人だ。 「皆はインターネットや携帯電話を使いますよね。もし、その情報が誰かに盗まれていたら大変だと思いませんか」と二見准教授は問いかける。 インターネットやメールなどの通信には、情報を守るための暗号技術が欠かせない。私たちが利用するネットショッピングやネットバンキングはもちろん、国防情報や企業の機密情報には最高レベルのセキュリティが必要だ。しかし、セキュリティは往々にして、いたちごっこ。現在、使われている数理暗号は、例えば「ABC」という情報を「CBA」と並べ替えて伝送し、受信側で「ABC」に変換する方法だ。現時点では安全だが、決してこれから先も万全とはいえない。 「そこで私たちが取り組んでいるのが、より確実に情報を守る独自の暗号技術なのです」(広田教授) FSTでは、2000年にアメリカで誕生した量子暗号「Y-00」をベースにした暗号技術を研究している。実はこの理論を確立したのが広田教授だ。Y-00はこれまでの技術と比べて、文字通りケタ違いに複雑な量子暗号で、暗号解読キーがなければ解読できない。二見准教授は、Y-00の優れた点について、こう解説する。 「特に優れているのは既存のインフラを利用できること。送信者と受信者の双方に専用の装置を用意する必要はありますが、今使っている光ファイバーをそのまま利用できるのです」 なぜ、今あるインフラを利用しながら、高度なセキュリティを実現できるのか。 光通信では光子という極めて小さな粒子の集団の光信号で情報を受信する。その光信号は基本的性質として光子単位の量子ノイズを持っている。例えるなら、電話の通話時のザーという雑音のようなものだ。普通はノイズを避けるためにいろいろな工夫をするが、玉川大学の暗号はノイズを逆手に取る。0と1の情報を4096の光信号に割り振り、複雑にして送るのだ。正規の受信者は暗号解読キーがあるため4096の信号から0と1を間違いなく受け取れるが、情報を盗む側は、量子ノイズによって情報が4096のどれかに変換されてしまい、どんな文章を送っているのかまったく分からなくなる。 FSTと玉川学園MMRC(マルチメディアリソースセンター)の間には実験用に光ファイバーが敷かれている。二見准教授はこの光ファイバーを使い、皆の前で通常のメールと玉川方式のY-00量子暗号を使ったメールの違いをデモンストレーションしてみせる。ためしにメールを送ってみると、前者はあっさり情報を盗み見ることができたが、後者は解読不能だった。これには3人ともびっくり。 「量子暗号の研究は世界中でも行われていますが、玉川方式は世界一の性能を持っています」と2人は誇らしげだ。 「自分たちがふだん学んでいる校内で世界一の実験が行われていたなんて!」と、3人は玉川6vol.01

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