私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 第16回講演会が開催されました

2016.03.09

2016年2月9日(火)~11日(木)に行われた第5回玉川大学脳科学リトリートにおいて、私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 第16回講演会が開催されました。本講演会では、中枢神経系への遺伝子導入技術を用いた観測と操作の世界的な先駆者である米国・Max Planck Florida Institute for Neuroscienceの安田 涼平教授に、最新の研究成果を紹介していただきました。

報告書

「Illuminating signal transduction in single dendritic spines」
安田 涼平 氏 (Max Planck Florida Institute for Neuroscience)

今回、特別講演として、Max Planck Florida Instituteの安田先生を招聘し、シナプス可塑性の分子メカニズムに関する講演を頂きました。安田先生は慶応義塾大学で物理学を専攻し、1998年にPh.Dを取得しております。その後、Cold Spring Harbor Laboratory の Svoboda研究室でポスドクとなり、2005年にDuke大学のAssistant Professorに、そして、2012年にMax Planck Florida Institute の Scientific Directorになり、現在に至っています。

安田先生は、学習・記憶の基盤と考えられているシナプス可塑性を支える分子メカニズムの解明に、10年来取り組んできております。2光子励起を使ったイメージングや分子操作は、今や当たり前の技術となりましたが、その技術を発展させてきた世界の先駆者の一人です。
神経活動に依存したシナプスの伝達強度や構造の可塑的な変化は、学習・記憶の分子基盤であると考えられています。2光子励起の技術が導入される前は、単一シナプスの操作や観測ができないために、複数シナプスの平均的な変化しか調べられませんでした。しかし、2光子励起の技術の出現によって、空間的に限局した範囲だけのイメージングや特定の物質放出が可能になり、単一シナプススパインの中のメカニズムが調べられるようになりました。
スパイン内のシグナル伝達に関わる分子は数百に及び、複雑な相互作用をしています。安田先生は、この複雑な分子相互作用の中から、シナプス可塑性につながるカスケードで本質的な分子を見つけ出し、その分子を2光子イメージングにより可視化しました。そして、光遺伝学を用いてそのカスケードの経路をブロックしたり、2光子励起による局所的な物質放出でその働きを操作したりして、その分子の関与の仕方を証明してきました。その結果、神経活動からシナプス可塑性に至るまでに、持続時間が異なる段階が少なくとも2段階以上存在し、その間の階層的なカスケードによって、構造変化を伴うような最終的なシナプス可塑性に至っていることを示しました。

十余年に渡り、着実に積み上げてきた成果をわかりやすく短時間に講演して頂きました。特に、本質的な対象を見つけ出し、その対象を同定して定量的な観測をおこない、その対象を操作して因果関係を示す、という物理学では当然の姿勢を神経科学でも貫き通していることを具体例と共に示してくれました。私立大学戦略的研究基盤形成支援事業における本プロジェクトでは、遺伝的な技術を使った操作をシステム神経科学に導入して、より踏み込んだ知見を得ようと試みています。個々のプロジェクト遂行のために直接役立つ具体的な技術だけでなく、全体で共通に重要となる姿勢、哲学を学ぶことができ、有意義な講演会となりました。


報告者 酒井 裕(玉川大学脳科学研究所)