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【脳科学研究所】良い人は感情的に行動する? 利他的な人と合理的な人の意思決定メカニズムの違い -英国科学雑誌"Scientific Reports"に論文を発表-

2016.02.16

玉川大学脳科学研究所の坂上雅道(さかがみまさみち)教授とAlan Fermin(アラン・ファーミン)研究員、山岸俊男特別研究員らは、利他的な人と合理的な人の意思決定メカニズムの違いを明らかにしました。
本研究成果は、英国の科学雑誌“Scientific Reports”(オンライン版)に2016年2月15日午前10時(英国標準時間)に掲載されました。

掲載論文名

Representation of economic preferences in the structure and function of the amygdala and prefrontal cortex
(扁桃体と前頭前野の構造と機能における経済的選好の表現)

世の中には自分の利益を最優先にする人もいれば、他者の利益まで考慮する人もいます。
資源を分ける際、自分と他者の利益それぞれにどの程度重みを置くかによって、その人が自己志向的か他者志向的かといった「社会的価値志向性」を測ることができます。
この志向性は人間行動の様々な側面に影響するとされていますが、脳の形態的特徴や活動とどのように関連するかは、これまで十分に検討されていませんでした。
本研究では人間の脳のうち、意思決定と関係する扁桃体と背外側前頭前野という2つの部位に着目し、異なるタイプの社会的価値志向性を持つ人の間の、これら2つの脳形態の違いや、他者と協力するかどうかを決める際の脳活動の違いを調べました。

その結果、自己志向的な人は、思考や計画性に重要な役割を果たすと考えられている背外側前頭前野が大きく、感情や情動の生成に重要な扁桃体が小さいという特徴がありました。さらに他者に協力するかどうかを決める時は背外側前頭前野が強く活動していました。
逆に、他者志向的な人は、扁桃体が大きく、他者に協力するかを決める時には扁桃体が強く活動していました。
本研究は世界で初めて社会的価値の志向性の違いが、扁桃体や背外側前頭前野の形態的特徴や活動の違いと関連することを指摘しました。
本研究の結果は人々の行動の理由を理解する時には、「どう行動したか」だけではなく、「どのような人がどう行動したか」も考えなくてはならないことを示しました。

【実験方法】

事前の質問回答によって自己志向的と他者志向的に分類された大学生男女総勢33名(男性:15名 女性:18名)が機能的磁気共鳴画像撮影装置(fMRI)を用いた脳機能イメージング法やvoxel based morphometry (VBM)の実験に参加した(図1を参照)。

参加者は、匿名の相手とペアになりお金のやり取りゲームを行った。参加者が先に相手に協力するかどうかを決め、その後、相手が参加者の決定を知った上で、参加者に協力するかどうかを決めた。
「協力」を選ぶと、自分がもらえるお金は減り、その2倍の金額が相手に渡る。相手に協力しないと、自分がもらえるお金を手元に残しておくことができた。
互いに協力し合うと互いにより多くの利益をもらえることになるが、自分の利益を優先したり、相手に裏切られたりする(自分は協力したのに相手が協力してくれない)ことを恐れる場合は「協力しない」を選ぶ方が一般的とされている。

<図1> 実験に用いた課題の模式図

【実験結果】

<図2> 扁桃体と背外側前頭前野の脳活動

自己志向的な人よりも、他者志向的な人がより相手に協力した。左側の扁桃体の体積は、自己志向的な人よりも他者志向的な人の方が大きく、また、全体を通してその体積が大きいほど協力的に振舞った。
一方、右側の背外側前頭前野の体積は、自己志向的な人の方がより大きかった。また、左側の背外側前頭前野の体積が大きい人ほど非協力的だった(図2を参照)。

相手に協力するかどうかを決める直前の脳活動を比べたところ、他者志向的な人は扁桃体が、自己志向的な人は背外側前頭前野がより活発に活動し、またその活動の上昇も速かった。こうした違いは相手に協力した場合に限らず、相手に非協力した場合にも見られた。
さらに、他者志向的な人たちは、相手に非協力した場合だけ、行動の後に背外側前頭前野の活動が上昇した(図3を参照)。

<図3> 社会的価値志向性毎の行動(「協力する」「協力しない」)別の脳活動

【実験の成果】

この研究成果は、人々が持つ社会的価値の志向性の違いは脳の扁桃体と背外側前頭前野の大きさと活動の仕方に現れることを示した。同じような行動をとったとしても、自己利益を重視するかどうかによって、脳の中では違う意思決定のプロセスが働いていた。
本研究の結果は人々の行動の理由を理解する時には、「どう行動したか」だけではなく、「どのような人がどう行動したか」も考えなくてはならないことを示した。

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