量子情報科学とは?

現代の情報科学は1948年頃N.Wiener,C.E.Shannonらによって創設された通信と情報に関する数理理論を基盤として成り立っています。現在の社会はこの情報技術の恩恵によって様々な利便性を享受しています。しかし、科学理論はいずれ、その役割を終え、新しい科学に引き継がれます。情報科学もまた、次世代の情報科学に発展する宿命にあります。その次世代の候補として、最も有力な情報科学は量子情報科学です。量子情報科学は情報の科学の原理と物理学の基本原理を融合させ、新技術の創世を目指す学問として、1963年ごろにその萌芽的な研究が行われました。初期の研究課題はN.Wiener,C.E.Shannonらの理論体系に量子力学の原理を統合する量子通信理論を体系化することでした。この研究からSqueezed状態の理論と応用が生まれ20年にわたり活発な議論が行われました。これは現在、テレポーテーションの研究として継続されています。1980年代には暗号技術と量子通信を融合する量子鍵配送が発明されました。今日BB84と呼ばれています。しかし、残念ながら、これらは現実の社会において実用化は困難であることが解ってきました。

一方、同じ頃、コンピュータの概念に量子力学を融合する量子コンピュータの研究がスタートしました。この量子コンピュータの実現は極めて困難ですが、実用性に関してはまだ結論が出ていません。このように、現時点では量子情報科学は期待されたほどの成果を生み出していません。このような状況において、2000年頃から新しい方向性が提言されました。それは光通信と数理暗号と量子力学を融合させて、現代光通信網のセキュリティ技術を創世するものです。基本的な数理体系は1970年代から20年の間に体系化された量子通信理論と、数理暗号の数理によって構成されます。すでに、これによってKeyed communication in quantum noise(KCQ原理)と呼ばれる新量子暗号が提案されています。その実現法はY-00プロトコルと呼ばれ、試験装置が現実の光通信ネットワークで運用されています。

量子情報科学はまだ若い学問であり、過剰な期待は慎むべきと考えられています。量子コンピュータ、量子暗号などを生み出す画期的な科学であるなどの過剰な宣伝が目立ちますが、机上の空論となる危険性もあり、研究者は上記の歴史的な事実を見極め、慎重に研究する必要があります。

(参考文献:広田 修 著、量子情報科学の基礎、森北出版)