玉川のアクティブ・ラーニング 12

リベラルアーツ学部リベラルアーツ学科 下村恭広准教授の授業

身近な日常を異なる視点で考える姿勢を養っています。

下村恭広 Yasuhiro Shimomura
早稲田大学第一文学部哲学科社会学専修卒業、同大学院博士課程修了。専門は都市社会学。2011年から現職。著書に『キーワードで学ぶ知の連環』(玉川大学出版部・共著)など

リベラルアーツ学部の特徴的な取り組みの「プロジェクトセミナー」は、学生が各教員の指導のもと、ゼミ形式で自分のメジャー(専攻)を深める授業です。私のゼミでは、例年1つのテーマで共同研究を行います。今年は「階層と都市」で、東京を題材に研究を進めています。

東京には山の手と下町の間で明確な経済格差があります。武士の住む山の手、町人や職人の下町という江戸時代の棲み分けが形を変えて残っているのです。近年は下町の再開発で人口流入や景観の均質化が進み、地域間の格差がさらに変質しています。

私たちは、まずデータから東京の格差を考えました。学生が行ったのは、平均所得、生活保護率、最終学歴など、官公庁発表の統計データを収集し、それらを地図やグラフに落とし込むことです。階層分布を視覚的に把握後、グループによるプレゼンテーションを行いました。区ごとの「中学生の虫歯被患率」と「所得額」といったように、複数のデータをつき合わせ、学生は階層に関する仮説をデータから練り上げます。

授業には、グループワークやディスカッションなどの手法を取り入れている。また学生に主体的に考える力を身につけて欲しいという思いから、講義形式の授業の際も問いかけを重視している

アクティブ・ラーニングの手法のひとつである、フィールドワークにも力を入れました。例えば富裕層が住むエリアとのイメージがある港区ですが、高台には高級住宅街がある一方、一段低い谷地には木造住宅が並び、都市空間が階層的に構造化されていることがわかります。現地を歩いた学生は、階層分布に土地の高低差という地理的要素がいかに関わるのかを実感できたようです。

また表象文化を通して階層を理解するため、高度成長期の映画、『いつでも夢を』を鑑賞しました。階層上昇を目指して夜学に通う若者の挫折を織り込んだ作品です。鑑賞後は、「人は不平等な現実をどう受け容れているのか?」といった問いかけをして、自分に引きつけた理解を促しました。

とはいえゼミの目的は階層調査だけではありません。人々の考え方や生活習慣、世間にあるイメージの形成過程を探り、当たり前を支える条件を考える姿勢を養うことこそ大切なのです。港区でのフィールドワークもそのトレーニングのひとつです。

社会学には従来と異なる角度から日常を考える姿勢が欠かせません。この姿勢を学生が身につけられるように、私自身、今後も多角的なアプローチで学びの場をつくっていきたいと思います。

視点を変えて考える姿勢が身についた

林千夏さん、高橋大輝さん

下村准教授が板書にまとめた社会学的なキーワード。これらを踏まえ、学生はグループでデータについて意見交換する。議論の結果は、プレゼンテーションで仮説として発表、全員で共有する

授業で観た『いつでも夢を』は、工員として働きながら夜学に通い一流企業を目指す若者が、学歴がネックで不採用となるものの、気持ちを切り替えて生きていく――というストーリー。私はこれまで、「人生は自分が決めるもの」と思っていました。でも映画から、人生には階層や親の職業など、社会的要素が絡んでいることを実感しました。個人と社会の関係を考える姿勢を身につけられる点で、とても有意義な授業だと感じています。
【3年 林千夏さん】

港区を皆で歩いたフィールドワークが印象に残っています。区の歴史や地形について先生から解説を受けた後、六本木から虎ノ門周辺を巡ったのですが、再開発を間近に控えた「虎ノ門・麻布台地区」を訪れたときは、「ここがホントに港区なの?」と驚いてしまいました。古びた木造住宅群が高層ビルの谷間に広がっているのを見て、港区に対するイメージが大きく変わりました。視点を変えることで新たに見えてくる景色があることに気づかされました。
【3年 高橋大輝さん】

学びのDATA

下村准教授による「プロジェクトセミナー」では、3年次に社会学の研究手法や思考プロセスを修得。4年次は各自がテーマを設定、研究の成果を卒業論文にまとめる。今年度は「データ収集と整理・フィールドワーク・表象文化(映画など)」を軸に、の情報を地図に反映させる。複数のデータを研究を進めている対照しながら、仮説の糸口をつかむ

学生は専用のアプリケーションを使って統計の情報を地図に反映させる。複数のデータを対照しながら、仮説の糸口をつかむ

2017年度下村ゼミの取り組み

  • 官公庁の統計の数字をもとに階層分布を明らかにする
  • 街を歩いて、地形や街並みを調査する階層と都市をテーマにした
  • 階層と都市をテーマにした映画や文学など表象文化に注目する

2017年7月18日取材
『全人』2017年12月号(No.822)掲載