『全人』2010年3月号 No.737より

2010.03.01

今月号はカラーページを増刷し、昨年11月26日、横浜アリーナにおいて盛大に行われた「創立80周年記念玉川学園の集い」を誌上で再現しました。在校生、ご父母、同窓生、教職員のほか、6カ国から13校の提携校やご関係者を迎え、約8,400人が一堂に会した集い。昭和4年の開校から80年を振り返り、さらなる夢に向かっていくことを確かめあった当日の模様を豊富な写真で紹介します。
学園ニュースでは、4月から開設される大学院脳情報研究科について解説。玉川大学グローバルCOE主催特別シンポジウムのパネリスト講演抄録第2回は坂井克之先生の「意思決定の鍵を握る報酬の多次元性」。「玉川の先輩を訪ねて」では鴨川市の教育界で活躍する長谷川孝夫氏にインタビューしました。

2010年3月号目次

意思決定を専門とする脳研究者である坂井克之・東京大学大学院准教授

脳科学では、報酬とは「人間に行動の変化を起こさせるもの」と定義されています。たとえば、美人とすれちがって目で追ってしまうのも、異性を報酬と見なしたからこそ起こった行動の変化と考えられます。（略）つまり、感情も報酬のひとつになりえる可能性があると考えるべきでしょう。しかし、やっかいなことに報酬となる感情は非常に複雑で、人によっては同じものが報酬になったり、ならなかったりもします。たとえば、推理小説やサスペンスドラマを見て「ほほう、そう来たか」と、どんでん返しのストーリーに快感を覚える人がいる一方で、水戸黄門のような予想通りの結末が訪れるワンパターンドラマを見て満足する人もいます。
報酬となる感情には、相反するもの、多次元なものが含まれるから極めて複雑なんです。測定もできないし定量化もできない。さらには価値や情動というのは人それぞれで違っている。そう考えると報酬と脳の関係は答えの出ない不良設定問題と言っても過言ではないでしょう。

「意思決定の鍵を握る報酬の多次元性」 p14
鴨川市教育委員会教育長を務め、小中一貫教育に取り組む長谷川孝夫氏（71年卒）

「教師と学生が一緒になって学べる、いい大学があるよ」と先輩に紹介されたのが、玉川へ進もうとしたきっかけでした。玉川は、私の原点。いい時代を過ごしたと思います。4年間の塾生活でずいぶんやんちゃもした学生時代だったのですが、國芳先生から、「服装は人格を宣言する」などと言われたことなどはよく憶えています。
また、「10万坪の土地がほしい」とおっしゃっていたのを思い出します。玉川はもう十分に広い敷地をもっているのになあ……と当時は呆れたものですが、今になって先生の気持ちがよくわかる。広々とした敷地で、教師も子どもも地域の人々も交ざり合って、一緒に多様な経験を重ねていく。そのためには、小学校は小学校、中学校は中学校と分けてしまうのではなく、まるごと教育を語り合い、実践できるような場があってこそだと思うんです。

「玉川の先輩を訪ねて53 長谷川孝夫」 p26