学校法人 玉川学園 Puente 2014.06 vol.04
5/48

Puenteたまがわ│05■ Special Talk│玉川の教育 これまで、そしてこれからも失敗続きでしたし、企業では失敗のためにいろいろな方に迷惑をかけることも多かったのです。しかし、「失敗を繰り返さないためにはどうすべきか」という意味では、失敗から多くのことを学びました。的川 私は「日本の宇宙開発・ロケット開発の父」と称される糸川英夫研究室の最後の弟子ですが、糸川先生は失敗の捉え方が普通と違います。そもそも「目標に向かって絶対やり遂げる」と強い信念があるので、渡邉先生と同じように、失敗すると何かが解ると言っていました。つまり、失敗を克服すれば次の高い段階へ行けるのです。「未知の分野で失敗を乗り越えて少しずつ少しずつ目標に向かって進んでいるんだから、それは失敗じゃない」と常々言っていました。もしも失敗して意気消沈しているだけなら、そこから学べるものは何もありませんからね。渡邉 なるほど。研究者として楽天的であることはとても重要だと思います。「最後は成功できる」「最後は何とかなる」という気持ちがあると、失敗の受け取り方がガラリと変わりますね。的川 そうですね。目標を必ず達成しようという意思は大切です。初めから全部がうまくいくと思わないことも大切だし、障害を当然のように受け止めることも大切で、失敗を乗り越えて再びチャレンジすることにつながります。近年「想定外」という何が起きるか分からないこと示す言葉が流行っていますが、宇宙の分野は100年近く想定外のことに悩まされてきました。悩まされた分だけ、リスクへの備えが蓄積されてきた経緯があります。奇跡の帰還で大変に注目を集めた「はやぶさ」プロジェクトについても、チームのメンバー全員が想定外のことが起こるんだと共有していました。それがプロジェクトチームの強さの源で、そう考えていれば、考え付かなかったような対処法もひねり出すことができる。「失敗をバネに次のレベルに進む」「想定外に備える」ことの大切さを「はやぶさ」から学びましたね。渡邉 失敗を前提にしていろいろ考えることは重要ですね。今の日本は、社会全体が失敗に対する許容を小さくしているように思い、とても残念です。的川 宇宙開発初期、1960年代の宇宙飛行士は、失敗を恐れない野性的な冒険家タイプが多いんです。一方、最近は非常にスマートなタイプが多い。アポロの頃の宇宙飛行士は、自分は半分以上の確率で死ぬだろうと覚悟をもって飛んでいますが、未知の分野に挑むには失敗しないようにと考えていたら乗り越えられなかったでしょう。だからこそ、日本の農業を変ようと失敗を恐れずに挑戦を続けているLED農園に、私は大いに触発されて希望がわいてきました。渡邉 日本の宇宙研究・開発を牽引してこられた的川先生にとって、研究に打ち込む原動力を教えていただきたいと思います。的川 1969年、アポロ11号の月面着陸は覚えていますか。渡邉 はい、その時のニュースは覚えています。翌年の大阪万博ではアポロ12号が持ち帰った月の石を見るために行列に並びました。あの頃の宇宙研究は、それはそれは夢があふれていたと覚えています。的川 私は人類初の月面着陸を御茶ノ水の喫茶店のテレビで見ていました。私たちは20数kgしかない人工衛星を打ち上げるために懸命なのに、アメリカでは月面着陸まで到達している。ロケットを研究している者にとって、世界中の人と同じように感動して見守りつつも、悔しさが込み上げてくる、複雑な気持ちだったと強烈な印象として残っています。でも、その悔しさがロケット研究を追究するバネになりました。大学院の最後の年、日本初の人工衛星「おおすみ」の打ち上げにやっと成功しました。現役を退くまで30機ほどの打ち上げに関わり、1t、2tという大きな人工衛星を打ち上げられるようになっても、わずか24kgの「おおすみ」の打ち上げ成功が一番うれしかったと、いまだに思っています。「おおすみ」成功まで苦労しましたが、その後の日本の人工衛星打ち上げは順調で、一つ一つの人工衛星にブラックホールの研究など、宇宙研究を積み上げて。その中で思いもよらぬ事件になったのが、「はやぶさ」だったのです。一番うれしかったのが「おおすみ」なら、「はやぶさ」はそのプロセスで一番おもしろかったといえますね。渡邉 日本の宇宙開発に携わっていらした的川先生ならではの、とても興味深いお話ですね。「うれしさ」の点で、私にも同じような経験があります。この研究で、LEDを用いて最初に栽培したレタスはわずか2、3株だったのですが、赤や青の単色の光でも十分に育つことを実証できました。私の専門は植物生理学なので、LED光の波長のコントロールが植物の成長や味、品質に大きく影響を与えることがイメージできた瞬間で、狭い面積で自動化した野菜栽培、宇宙開発への活用、医薬品開発への応用などにつながると、目の前がワッと広がった感覚を覚えています。的川 ブレークスルー、壁を突破した時の出来事が一番印象深いですね。研究だけでなく、人生においても原動力になりうる出来事ですね。渡邉 いろいろな可能性が頭の中にイメージとして広がる時のワクワク感、「いける!」という感覚が、力となるのですね。困難を乗り越えて可能性は無限に広がる*1*2「はやぶさ」プロジェクト――太陽系誕生の謎の解明を目的に、小惑星「ITOKAWA(イトカワ)」からの物質サンプル採取のミッションを遂げ、7年越しの奇跡の生還を果たす。*1人工衛星「おおすみ」――1970年2月11日、日本初の人工衛星の打ち上げに成功。本格的科学衛星打ち上げのための模擬実験機で、2003年に落下するまで地球を周回。*2

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です